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「……んで、ここに!?」
言葉にならないのか、声を掠らせる会長。その目は大きく見開かれていて、驚いているのが明らかに見て取れた。けれど、そんな会長の様子も気に掛けず、にっこりと笑みを浮かべながらちぃくんは話を続けた。
「お前が呼んだんだろ?」
「は!? お、俺ですか!?」
「会長って、大崎だろ?」
「う、ぁ、はいっ、俺ですけど!?」
混乱したままの会長が、しどろもどろに応答する姿がおかしくて、私と真理亜はくすくす笑う。
「琴莉? 会長なんだろ? 俺誘ったの」
ニッと笑ってちぃくんはそう尋ねてきた。例によって、名前で呼ばれるとドキドキする私は、指先をもじもじさせながら、何度か口をはくはくと動かしてから、落ち着きなく答えた。
「は、はぃいっ」
まともに返事が出来ず、舌を噛む。それにくすくす笑われて、ちぃくんは私の頭をひと撫でする。その優しい手つきに目をきゅっと瞑って開くと、私たちの様子を目の当たりにした会長が、さらに目を見開いていた。
「ほらな? お前も会長なんだから、しっかりしろよ?」
なんて言って、会長の肩をポンポンと叩くちぃくん。もう目が点状態で放心している会長は、その肩に置かれた手を見てようやく気が付いたようで……
「まさか、ことりちゃんの!?」
「彼氏、呼んだだろ?」
そう言いながらちぃくんの腕に引き寄せられて、私はまたドキドキした。私をドキドキさせるのが得意なちぃくんは、至ってすまし顔。そして、いつも飄々とした会長は、焦り顔。
私はただ赤い顔をどうすることも出来ず、かといって引き寄せられた距離をどうすることも出来ずに、アワアワしていた。
「せんぱーい、メンバーそろったんで入りますよー」
真理亜がそう声を上げたのを聞いて、慌てて背筋を伸ばした会長。なんとか現実に目を向けて、気持ちを切り替えようとしている感じがする。
「よ、よしっ! いざ、しゅつじーんっっ!!」
なぜかやけくそ気味にテンションを上げて、施設へと突入した。ちぃくんはというと、かつて見たことないくらいの穏やかな笑みを浮かべている。
「行こうか、ことちゃん」
私の肩から手を離して、すっと右手を差し出してくれた。そんないつもと一緒だけど、いつもとは何か違うお穏やかさを浮かべるちぃくんに私はわたわたする。
「あ、は、はいっ」
どうにもその微笑みが怖い気がするものの、嬉しそうにするちぃくんに不安を抱きながら私は差し出された手を取った。勿論私にはちぃくんが会長を牽制していただなんて、私は全く分かっていない。
そんなこんなで男女それぞれ更衣室に入り、無理矢理選ばれた水着姿になった私たち。真理亜は着替えた私を見ると「コト可愛いー!」なんて言ってくれたけど……
この姿をさらすこと以上に、未だかつて恥ずかしい体験なんてしたことないと私は思う。それほどに、この姿は私にとってはチャレンジャーな水着だった。
真理亜はいい。
スタイル良くて、出るとこ出てるし。
美人だし、卑下するとこなんてないだろう。
でも私は?
ちびだし。
スタイルはどう考えたってよくはない。
太ってはないけど、ただ貧弱なだけ。
大好きなちぃくんは……見つめるだけでもまだドキドキするのに。この姿を見られるなんて、まだ目の前にいないのにすでに倒れそうだ。
パーカーのチャックをしっかり締めて、前を歩く真理亜を見てまぶしく思う。やっぱり、真理亜は綺麗だなって。なぜだか分からないけれど、また黒くて暗い気持ちがこみ上げてきた気がして、プルプルと頭を振った。
ちぃくんが――真理亜に見とれたりしたら、ショックだな、なんて。
そんなこと、思ったって仕方ないのに……少しばかり自分の中の醜い葛藤と闘いながら、繋がれる手が温かくて真理亜に嫉妬なんて馬鹿だ私、と勝手に落ち込む。しょんぼりしながら着いて歩くと、みんなの顔が見えた瞬間振り向いた真理亜に表情が暗いとツッコまれてしまった。
「コト? 何落ち込んでるの?」
「えと、いや、なんでもっ」
ぷるぷると頭を振るも、ジト目で睨まれて目が泳ぐ。長い付き合いの真理亜に、いつものことながら、私の中途半端な隠し事はばれてしまう。
言いたくはないけれど……どうしよう。
そう思いながらそろりと顔を上げると、真理亜の肩ごしにちぃくんと目が合った。
――わわっ。どうしよ。
居心地の悪い状況なのに、ドキドキしてきて、慌てる。ちぃくん、プールだからメガネ置いてきたんだ。それなのに私と目が合うってことは、コンタクトかな?
っていうか、うわーーっ。なんか裸眼のちぃくんは初めて過ぎて、緊張しちゃうっ。
赤くなる顔を隠したくて、私は真理亜からもちぃくんからも目を逸らしたくて俯いた。普段メガネの人が裸眼だと、どうしてこんなに威力があるんだろう? って思うのは、私がちぃくんを意識し過ぎてるせいなんだろうか。
ドキドキしながらきゅっと真理亜の手を握ると、コト? って不審そうな声で真理亜に呼びかけられる。
そんな私たちにひたひたと足音を立てながら近づいてきたちぃくんが、ゆるりと首を傾げて名前を呼んでくれる。
「ことちゃん」
真理亜の呼ぶ声が重なって、そっと顔を上げた。すると隣の真理亜は、私と繋いだ手をするりと放して、私の肩をちぃくんへと押した。
「じゃー、ちぃくんに交代しますねっ! コト、今日はちぃくんと一緒にずっと居るんだよー」
「へっ!? ま、まりあぁあっ」
突然二人にされて、ドキドキが加速していく。
はわっっ、ど、どうしよぉお……っ!!
「ことちゃん、どしたの?」
そう言って、俯き加減の私の顔をちぃくんが覗きこもうとしてくる。けれど、ちぃくんの顔をチラリと見えると、いつもあるはずのレンズがなくて私はバクバクが止まらなくて、きゅうっと目を瞑った。
「えと、えと、あの、め、めがっ」
なんだかわけがわからないくらい動揺して、噛み過ぎて話が出来なくなる。
もー、何でこんなにいつもと違うの!?




