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ちぃこと  作者: 桜倉ちひろ
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 もしかしたら、ううん、絶対に後で捨てると思う。

 それでもその瞬間に、くしゃって潰すんじゃなくて丁寧に半分に折って筆箱にしまってくれた心遣いが嬉しかった。

 だって考えたら、あんなにキラキラした可愛らしい付箋なんて持っていたくないはずだから……

 2度目に会って初めて、隣に座るお兄さんが、黒縁の眼鏡で黒髪の人だっていうことに気がついた。

 時計を見ると14時45分。私は慌てて最後の設問に取り掛かった。


 ――――――


 それ以降も私は自習室へと通い続けた。

 余程天気の悪い日は断念したけれど、それでも行けなかったのは2、3日程度。とにかく残りの僅かな時間も勉強しなくちゃと必死だった。

 その甲斐あってか、12月の全国模試は点数が上がっていた。

 あと数点でA判定ってところだったけど……評価としてはBだったので、やはり塾の先生には公立か私立どっちかしか無理だろうって言われた。

 ――分かってる、ちょっと背伸びしてるのは。

 でも、行きたい。志望校は変えたく、ない。

 その思いを抱えながら、私は寒い中また自転車を漕いだ。


 年末最後に来た自習室、久しぶりにお兄さんを見た。正確には、近くに座った……なんだけど。それだけでなぜだかドキドキした。 

 ほんと言うと、来てるかどうかいつも確認してた。

 けれど隣になることなんて無くて、その度に少しがっかりした気持ちになる。

 早く来れば良かったとか、もう少し遅かったら良かった……とか。

 でもそう思うのも一瞬で、席に着いてしまえば気持ちを切り替えて勉強を始められた。

 それが静謐な空間とやらの効果かもしれない。

 今日は35番。

 席札を確認していつものように準備をしようと椅子を引こうと思った時、向かいの25番にお兄さんが居ることに気が付いて目を見開いた。

 けれど、私と違ってお兄さんは私に気がついた様子はなくて。ただ黙々と問題集を解いて、下を向いている。

 ――赤い本って、確か本屋さんで大学受験のために置かれてたやつ、だよね?

 ふとそんな情報を思い出し、お兄さんが大学の受験生だってことだけ分かった。 

 チラチラ見てお兄さんのことをあれこれ詮索しながら、椅子を引いて小さくギギギギと音を立てて座って今日の課題を取り出した。 

 年末の締めに……と言っても、ここでの締めはってだけなんだけど、数学を持ってきた。ホント言うとちょっと苦手。3年の前半までは調子良かったのに、後半になって実力テストが多くなってきたら急に点数が採れなくなった。

 それで気がついた。基礎が曖昧なんだって。だから基礎勉強ばっかりしてる。だから余計にツマラナイ。けれど投げ出すわけにもいかなくて、ふぅっと息を小さく吐いてから問題集を開いた。

 今日は日曜日。

 いつもなら昼ご飯を家で食べてからここに来るから遅いんだけど、今日は食べずに来たからまだ午前11時過ぎだ。

 時間設定を12時半くらいと心に決めて、私は鉛筆を取りだした。


 12時を過ぎたあたりで、人がパラパラと外に出始めた。

 年末と言うこともあってか、今日の来館者は少ない。

 その上、お昼休憩で人が減るものだから、ほんとうにポツリポツリとしか人が座っていない。

 しばらくして人が減ったせいか少し寒く感じて、膝かけが欲しいな……と思ってふと顔を上げた。

 その時、目が合った。

 向かいに座るお兄さんも、あ、と私に気がついた顔をする。お互い目が合って、自然とにこりと微笑み合った。

 うん、なんか……いいかも。

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