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――――――
抱きしめた腕を解いて、ゆっくりと私の額から唇を離すと、お兄さんだった人。
たった今、私の彼氏になった人。
大好きな、ちぃくん……がふわっと笑って私を見つめた。
「行こっか」
「えと、どこにですか?」
「ことちゃん? いつまでもココ居れないでしょ?」
「あ……」
ココ、とはもちろんお兄さんの教室である3B。
私は先程、この高校に合格したことが分かって、4月からやっとこの学校の学生になる。
そんな私が、ココで、いつまでもちぃくんと一緒に居る訳にはいかない――よね。
それにまだ、渡せてないものもあるし。
ニヤリと笑って私を少しだけ見下ろすちぃくんを見上げて、私は「行きましょ、か」と、しどろもどろに言った。
「どこがいいですか? ことちゃん」
折角離れた額をまたコツンとくっつけてそう言うちぃくんはどこか意地悪で……私はそんなちぃくんに勝てるわけもなく心臓はドクドクとまた激しく打ち出した。
「ず、るい。どこ、とか分かんないの、知ってるじゃ、ないですか」
顔、近い……
バクバクと張り裂けそうな胸を押さえて、私は赤らめた頬を少し膨らませてちぃくんを見上げる。
「ハハッ、そうだな。琴莉……」
右手の親指でゆるゆると私の頬を撫でながら、私の名前を呼ぶちぃくん。
触れる指が、熱い――
「公園、行こう」
囁くように誘う声。
私はコクリと頷いて、ゆっくり離れるちぃくんに名残惜しさを感じた。
「ことちゃん、左手をパって開いて」
教室を出た瞬間、ちぃくんは私に指示をした。
手をパッ?
私は手のひらを上に向けて、パッと開くと、じーーっとその手を見つめた。
なんだろう?
手のひらを見つめる私に構いなく、ちぃくんは右手を重ねると、一本一本の指が絡むように私の手を握りこんだ。
「ちっさ」
悪口みたいに私の手を握りこんで言うちぃくん。
でも、顔が笑ってて嬉しそうだ。
いくら私でも、これが何を意味してるかくらいは分かる。
――手、繋ぐってことだって。しかも恋人同士で……
『恋人同士』って、自分で言いながらその言葉に恥ずかしくなって一人顔を赤くする。
繋がれた手も、熱い。
「繋いでもい?」
すでに繋がった手をぶらぶらさせて尋ねるちぃくん。
「もう繋いでるじゃないですか」
「だね」
私が鋭く口をとがらせながらツッコむと、笑いながら受け流された。
言い返したって叶わないのは、やっぱり歳の差?
口を尖らせて見上げると、ちぃくんは声を上げて笑いながら、まるで先生のような、指導者のような感じで諭すように説明する。
「俺の隣にいるときのことちゃんの左手は、これからここ。覚えとくように」
「はぁい」
恥ずかしいけれど嬉しいその指導に小さく返事をして、ギュッと力を込めて握り返した。
結果発表を見に来ていた中学生で溢れていた中庭には、すでに人は居なくなってっている。静かな校舎を歩きながら、私達は誰に見られることもなく学校を出ることが出来た……と思ったのに。
「こら、神楽!!」
あろうことか、この学校の先生らしき男の人に歩みを止められた。
「あ、山形先生お疲れ様です」
「おうお疲れ。――じゃ、ないわっっ。おま、その子は」
慌てるべきはちぃくんの方……な筈なのに、やけに堂々とした態度で。
反対の先生の方が、なぜか顔が赤い。
「彼女です、俺の」
ニコリと笑って、私の指と絡められたそれを振り回すと、嬉しそうな表情を浮かべた。
うーわー、お兄さん……じゃなかった。ちぃくん、こんな顔もするんだ――
そう感じるほどに、初めて見た嬉しそうな顔。
目じりが下がって口角は上がりっぱなし。
眼鏡をかけてても、その表情は一目瞭然って感じで、私の方が恥ずかしくなるほどだ。
しかしそう聞いた先生は、さらに悲壮感に漂う青い顔をした。




