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ちぃこと  作者: 桜倉ちひろ
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 塾の日は毎週月・水・金の3日。それから2学期が始まった9月からは土曜日も増えたから週に4日ある。 

 その間を縫って火・木と日曜日。この3日が私の自習室日となった。

 前回木曜日に行ったから、2回目の今日は日曜日。何時頃に行こうかと悩んで、結局昼ご飯を家で食べてから出発した。 

 時刻は14時。今日の座席は30番。3列目の1番端だ。

 2度目ともなるとちょっと余裕がある。

 相変わらず踏み入れた瞬間は、人がいるのにシンと静まりかえっていることに抵抗があるんだけど。いざ入ってみれば案外すぐに馴染むもので……前回のようにキョロキョロすることなく、私は30番の目星をつけてスタスタと歩いた。

 こないだは、両隣りに人が来たけれど、今日は端だから29番のお隣だけ。ちらりと見ると、私より少し年上っぽい男の人が座っていた。

 じろじろ見ずに、隣を気にすることなくコートを脱いで背もたれに掛け、椅子を引いて座ってから教材を広げる。 

 今日は大好きな国語。前回、全国模試で好成績だったから自信もついた。だから、勉強の勢いを付けるためにも、好きな教科で調子を上げてから……と思ったのだ。

 左側に辞書や教材を並べ、机の少し右側寄りに座る。時刻を確認すると14時10分。ここから時間を計って40分で解くことに決め、問題集に取り掛かった。

 案外……始めてみれば私の集中力も大したもので、周りのことなんて一切気にならずカリカリとだけ音を立てていた。

 時折気になる単語などは、その場で調べ確認する。ふと『た行』を開く途中で『静謐』の文字が出て笑いがこみ上げる。なんとか奥歯でその笑いをかみ殺して、辞書を引いた。 

 そうやって、どれくらいの時間が過ぎただろうか……

 コン

 と私の右ひじが当たった。

 うわっっ、やばっっ

 前回同様に慌てて顔を上げて隣を見る。そしてまた、すみませんっと言おうとしたその時。

 「しぃー」

 こないだと全く同じ口調で「しぃー」と咎められた。

 その声に

 「あ……」

 流石の私も隣が、45番でお隣だった彼だと気がついた。

 良く見れば足元に、こないだもあったクリアケースが置かれている。

 『しぃー』と言われた手前、どう謝ろうかと悩んだ私。けれど彼はそんな私を見ることなく、手元にある無地の黄色い付箋を引き寄せて何かをサラサラと書き始めた。

 それはもう肘が当たったことは無視して勉強を始めたかのようだったので、私はもういいのかと思って少しだけ左に椅子をずらした。

 ギギ

 座りながら横ずれしたら、やけに音が響いて嫌な感じがする。

 ふと右側から伸びてくる手。

 その先を見ると、彼がこちらを向いて片手で謝るしぐさをしながら先程の付箋を私に滑らせてきた。

 そこには『ごめん。俺左利きで……さっきまで空いてたからそっちより過ぎてた。悪い』って殴り書きだけど丁寧に書かれてあって、ふっと頬が緩んだ。 

 無視されたわけじゃないんだって思ってホッとする。

 ごめんって前置きして、最後に悪いって締めくくってあるあたりが妙に嬉しくて私も何か返事したいと思った。

 でも渡された付箋にはもう隙間がない。

 その付箋はなんだかくしゃくしゃにはしたくなくて、半分に折りたたんで筆箱に入れる。そして筆箱に常備している私のお気に入りのメモを1枚取って『いえ、こちらこそごめんなさい。こないだも……』と書いてそっと右へスライドさせた。 

 まさか返ってくると思っていなかったのか、お兄さんはビックリした表情を浮かべたけれど、メモを読み終えて私を見るとニコッと笑ってくれた。その笑顔に私もニコッと笑って返事をする。

 見ると私のメモを半分に折って、私と同じように筆箱にしまっていた。

 


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