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心臓が、壊れそう――――
そう感じるくらいにドキドキする。
ドキドキして落ち着かない私とは反対に、今までの表情を一転させてお兄さんは真剣な表情に切り替わった。そして私を閉じ込めたまま、静かに口を開く。
「やっと、聞ける。名前―――」
「あ……」
最後の日。
聞きたくて止めたこと。
あの時、お兄さんもそう思ってくれてたんだと思うと顔が綻ぶ。
願掛けの一つだった。
次に逢う時まで、名前を聞かないでおこうって。
お兄さんもそう思ってくれてたのが分かって、嬉しかった。
黙ってしまった私をさらにグッと引き寄せて「ホラ、言って?」って優しく尋ねてくる。
私はごくりと唾を飲み込んで、ゆっくりと自分の名前を口にした。
「池波琴莉、です」
初めての自己紹介。
初めての個人情報。
自分の名前なんて何度も言ってきたのに、すごくドキドキした。
そして私も尋ねた。
「お兄さんは?」
尋ねてからわずか1,2秒の沈黙が緊張を呼ぶ。
じっと見つめると、その唇がゆっくりと名前を形どって動いた。
「神楽千歳」
かぐらちとせ。
心の中でそう繰り返して、フフッと笑った。
「なぁに笑ってるの? ことちゃん?」
私の名前を聞いて、揶揄するように私をことちゃんと呼ぶお兄さん。
初めて。初めて呼ばれた、私の名前。
涙が出そうになるのを堪えて、私は言い返した。
私がことちゃんなら……
「笑ってないよー、ち、ちぃくんっ」
「ぶははっ! 何、ちぃくんって」
「えー、千歳だからちぃくんだよ」
「はははっ」
大きな口を開けて笑うお兄さんに、ううん、ちぃくんに私もつられてアハハと笑う。
やっぱり、ちぃくんの傍に居るのはとっても楽しくて幸せだ。
そう私が思った瞬間、グッと抱きしめられて、両手は私の背中に回された。ギュッとギュッと力を込めて抱きしめる腕。私を離さないって言うように。
そして……
「池波琴莉さん。俺と付き合ってくれませんか?」
優しく、囁くように耳元でそう告白してくれた。
夢にまで見た、言葉。
ただの願望で、そんなこと言ってもらえると期待できることなんてまるでなかった。
でもいつか……って何度も何度も想像した。
その度に苦しくなって、私は勉強するしかなかった。
それなのに、その夢が現実としてある。
あまりの嬉しさに、さっきは耐えた涙が零れた。
「わ、たし。中学卒業、したばっか、だよ? いいの? こんなお子様で」
言いたくもない事実が、なぜか自分の口から出る。
けれどそんな私の言葉を、ちぃくんはクッと笑った。
「バーカ、そんなの知ってるよ。ことちゃん」
そう言って顎を私の肩に乗せる。
一番気にしていた事実を、だからどうなんだと事も無げに一蹴されてしまった。
「早く返事っ」
私を急かすちぃくんに、また頬がにやついてしまう。
――もう、そんなのとっくの昔に決まってる。
重力に従ってだらんと落ちたままだった腕。
その腕に力を込めて、私もギュッと抱きしめ返した。
そして……
「はいっ。お願い、します」
お兄さんの耳元で、恥ずかしさを押し殺して精一杯の返事をした。
ドクドクと鼓動の煩さに落ち着かない私を少し離して、ちぃくんはじっと覗き込んできた。その瞳を逸らせずに見つめ返していると、一言一言を大事にしながらちぃくんが言ってくれる。
「好きだよ、琴莉……」って。
顔を真っ赤に染めながら、なんだか涙が出そうになる。
きゅっと手のひらで目じりを拭うと、その手を握りしめられた。
その手を掴んだまま、優しくて温かい笑顔を浮かべるちぃくんは、右手で私の前髪を払うと、そっと額にキスを落してくれた。
私も、好き。
ちぃくんが、大好き。
そう思いながら、ゆっくりと瞼を閉じた。
ちぃこと 1
終
25.11.14
ちぃこと1章完結です。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
次章の2は、この場面からの続きでいよいよことちゃんは高校生に、ちぃくんは大学生になります。
ほのぼのまったりした二人のこれからにも、お付き合い頂けると嬉しいです。
2章の更新につきましては、また来月半ば以降を予定しています。
しばらく期間が空きますが、懲りずに覗いてください☆
また更新の際には呟きますので、宜しければフォローお願いします。
桜倉ちひろでした。




