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ちぃこと  作者: 桜倉ちひろ
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 ここの自習室は、最初は1つづつ席を開けて席札を配る。札を決めるのは入口にいるおばちゃんなので、席の指定もできない。

 そうやって最後の1つ前、59番まで1つ飛ばしで埋まれば、次は間を縫うように席の貸し出しがされる。というふうになってるみたいだって、座ってから気がついた。 

 入ってしばらくは私の両隣が開いていたのだけれど、1時間ほど経っていよいよ私の隣も……ということみたい。 

 カタン

 チラリと横を見ると、やはり私よりは年が上のお兄さんが座る。

 無印かどこかで買ったんだろうクリアケースから小さなペンケースを出して準備をし始めたのを見て、私は再び自分の机に視線を戻した。

 ――じろじろみちゃ、いけないよね。

 隣に今まで誰もいなかったのに、突然誰かがいると思うとちょっとドキドキする。それがましてやクラスの男子……じゃなくて、私からすればずいぶんと大人に見えるお兄さんだったりするから、余計に。

 ちょっぴりドキドキして震える気持ちを押さえながら、私は気分を変えようと英語を止めて数学に変えることにした。

 椅子の下に置いた鞄を引きずり出して、中から数学の問題集を出す。そして英語の教材を鞄に入れ、また椅子の下に鞄を潜り込ませる。 

 その時……小さくコツリと私の足が触れた。

 ん? 何? 

 目線は机上。手だけは椅子の下。少し傾いた身体は左より。そして足は……右。

 「あ……」

 静かな空間に漏れる声は右隣。瞬時に私は事情を察して身体を起こした。

 「すっ!」「しぃー」

 すみません!

 大声で言いそうになった私を制して、人差指を口元に持ってきたお兄さんは小さくしぃーって言った。

 しまった。ここ、静謐なる自習室……

 私は自分の行動すべてが恥ずかしくなって、顔を真っ赤にしてぺこりと頭を下げた。するとお兄さんもまた無言で、小さくニコッと笑って机に向かった。

 ――謝罪はこれでいいってこと? だよね。

  クラスの男子だと「お前当たった~謝れよ~」「うるさいなー」なんて言いあいが続く。それが小さな無言の謝罪と無言の笑みで終わった。そんな大人なやり取りに、また一つ私はドキッとする。

 正直言って、私の自習室デビュー初日はとってもいいものだった。

 ちょっぴり大人な空間と。そして大人な対応と。

 その全てが新鮮で、その空間に受け入れられた自分がちょっぴり大人になったみたいで……そんな、こそばゆいような感覚だった。 

 NOT静謐マンである彼の言葉を引用するならば、静謐な場所での勉強は最高ってことで。 

 また行こ、ううん、行きたいって素直に感じた。

 もちろん帰宅してから「どうだった?」と尋ねる母に「また行く!」って言ったのは、当然で。 

 寒さが厳しくなっていく11月。自転車30分の距離が少し嫌だと思いながら行った自習室だったけれど、その価値は存分にあった。

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