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「あれ? もしかして忘れた、とか?」
急にフリーズした私に心配そうな表情を浮かべたお兄さんは、ちょっと焦り気味にそう尋ねてきた。
いや、がっつりばっちり持ってきてるんだけど、だけど……
あーもー!!
悩んだって、どうしたって作ったのに仕方ないよ、ね?
引かれたらもう2度とやらないってことで、しかも最悪来なければ2度と会わないから大丈夫!
パニックを起こし過ぎた私は、勝手に逆切れモードのような状態になってバーンと勢いよく弁当を取りだした。
「ぅおうっ」
ビックリしたお兄さんは変な叫び声を上げた。
そして私は……
「お、お、お弁当! に、したん、デス。きょ、う……」
末尾はごにょごにょした口調になりながら、なんとか言った。
――もうどうにでもなれ!!
ギュッと目を瞑ったまま差し出して、私はお兄さんの表情を見なかった。引かれてたらどうしようと想像しただけで、恐い。恐すぎる。
心臓がバクバク言ってるのを感じながら、ゆっくり瞼を開けるとポカーンとした表情のお兄さんが目に入った。
「お、にい、さん?」
予想していたどんな表情とも違って、それはそれで対処に悩む。
数秒待った後、ようやく……氷が解けた様にお兄さんの表情は和らいできて、そして真顔で
「コレ、君が?」
やっとのことで、口が開いたみたいな感じで尋ねてきた。
私は、その質問にブンブン頷いて肯定する。
するとお兄さんはすっごく嬉しそうな顔で
「やばい。弁当とかめっちゃ久しぶり! いいの?」
「も、もちろん」
英語の勉強ばかり最近していたせいか『イエス! オフコースッ』と言いそうになるのを寸でのところで止め、笑顔で答える。
どうやら私の心配は杞憂に終わったようで、ようやく詰めていた息をふーっと吐いた。
ドッと安堵の波が広がって体が弛緩する私を余所に、お兄さんは嬉しそうにお弁当をパカッと開いていた。
「うーわー、卵焼き!? やっばい、うまそー!」
漫画に表現したら、背景にキラキラが飛んでるな……という感じの喜びように、今朝の弟の姿が思い出された。
うん、ありがとう弟よ。
偉そうだったあの態度も、今では素晴らしかったとすら思える。
「食ってい?」
待てを言い渡された犬のような表情でお兄さんは私を見つめている。
私はその様子にクスクスと笑いながら「どうぞっ」と勢いよく勧めた。
お箸を手にするなり、とてつもない勢いで手まりのおにぎりを口に放り込んだお兄さんはもぐもぐ言いながら嬉しそうに喋った。
「んー! こへは、しゃへだっ」
――鮭、かな?
「んまーい」
満足げなお兄さんの様子に、私はにやけるのを押さえきれずに「頂きます」とそっと言って、お箸に手を伸ばした。
無言でお箸を持ちながら、イタダキマスの合掌をしたその時。
「あれ……食ってなかった?」
「あ、はい」
「悪い! まじで、ごめん」
ドンッと両手の平をテーブルについて、お兄さんが謝ってきた。
いつかのメモみたいに、悪いとゴメンのコンビネーションで。そのことになぜだか笑いが込み上げてきた。
「私がお兄さんと食べたかっただけなので、気にしないで下さい」
両手をパタパタと顔の前で振って、ちょこっと俯いた。
なんか、すっごくお兄さんと食べたがってたみたいな感じだ……って言ってから気がついたら、恥ずかしくなってきた。
恥ずかしさに火照る頬を両手の甲でごまかすように擦ってから『たーべよっと』と言って、恥ずかしさをごまかして卵焼きを挟む。そしてパクリと何でも無いような態度を必死に装って、口に放り込みもぐもぐと咀嚼すした。
その一連の動作を見たお兄さんは、さっきまでのテンションはいずこへ……と尋ねたくなるような雰囲気で、 はぁーってため息を吐いて両手で顔を覆って俯いた。




