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ちぃこと  作者: 桜倉ちひろ
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 そんな嬉しい始まりを迎えた新年。

 約束の日曜日、私は朝から満面の笑みでおにぎりを作っていた。

 お兄さんからリクエストの「おかか」は外せないとして。

 めちゃくちゃ喜んでくれた「梅」も捨てがたい。

 それに新しくシーチキンマヨネーズ。

 これもレパートリーとしては外したくないな……なんてあれこれ考えていたら、勉強以外のことに頭を使うって楽しい! って思った。

 それが何て言ってもお兄さん基準だから余計に。

 ――あーもー!!

 いろいろ考えながらピンクの空気で悶えて、足をジタバタさせながら必死におにぎりの具材に悩む私。

 その様子を、知らないうちに背後に立って見ていた弟が、突然後ろから

 「姉ちゃん、気持ち悪いよ」

 と一言放ち、私は浮足立っていた世界から現実へと帰ってきた。

 続いて、はぁ……とため息をつきながら、大人ぶった態度を装った弟が続けた。 

 「何悩んでるわけ?」

 これから成長期の弟はまだ私より少し目線が下だ。

 その弟がちょっと上を向きながら偉そうな態度で私を見てくる。

 偉そうなんだけど、その一生懸命上からな態度が可愛い……とか思いながらも『そうだ、弟だって男には違いない』と考え直して参考までに聞くことにした。

 勿論、おにぎりの具材について、だけど。

 「ねえ、おにぎりさー何が好き?」

 「は? おにぎり?」

 「そうそう」

 「なんだよ、おにぎりかよ」

 吐き捨てる様に偉そうに言う弟。

 いつもならそんな態度にキレるところだけれど、今日と言う最高の日、そして良き参考人である弟のこの態度にも、姉の私は寛大だ。

 「梅ー、おかかぁ、シーマヨにぃ、鮭。あ、こんぶとかもありか!」

 言いながら新案まで浮かび、ますます決められなくなってきた。

 かと言って、そんなに作っても食べきれるわけでもないし……

 ――あーっ! もう、ほんっとに悩む!!

 さらに悩みを増やした私に、弟は鋭い指摘を放った。

 「姉ちゃんさ、おにぎりだけでいいの? おかずとかいらね?」

 「は……?」

 「俺ならー。卵焼きとウインナーとか食いたい」

 「ほぉおおおっっ!?」

 目から鱗だった。おにぎりのことしか考えてなかった私にとっては。

 確かに言われて一理あると思った。

 けれど、そんなのおにぎりに出来ないし。

 「だからさ、弁当にすれば?」

 「は!?」

 目が飛び出た。

 「べべべべべ、弁当!?」

 「いや、どもりすぎだし」

 「いや、だってさ。べ、弁当?」

 「そうそう。ちっちゃいおにぎりにして、具でもつめれば?どうせ『オトコ』だろ?」

 フフンとでもいうような態度で、いっちょ前に男アピールをする弟。

 でもそんな弟のその態度すらも今日は許せた。

 だって、こんな発案をするなんて! 今日の弟は神だ!!

 「分かった、ありがと! あんた最高!!」

 ムギュっと抱きつくと

 「ちょ、離れろよ姉ちゃんっっ」

 腕の中で大暴れの弟。

 そして私はそんな弟をすんなりと解放した。

 弟なんかに構っている場合じゃない。

 私はまさかで、人生初の! 

 好きな人にお弁当を贈ると言う、ビックサプライズを敢行しなくちゃいけないんだから!!

 少し掃除してから出ようと決めていた予定をあっさり覆して、私はお弁当作りに集中した。

 弟の案を採用して、5種類の手まりおにぎりに卵焼きとウインナー、それから昨晩の残りのほうれん草のおひたしを添えた。

 「姉ちゃん俺には!?」

 「ない」

 「えー、俺発案者なのにぃ?」

 とかなんとか叫ぶ声を背後に聞きながら

 「いってきまーーす!」

 家を飛び出した。

 鞄には、今日の教材と2つの同じお弁当。

 それから……ちょっと事前に用意しておいたプレゼント。

 ホクホクする心と、飛び跳ねたい気持ちでいっぱいの体を持て余し気味に、少し出遅れた分を巻き返すべくいつもより強めにペダルを漕いだ。

 お昼御飯の時になって、お母さんが「ほうれん草がない!」って叫んでいたのは私の預かり知らないところの話、だけど。

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