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ちぃこと  作者: 桜倉ちひろ
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 誰が言ったのかは記憶にないけれど……その誰かが言った「静謐」の意味を正しく使うなら、間違いなくこういう空間を指すんだろうな。なんて思いながら「45番」と言う数字を確認して机上に札を置いて、静かに椅子を引いた。


 ギギギギ


 小さくしか音を立ててないはずなのに、やけに音が響く。

 こんな風に、人がたくさん居るのに静かな空間であることが「なんか大人っぽい」と思いながら、私は緊張する心が誰かにバレやしないかとソワソワしながら席に着いた。



 ――――――



 事の発端は、その「静謐」とやらの発言をした誰かのせいだと思う。

 確か……そう「俺は、静謐な環境じゃないと勉強が捗らない! だから自分の部屋で静かにじゃないと勉強しない」とかなんとか大きな声で教室で言った。

 おそらく彼は、何かで『静謐』と言う単語を知って、それをひけらかすべく使いたかっただけに違いない。だから無理やり話の中で静謐という単語を織り込んだんだろうけど……

 聞かされた側の同級生がその単語を理解していなかったら、彼の知識の高さも無意味ではないだろうか?

 遠巻きに冷ややかな気持ちでその言葉を聞きながら、私は静かに意味を調べた。こんなことを思いながら調べたりする私が、最もいやらしいと言うことは自分自身よく理解している。 


 静謐せいひつ:静かで落ち着いていること。また、そのさま。


 私が思うに、静謐という言葉を大声で話す彼と言う存在が部屋に居る時点でその空間は「NOT静謐」だ。まぁそれはともかくとして、横でその話を聞いていた私は思った。

 やっぱり勉強するならば静かな環境だよねって、そこには内心頷いていた。

 もう11月。

 高校受験までは、後4カ月を切っている。

 正直なところ、志望校は判定B。行けないこともないだろうけども、完璧とは言い難い。

 塾の先生の見立ては私立か公立どちらかが関の山……というもの。なんとも厳しい見立てだと思う。

 その見立てを聞いた翌日。

 ため息をつきたい気持ちのまま、お昼休みに英単語学習をしていた私の耳に、まさに静謐とは程遠い……つまりは騒がしい状況の教室を仕立て上げている彼と、その彼の発言を笑う自分の気持ちと、彼の発言の内容が最も理解できる状況とが生まれた結果、私は結論に至った。

 よし、静謐とやらの空間へと私も行こう、って。

 このままじゃは私、危険だ。

 NOT静謐マンのいる教室での自習だけでは、私の春は来ない。

 完全に悟りを開いた私が結果選んだのが……ここ、中央図書館の自習室だった。


 なぜここを選んだのか、というと単純にお母さんが「自習室とかで勉強したらどう?」とかって勧めてきたからだ。

 家はそんなに広くもなく、3Kに1家4人住まい。

 一応受験生の私を考慮して部屋を弟と分けてはくれたものの、隣から漏れるテレビの音は騒がしく、集中力が途切れがちになるのは私の集中力の無さのせいだけではないはず、と思いたい。おまけに父は、勉強なんてしなくても受かるときは受かる……という無茶苦茶な理論の持ち主で、到底私の理解者とはなりえない。

 そんな折り、母が塾の日以外に行ってみたら? と言いだしたのが自習室だった。とは言うものの自習室という提案を受け入れたくとも、なかなか近くに自習室が見つからない。母に聞いても、昔は割とあったのに……という返事ばかりで当てがない。どうしたものかと思案していた矢先、調べ物ついでに行った中央図書館でこの自習室の存在を見つけた。

 そんなわけで私は今、中央図書館自習室の45番に座っている。

 ……しかし。 

 周りは大学生風な人ばかり。

 明らかに中学生なのは私だけで、置いてる参考書一つとっても私のモノとは違っていて「大人」な感じがする。そして、その中の一人になっているこの状況にドキドキしながら、私は自分の持ってきた英単語学習の為の準備をそっと始めた。


 緊張だ何だと言いながら始めてしまえば何とやら……で、例に漏れず私も集中して勉強に取り掛かっていた。

 小さくコチコチと時計の音が響く。どのくらい経ったときなのか。


 ギギギギ


 音がやけに近くで響いてその音に集中力が切れ、顔を上げると右隣の44番からの音と気が付いた。


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