9.ビー、驚愕する。
波乱の展開にしたいんですが、迫力ありませんね。
すみません、勉強大事です。
フロントで手続きを済ませた後、大地は横に併設してある水着売り場で当たり障りのないものを選んでロッカーに移動。
ビーは最初俺に付いて行きたがったが流石に男子ロッカーには、連れて行けないので女性陣に任した。さっさと水着を選んでロッカーに移動したので女性たちがどんなものを選んだかは知らない。
最初、女性陣が水着を選ぶのを待っていようかと思ったが、海の鋭い目つきが、
「さっさと行け」と言っているように思えてならなかったのでそそくさと移動している。
ロッカー出口で20分ぐらい待っただろうか、ようやく女性陣のお出ましである。まあ、この為に来たと言っても過言ではない。
先頭は、海、見るからに子供子供した体型である。真っ赤なビキニに包まれたその姿はその筋の者にはたまらないであろう。胸元には大きなリボンが付いている。
大地はあまり興味がないようである。
(どんだけ赤が好きなんだか)
そんなことを思っている。
次に海に手を引かれ出てきたのがビー、オレンジ色のワンピースは非常によく似合っている。脇から背中が大きく開いているのがまたいい。腰の両側に付いたひらひらとした飾りも似合っている。よく見るとお尻の所にウサギのしっぽの様なものがついている。
最後に海。真打登場であろうか。水色と紺の横じまのワンピースであるが、その大胆に開いた胸元に自然と視線があつまる。正に谷間よありがとうである。超ハイレグとも言える鋭角に切り込んだ口では言えないその部分も非常に魅惑的である。
(空さんありがとう。見せたいの、いいの?、見るよ、見るよ。力の限り見させていただきます)
大地の心の声が聞こえてくるようである。
「私が選んだんだから、みんな、似合ってるでしょ」
海が笑顔で話す。
大地は海が水着を選んだというのを聞き、親指を立てて
「グッジョブ」
渾身の笑顔である。
それを見た海も親指を立てて返す。
これもまた笑顔である。
霜月は係の者から急かされる様にこの場を後にするよう連絡を受けていた。
挨拶がすんだあと、温泉に入ってから戻ろうと考えていた霜月にとって少々残念であったが従うのにやぶさかではなかった。
理由を聞きたく思い係の者に聞いたところ係の者は理由を知らなかった。ただ、
「至急、霜月さんを返すようにと、警察から連絡がありました」
不審に思った霜月は警備している警官達に問いただしたところ、その追求に根を上げた警官が警察官幹部のところに連れていき話を聞いた。
その話とはこうであった。
ひとりの警察官が施設裏で意識を失っているのが発見された。そして、拳銃の紛失という失態があった。そのため、政府の要人である人たちに内々に指示が出され避難しているということだった。
「これは大失態ですね」
嫌みの一つもいわないとおれなかったのか、少々非難の籠った言葉を発した。子供じみたことではあるが、忙しくて温泉にあまり入る機会が無い霜月はそれなりに楽しみにしていた様だ。
「まあ、なにかあっても困りますので、今日は帰るとしましょう」
明らかにほっとした表情になる警察官幹部。
「なにかで埋め合わせをおねがいしますよ」
そんな事とはつゆ知らず。楽しんでいる大地一行。なにも事件が起きなければいいのだがそんなわけにはいかないだろう。
男は怒っていた。どこにもぶつけることのできない怒りと不安感で心を一杯にして、その矛先をこの温泉施設にぶつけようとしていた。
男はおじいちゃん子だった。小さなころから何かと言えばおじいちゃんと過ごし、そのおじいちゃんが無くなった頃から、男の言動は酷く歪んでいくようになった。
もともとは気の優しいい子だったのであろう。だが、今の彼はその見る影もなく変わり果てた様相を呈していた。
祖父の生前、事あるごとに
「昔はよかった。鉱山のあったころはそれはもういいくらしができた。それもこれも鉱山が閉山したからだ。」
そう祖父からはなにか良くない事が起こるたびに、全ての元凶を鉱山の閉山ということにして話していた。
ただ、昔を懐かしむだけであったのかもしれない。
若いころから鉱山という世界だけしか知らなかった男の言いようのない不満をぶつける格好の出来事だったのだろう。
全ての現況を鉱山閉山のせいにしておれば幸せだった。
祖父は鉱山閉山後も運良く別の仕事に就くことができたので生活に苦しむということはなかった。
男の父親もそれなりの暮らしができていたので鉱山を懐かしむことはあっても怨むということはなかった。
男は違った。この地方にも不況の波は押し寄せており男の生活は苦しいものであった。
祖父の死後、しばらくして男の心のなかでどのような変化があったのかは分からない。しかし、祖父がかつて言っていた様に、全てを鉱山閉山であるという考えに落ちついたようだ。
その鉱山を利用することに許せなかった。悪以外の何者でもなかった。
何とか開発を止めさせようと建設当初から脅迫まがいの手紙を送っていた。
当初、その稚拙な文面からは単なる愉快犯ではないかと思われたが、オープンが近ずくにつれてその文面がドンドンエスカレートしていくに従って警察への警備の要請となった。
今日の警察の警備があったのはそんな事情があったのではあるが、逆に拳銃を奪われてしまうことになってしまったのである。
今日、男は近所のゴミ箱からとってきたペットボトル数個に、これまた、付近に止まっていた車からガソリンを抜き詰めて持ってきていた。
手始めに施設裏から火をつけようと回ったところ巡回中だった警察官と鉢合わせになった。
警官めがけて手にしたガソリン入りのペットボトルを投げつけたところ、運悪く頭から被って、目に入ってしまった。
この機に乗じて襲いかかり拳銃を奪うのに成功したのだ。
男は呪文の様に唱える。
「これは正義なのだ、立ちはだかるものは警察であろうと悪である。悪に正義の鉄槌を喰らわせてやるのだ。」
正義正義と繰り返している。あたかも、口から唱えることで自分の正当性を確立できるかのように。
男はその後、施設内の換気を一手に担っている集中送風機室に現れる。祖父から鉱山内の換気についての重要性を聞かされていたためだ。
温泉施設である為、いたるところに換気用のダクトが設けられていたが鉱山時代の空気取り入れ抗に接続することで成り立っていた。
この施設は鉱山稼動時の深さまで利用していたわけではないが、冒険性、臨場感を出すために地上にある他の地域にあるような温泉施設に比べて深いところまで使用していた。
動いている送風機に男は何の躊躇もなく手にしたガソリンをふりかけ火を放った。
しばらくは火の勢いに何の反応も示さない送風機だったが、バチバチバチッという音と共に稲妻のような光を発した後、黒煙を吹きあげ停止した。
男はにやりと少し笑って扉から出て行った。
大地たちはいろいろな洞窟内に設置されている温泉を楽しんでいた。
今、彼らの目の前には地下施設でありながら広大な空間が広がっており、所々植えられたやしの木やバナナの木などがあり、さながら南国といった雰囲気を出しているところに来ていた。
館内に流れている曲も南国風で見知らぬ鳥やけものの鳴き声が混じっていた。
「ここは南国やね」
手で顔をパタパタ仰いでいる大地。
「もわっとしてるの~」
大地の水着の端につかまって反対側の手を海と繋いでいるビー。
「ここもすごいわね。さっきの処は寒かったから、私はこっちのほうが良いわね」
寒いのが嫌いな海が話す。
「さっきのところはさむかったね」
冬は冬で好きな空は大きく背伸びしながら応じている。
先ほどまで大地たちが居たのは日本の冬をイメージしたゾーン。その為、人工の降雪装置が稼動しており雪が再現されていた。
いま居るところは南国をイメージしたゾーンだ。
送風機が停止したことにより湯気が立ち込めており白くもやっている。まだ、誰も気が付いていない。
「ダイチくん、ダイチくん。風の流れが消えたの。なんかおかしいの」
そんな中、ビーだけが異変に気がついているようだった。
「ん~。そういえば心なしか煙っている気がするけど、大丈夫だろ?」
気のせいとして取り合わない大地。
「温泉だから、こんなもんちゃうか」
そんなことを話している中、急に非常ベルの音が響きわたる。
「「「!!!」」」
そして、暗転。
「うおっ、なんや急に電気消えたで?」
非常灯の赤い光だけが暗くなったホールを照らしている。
「これはただ事じゃないわね。事件、事件よ」
海はすこしわくわくした声で話す。もともとイベント好きでサプライズが大好きな海。
それに引き換え空は、海の背中に捕まるようにしている。
「な、なにか起きたんでしょうか。避難しなくていいのかなあ、ねえ、海ちゃん」
不安そうな声で答える。
「外に戻ろう。なんかあってもまずいし」
不安を隠すよう苦労しながらも震える声で返す大地。
優柔不断な彼にしては珍しく断言する。
「ビー、みんなを転送してくれるか」
「ダイチくん。ごめんなさいなの。この体だとまだ慣れてないから1人が限界なの」
「そうか、それじゃあ、しゃ~ないな。出口に歩いて向かおか」
一向がそろりそろりと出口に戻り始める少し前。
男は配電室の前に来ていた。
流石に配電室には鍵が掛っておりすんなりとは入れなかった。体当たりをしてもドラマなどの様にうまくは行かなかった。
男は手に入れた拳銃を使うことに決めた様だ。
恐る恐る手にした拳銃の銃口をノブの根元に向ける。そして意を決っしたように深呼吸をひとつしてから引き金を引く。
ダーン!!!。 辺りに大きな音が響く。
拳銃により発せられた音に驚く間もなく男に苦悶の表情が浮かぶ。
発射する際の衝撃により跳ね飛ばされ眉間に拳銃の直撃を受けたのだ。
拳銃を離さなかったのはそれだけ手に力が入っていた為だろうか、離してしまえば額を打つことも無かったであろうが運のない男である。
額から流れる血を袖で拭って扉を蹴飛ばし中に入る。跳ね飛ばされた際に足でも打ち付けたのか、少々左足を引きずるようにしている。
額も足も痛いのであろう、その表情は苦痛にゆがんでいる。つくずく運の無い男である。
男は配電盤に近寄り、先ほどの送風機室で使い切ってしまったのか、別のガソリン入りのペットボトルを取り出しあたり一面にぶちまけた。
扉までの床中ガソリンだらけにしたあと、ポケットから小さなマッチ箱を取り出した。
箱の表面には火の用心とプリントされている。
興奮しているのかなかなかマッチに火がつかない。足元には折れたマッチが数本落ちている。4~5本纏めて擦ることでようやく火を灯すことに成功したようだ。
男は無造作に火の灯ったマッチを投げ捨てる。
すぐさま足元に青白い炎の炎舞が巻き起こる。青い炎が揺れる様は見る者を引き込みかねない。
やがて炎は壁を伝い天井にまで達する。
もう青白い冷たい炎ではなく、赤くオレンジ色をした憎悪を含んだ怒れる炎と化している。
男はゆっくりと扉を閉め出て行った。
男が消え数分後、けたたましいベルの音が施設内に響き渡る。火災報知機が煙を感知したようだが、もうすでに天井まで達した炎の勢いは留まる事をしらない。
一応スプリンクラーの設備はあるようだが、もともと鉱山を使った施設なので岩壁がむき出しのところが多い。限られたところにしか設置していない。
配電室にもあるのだがあまりにも火の勢いが激しいのであまり意味が無かった。
もともと不慮の火災の為の物なので、人為的に起こされたものに対応はされていなかった。
男は出口に向かって悠々と歩いていたが、突然の警報ベルと暗転に驚いたようだ。
自分が引き起こした事であるのだが男は少々パニックになっている。
どこおどう間違ったのか今男が居るのは温泉エリアだ。
ビーは暗闇でも見えるということなので、ビーを先頭に出口に向かう一行、全員手を繋いでいる。
ビー、大地、空、海の順番である。
時折、空がつまずいた拍子にその豊かな胸が大地の腕や背中に押し当てられて大地の顔はニヤけている。もちろん辺りは暗いのでみんなには分からない。
ただ、ビーのみが小声で
「むう、ダイチくん、エッチなの」
と呟いている。
海はそれほどはっきりとは見えないながらも種族的に人よりは見えるらしい。
「あ、空ちゃん、そこ、椅子があるよ」
注意を促しているがあまり意味が無いようだ。
「わかった、海ちゃん」
返事を返しているが結局つまずいている。
しばらく暗闇の中歩いて数分、更衣室エリアまで戻ってきた大地たち。更衣室エリアは電源が生きているようで蛍光灯の光で満ちていた。
「やった~。やっと戻ってきたわ」
あたりはゴミ箱が倒れていたり、着替えの服が落ちていたりと急いで避難したことが伺える。
辺りには誰もいないかと見えたが、男が一人呆然とこちらを見ていた。
(なんや、こいつ。なんでこんなとこでつったっとるんや)
大地は怪訝そうに男を見る。周りは白い煙が充満しつつある。ビーが大地に小声で伝える。
「大地くん、あの人、拳銃をもってるの。テレビで見たのと同じなの」
「え、拳銃?」
思わず大きな声で問い返してしまう大地。
それを聞いた男、は怒りを含んだやけにかん高い声で怒鳴った。
「なんで、おまえら知ってんだ。おまえら・・・・、さては、お前らも奴らと同じなんだな。お前らも俺を苦しめるのか、蔑みやがって。お前ら、殺したる」
(こいつ、危ない奴か。どーせあれも、モデルガンかなんかだろ。ここは、ひとつ空さんに良いとこみせとかんと)
なにやら考えてる大地。
「みんな、危ないから下がって。ビー、みんなを守ってくれ」
「は~い。わかったなの~」
ビーは3人の前方にガラス状のシールドを展開する。
「みんな~、このシールドの内側に入るの。前方だけに張ったの。ごめんなの~、この体だとこれが精一杯なの。今度もっと大きなの張れるようにしとくから今日はこれで我慢なの~」
「ちょっと、あんた、大丈夫なの?」
驚いた表情で大地に声を掛ける海。
「怪我しても知らないわよ。」
憎まれ口を叩きながら内心ドキドキの海。
(案外男らしいとこもあるのね。評価をかえなきゃならないわね)
「海ちゃ~ん」
不安顔の空。
「大丈夫だからね。大地が何とかするって言ってるから。あんた、なんとかできるんでしょうね、期待してるからね」
(おお、海からの思わぬ声援。俺ってかっこいい?)
「大地さ~ん。怪我だけはしないようにね。逃げても良いからね~」
(空さんからも、これはがんばらないと)
男と対峙する大地。
「まあ、落ちつけよ。あんた、なにがしたいんや」
両手を広げて大丈夫だとでも言う様に上下にゆっくりと振りながら近かずいていく。
「なあ、どうかしたんか」
「うるさい!」
「今、ここでなんか起こってるようなんや、あんたも避難したほうがええで」
さらに近ずく。あと数歩で男に手が届く距離まで近ずいた。
「オレがやった」
「え!」
「オレが火を点けた、こんな施設なくなってしまえばいい」
男は絞り出すようにして言葉を紡いだ。
「こんな、悪いことの中心は消えてしまうべきだ」
「あなたがやったの?」
空が怖いのも忘れて言葉を続ける。
「みんな楽しみにしてたのに、火をつけたですって?なに考えてるの、みんなが地域の発展に繋げようと建てたのに」
海が後を続ける。
「あんた、最低ね。クズだわ」
男の形相が激変する。
いままで、どちらかといえば辛そうに言葉を発していたのが
女性からの言葉で憤怒の表情に変わる。
俺は非常にまずいと思った。
男の目は、後先考えずにやる目だ。先ほどまでの何処か中空を彷徨う視線がではなく、鋭く怒りに満ちた目で海達をみている。
男の手が拳銃を取り出すのが見えた。いままで、ポケットに半分突っ込まれていたものだ。
脅す為のモデルガンかと思ったが銃口を女性たちに向けられ、俺は走り出していた。ビーに守られているはずなのにである。
論理的思考ができていない。
銃口の前に立ちふさがるのがやっとだった。
頭に衝撃をうけた。痛みは不思議と感じていない。
ああ、俺って死ぬのかな、なんてぼんやり考えていた。
床は仄かに温もりが会った。冷たいのは嫌やなあ、なんてちらっと考えていたことを覚えている。
最後に見たのはビーの今にも泣き出しそうな顔だ。
(ビーには悪いことしたなあ。もっと遊んでやればよかった)
そこで思考が途切れた。
お読みいただきありがとうございます。