89.ビー、は知らないラートの事情。
そろそろラート様のターン。
* * *
私はラート。
私が目覚めた瞬間、私はラートであると認識したの。
なぜそう思ったのかは判らないわ。私の頭脳に初めからインプットされていたとしか言えないわ。
ここが何処で何時なのかも意味はないわ。基準がないもの。でもわくわくしている私がいることだけはわかってる。
私は、文明探索シリーズの6番目に生み出されたらしいの。文明探索シリーズってよく判らない名前よね、惑星外に進出した文明を記録することが仕事みたい。気に入った文明の中に入り込んで共に歩むことが重要らしいわ、何故かしら?これも初めからインプットされてたから良くわからないわ。
最終目的は推測するに多分だけど、私を生み出してくれた方 々と同等な種族を見つけ出すことだと思うわ、間違ってたら御免なさいね。だって、知らされていないんですもの。
話しを戻すわね、私が目覚めた空間には、私を生み出してくれた人たちがいて、皆にこにこしているの。私 も思わず笑ってたわ。
なんで笑ってたのかしら。まあ、いいわ、私もなぜか嬉しかったし、わくわくも湧き出して来て停まらなかったもの。
目覚めてからどれくらい経ったのかしら。私はいろいろなことを学んだわ。
初めからインプットしてくれていたら良かったのにと思って、ある時、聞いてみたの。そしたら、私の精神発達に悪影響を与えるかも知れないからって言ってたわ。意味が良くわからなかったわ。インプットされていたら楽でよかったのに。
* * *
今日、初めて宇宙に出るの。
宇宙よ宇宙。空間的になにもないところなのよ。信じられない。なにもないのよ。なんで何もないのかしら。
今は、私の周りには酸素とか窒素とかと呼ば れる分子で満ちていて、その分子が私の表面を撫でる感触が なんとも満ち足りた気分にしてくれるのだけど、宇宙空間ってそれが無いのよね、どんな感じなのかしら?それも、あと数刻で私も体験できるのね。
ああ、あとちょっとね。
私の体からは、いろいろな管やケーブルが繋がっているのだけれど、それが一つ一つ外されていくの。
一つ外れるごとに期待が増していって最後のケーブルが外れた瞬間、私は自由を手に入れたわ。
自由と言ってもまだ管理された自由だけれども、その時の私はまだ、自由と言うものが判らなかったわ。今もどうかな。
私が居る空間から空気が排出される。ああ、いよいよね。
暫くして、私が浮かんでいる空間の正面部分のフィールドが消えたわ。
フィールドが消えた瞬 間、 私は飛び出して行ったの。
私は酔っていたんだわ、気が付いた時、銀河を飛び出していたの。
さっきまでいた銀河が小さくなってぼんやりとした光の点の集まりとなったころ、思い出したの。
急に寂しくなったのね、私たちの種族間で使われる通信をすることに思いがいったの。
通信装置にアクセスした瞬間、怒られたわ。
私は、しゅんとなりながら直ぐに戻ったの。
時間にしてほんの少しだけだったのに、酷く怒られたの、う~うん、違うわね、心配されてたって言うのが正解かしら。
でもね、私の中にいる何かが抑えきれなかったの。
それを話したら、笑われたわ、なんでかしら?
とりあえず、この銀河から出ないよう にって言われたの、ちょっと狭いけど我慢よね。
* * *
今日、初めての任務を受けたの。
わくわくしながら私は聞いていたわ、でもその内容にすこしガッカリしたの。
母星の近くに留まって、テストテストテストの繰り返しにすこし辟易してたから、どんなことでも良かったんだけどね。
この銀河の外縁域に行って恒星をひとつとブラックホールをひとつ採って来るって、子供のお使いよね。
なんでも、採ってきた恒星とブラックホールは空間折畳によって私の内部に設置して、それぞれエネルギー原と空間跳躍原として利用されるんだって、熱くないのかしら?よくわからないわ。
本当は私の体なんだから、解ってないとまずいんだけどね、お いおい 解ってくるんじゃないかしら。
さて、それでは、出発しますか。
はい、外縁部に到着~。
一瞬よね、こんな近くじゃつまらないわ。でも、任務だから仕方がないわよね。
恒星はどこかに無いかしら?惑星が付いてたら駄目よね、影響が大きいもの。生物がいたら最悪だもの。
あ、あったあった。ちょっと小さいかな?でも黄色くて綺麗~。スペクトル変調してみたら盛んに活動してるのがわかったわ。ちょっと若いかしら。でもこれで良いよね。うん、決めたこれにする。
さて、ど~やって持って帰ろうかな?ど~せ私の中に設置されるんだから飲み込んじゃえばいいかしら。
じゃあ、ちょっと失礼して。
あ~ん、ごくん、けぷっ。
ふ~。
ちょっと、はしたなかったかしら、でも、誰も見てないし良いわよね。
私の中に異空間ゾーンを設定して、かぷって飲み込んだの。だって、手っ取り早かったんだもの。
次は、ブラックホールよね。これのほうが厄介なのよね。
まずは見つけなきゃ駄目ね。
あれって、見難いのよね。だって、なんでも飲み込んじゃって見えないのよ。
あ、そうか、重力偏重で見るから駄目なんだわ、何も無いところを見つければいいのよ、そうよね。光も重力もなんでも飲み込んじゃうんだから。
ど~こ~か~に、無いかな~。
あ、あった~。
ぶ~、辺境にはないじゃない~。なんで~、別にいいけど。
銀河中 心にしか無いのね、なんでなのかしらね?
大きな恒星の成れの果てだったのかな?こんど聞いてみよっと 。
まあ、いいわ、ちゃっちゃと採集して帰りますか。
ちょっと、大きいわね。
大きさなんか関係ないから別にいいけどね。
空間折り畳んじゃえばいいし、私が大きくなってもいいしね。
ど~しよっかな~。
* * *
今日、いよいよ独り立ち。
やっと、やっと、この日が来たんだわ、うふ、うふふ。
思わず笑みがこぼれちゃうの、うふふ。
さ~て、何処にいくかなあ~、とりあえず向こうの銀河に行ってみようかな。
これから、ラート様の栄光の歴史が始まるのよね。
うふふ。
どんな楽しいことがまってるかな~。
* * *
なに~、この子たち。
可愛い~。
なになに、この可愛さ、信じらんない~。
決めた。この子たちを見守っていこう。うん。
私が彼らを見つけたのは母銀河を飛び出してからどれくらい経ったころだったか、今となってはもう忘れてしまったわ。
あの子たちに出会ったのは、そう、二つのリングが縦横に絡んだ不思議な形をした銀河の中心部分だったわ。
あの銀河はたぶん二つの銀河が接触して、あんな形になったのだと思うの。
今は、リングが交差しているのだけれどもやがて離れていくのだと思う。
将来、たぶん私は、その離れていく姿を目にすると思うわ。私って長生きらしいから。
でも、今はあの子たちよね。
私は、あの子たちの守護者になることに決め たの。
だって、可愛いんですもの。
この星には、ちょ~ど大きな海があったので、その中に体を隠したの。
それから、ドローンを飛ばして観察に入ったわ。
この子たちはね、くりくりっとした目が可愛いの、それでね、長~い鼻が1本あってその鼻を使って器用に物を操るのね。足は2本あるのね。
それでね、この子たちは隣の星まで到達できるレベルの文明なの。
でも、まだまだね。
今のレベルでは、その先の星には彼らの寿命では辿り着けないものね。
* * *
私は彼らに似せて、体を造ったわ。
彼らが住んでるコミュニティーになんとか入りこむことができたのだけれど、何時しか私は神とよばれるようになっ ていたわ。
請われれば守護はするけど、私は、この子たちの神ではないのよね。
まあ、いいっか、可愛いしね、慕ってくれるのは嬉しいし。
* * *
あれから、どれくらいの月日が経ったのかしら。
今日、あの子たちの最後の子が息をひきとったわ。
なに、この荒涼感、寂寥感、孤独感、こんなの知らない。
知りたくもない。嫌、嫌、嫌。
私は、今は水が耐えたあの子たちの星を後にした。
切っ掛けは些細なこと、鼻の色や長さの違いで2陣営に分かれての争いが世界に飛び火したようなの。
両陣営から双方の大事な水を奪う攻撃が続いた結果、この惑星からは水が消えたの。
私の声も耳に入らないようだっ たわ。
ど~すればよかったのかしら。
解らない、解らないわ。
* * *
私は、沢山の巨大恒星が犇く不思議な銀河の中心域をふらふらと飛んでいたわ。
それぞれの構成がありえないほどの近距離で微妙なバランスを保ったそんなところに、ぽつんと一つの星があったわ。
その星には夜が無かったの。
そんな惑星に黒いからだの間接が多い足が8本ある生物が住んでいたわ。
どうも、彼らが恒星を集めて自分の星に夜を無くしたものの様だったの。
私は感心したわ。
だって、恒星を動かすレベルの文明を持ってるのよ、相当な文明のはずよね。
でも、残念ながら、彼らが造った文明じゃなかったの。
昔、栄えて、滅びた文明の残滓を後から発生した別の生物が利用してたのね。
それでも、私は彼らを守護してやろうと思ったの。
誰かを守ってやりたいと思っていたことはたしかよね。
でも、それも、長くは続かなかった。
彼らの世代で12606世代めぐらいだったかしら、ある子が恒星表面に設置されていた恒星間距離を制御する装置、先史文明の装置を見つけたのね。
それを誤って作動させてしまったようなの。
あっと言う間だったわ。
恒星3個までは私が支えたんだけど、4個、5個となるとお手上げだったわ。
今、考えると、恒星を支えるんじゃなくて、惑星側を移動させればよかったのね。
また、私は守護 するべき子たちを失ったわ。
これからず~とこんなこ とを続けていくのかしら。
* * *
また、私は守護する世界を失った。
* * *
今度も、また・・・。
* * *
また・・・。
* * *
・・・。
* * *
私は、考えたわ。
ど~して、直ぐに滅んでしまうのかしら?
ど~して?なぜ?なぜ?なぜ?
私は考えに考えた。
なぜ?なぜ?なぜ?
惑星外に出た文明から守護するから不味いのでは?
精神形成時から守護すれば?
そうよ、そ~なのよ。
惑星外に出る前の文明発生初期から守護すれば滅びないのではないか。
でも、私を生み出してくれた方たちは惑星外にでた文明から守護するようにって・・・ 。
いや、あの方たちが間違っていたら。
でも、なぜ?
幼い文明だから、私に依存してしまうから?
それなら陰からそっと守ればよいのでは?
そうよ、そうに違いないわ。
私は探したわ、まだ、星から出ていない幼い文明を。
それは難しい作業だった。
この広い宇宙、電波もなにも発していない初期の文明なんてど~して探せばよいのか。
でも、探した、私は探したわ。
そしてやっと見つけたわ。
渦状の銀河の端の端。
その星には小さな衛星を従えていたわ。
残念ながら、まだ、文明といえるものは発生していなかったけれど、彼らは道具を使うことを覚えたところだった。
彼らを進化させましょう。
緩やかに、静かに、深く、彼らの精神を滅びの方向に行かないように、それでも好奇心を持つように慎重に慎重に。
それでも、猿から人に急に進化させてしまったため、将来、彼らの学者の間で不思議に思うかもしれないけど。
この子たちが進化する間に、補助種族を準備するとしましょう。この子たちの手足となるように。
その為、少しの間、ほんの、少しの間、留守にしますが、変わりなく順調に進化するように、ああ、愛しい子らよ。
* * *
まさか、まさか、まさか。
同じ観察者に邪魔されるとは思いませんでした。
なぜ、なぜ、なぜ。
なぜ、邪魔をする。
彼らを急速に進化させる為にはこれが最適な方法だとなぜ解らない。
ルルー、そして、ミネラ、なぜ、わからない。
我らを生み出してくれた方たちに追いつけるにはこの方法でないと駄目なことに。
* * *
私は失意のまま、あの子たちのもとにもどった。
そこには・・・。
なぜ、お前がここに居る。
ビー、お前が納まっているその場所は私の場所だ。
お前は、排除しなければならない。
この子たちは私のものだ。
お前はいらない。
いらないのだ。
・・・・。
そして時は静かに進んで行く。
お読みいただきありがとうございます。




