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7.ビー、飲みに行く。

ビーばれちゃいました。

 ここは高級住宅街の一番上に位置する豪華な洋館。


 何処かヨーロッパの古城を思わせる外観だ。


 洋館の一室、空の部屋。


 重厚な扉、豪華なアンティークのシャンデリア、物々しい彫刻が施された、ふかふかのベッド、白いレースのひらひらのカーテン、ペルシャ絨毯であろうか、厚みのあるこった意匠にのものが敷き詰められている。


 空の家は戦前にこの町の隣にある炭鉱を発見した家で、戦後の復興時に石炭にて財をなした家だ。


 現在ではその最盛期とは比べるべくもないほど落ちぶれたといってもいいほどであるが、それでもまだまだその資産は莫大なようである。


 部屋には高価なマホガニーで造られたケースの中に、所せましと宇宙人関連グッズ、やピラミッド、超能力開発器具という謳い文句の怪しい器具や、はたまた、半漁人フィギュアなどが並ぶ。


 本棚にはUFOや超能力に関するものや、中にはツチノコやネッシー、雪男などの本などが並んでいる。


 超常現象というより未知なるものならなんでも良いようであるが、心霊現象の類はない。


 幽霊は苦手のようである。


 その光景はいかにもミスマッチで、一種独特な雰囲気を持つ部屋である。


 部屋のベッドの上で二人の女性が何やら密談中である。


 空と海である。


 二人ならんで座っている姿は同い年であるのだが親子のようにも見える。もちろん、ツインテールの海が子供側だ。


「ねえ、どおしたらいいと思う?」


 空が自分の手を見つめながら問いかける。


 両手の指を絡め合わせ、せわしなく親指をくるくる廻している。


 どうも無意識でやっているようだ。


「むづかしいわね」


 海が足元を見つめながら返す。


 二人の思いはそれぞれ違うのであるが大地に対する作戦会議のようである。


(私としてもど~したらいいのかわからないわよ。だって観察者よ~)


 近くに置かれたテーブルの上には、海が買ってきたものだろうシュークリームが入った箱が開いて置いてある。


 中身が呑まれて少し底に溜まった黄色い液体に氷が浸かった状態のコップが2個置いてある。


 オレンジジュースだろうか。


「なんにしても、もう一度確認するべきよね」


 視線を空に向ける。


「また、飲みに誘うとか?」


 すこし前かがみになった顔は前髪に隠れて表情が見えない。


「そうね、それからはじめるのがいいかも。今度は私も行くから」


(あんまり行きたくないんだけどね、怒鳴り込んじゃったし。でも、お父さんからの命令だし・・・)


「明日にでも誘ってみればいいんじゃないかしら。水曜日だけど」


 普段なら真正面から見るとその少し吊りあがった目がきつい印象を与えるのだが、今日は自信がないのか伏し目がちで少々不安そうに見える。


「う、うん・・・」


「女の子が二人も誘えば、案外、ほいほいと来るんじゃない」


「そうかな」


「そうよ」


「・・・うん、わかった、誘ってみる」


 行動指針が決まったことで気分的に楽になったようで空の声に少々明るさが混じる。


 海もすこしほっとした印象だ。


 次の日の朝。なんだかげっそりした様子で大地が社内に入ってくる。


 実は、昨夜、ビーが一緒に寝るといって聞かなかったのだ。最初はだめだと言っていた大地であるが、最後にはとうとう折れ、右腕にビーがしがみついたままの状態で一睡もできず、夜を明かすと言う事態になっていた。


 大地がやってきたのを見て、意を決したように一つ息を吐いて空は立ち上がった。


 机を回り込んでそっと大地の横に立つ。


「大地さん、この前はかってに帰ってごめんなさい」


 いつの間にやら大地の後ろに海も付いている。


「いや、別にいいって。変なこと口走ったこっちがわるいんやし」


 すこし声が裏返っている大地。


「変なこと・・・、あれは、・・・嬉しかったの、だから、いいの」


「また、大地さんと飲みたいのだけれど、誘ってもいい?」


 海の気配を感じたのか急に後ろを振り返る大地。


 海と目が合う。


「!!!」


「行ったらいいじゃない。・・・私も行くから」


「はいい?」


「行きなさいっていってんの」


(はー、私どうして命令口調なの~)


「わ、わかりました、行かせて戴きます」


 立ち上がり、海に向かって返事をする。


 海に向かって、敬礼でもする勢いだ。


「私じゃないでしょ、空に言いなさいよ」


「はい、空さん、行かせて頂きます」


「それじゃあ、今日定時後また、下で待ってて下さいね」


「はい。待たせていただきます」


 直立不動で答える大地。目は泳いでいる。


 海と空、二人して連れ立って廊下に出ていく姿を見送る大地。





 給湯器室にて話し込む二人。


「ほら、大丈夫だったでしょう」


「うん、良かった」


「さあ、場は設定したわ、これからね」


「彼は、宇宙人かしら?」


「え?」


(ああ、そうか、彼は人間で、彼の周りに宇宙人がいるってこと海は知らないんだわ。私が異星人だってことも言ってないし、いずれ話さなきゃならないわね)


 隠し事をしている事にチクリと胸の奥が痛む海。


「彼は超能力者なのかも」


 そのまま大地の正体をあれやこれや話している空。


 その姿を微笑ましい表情で見ている海。


(この子が悲しむことだけはさけないと・・・)


「うん、そうね、それも判るかもしれないわね」


 時は進んで定時後、やはり大地は前回と同じで柱の陰の喫煙場所で待っている。


 辺りにはちょっと離れて椅子に座る警備員の人がひとりいるだけだ。


 まだ、職場のみんなは残業をするようで、定時後下のホールに降りてきたものは大地一人だ。


 前回は若干ウキウキしたような足取りだったが、今回は引きずるような感じだ。


 まあ、怒鳴られた相手と、不用意に言ってしまったひと言で少々気まずくなった相手と、これから飲み会だということになれば、逃げ出したくなるのもわかると言うものだ。


 15分ぐらい待っただろうか、エレベーターから二人が出てきたのを確認して、ひとつ大きなため息をついた。


「は~~」


 今回も空はお嬢様然とした服装だ。やはり、清楚という言葉がふさわしい。


 そしてもう一人その横に海が立っている。


 上から下まで真っ赤な服を着ている。

 

 赤い靴、赤いパンツに赤いジャケット、中にきているシャツも赤。


(似合うっちゃ似合うんだけど・・・、ちょっと派手派手、どっか舞台でも立つようだな)


 少々残念なセンスをしている海だった。


「さあ、行きましょう」


 海が先頭に立って歩き出す。


「今日は昼休みに個室タイプの店押さえたわ」


 個室で飲み会のようだ。


 7、8分歩いただろうか、そんなに会社からは離れてはいない。


 昼間には会社員で賑わっていそうなそんな定食屋風の一軒の店に入っていった。


 店の奥まった部分にあり他から隔離されたような部屋に通された一同は、掘りごたつ風に足元を深く掘り下げてある所に座った。


 とりあえず、生3つと単品料理をいくつか頼んだ後、空がこう切り出した。


「このまえは、嬉しかったの、でも逃げ出してごめんなさい。あの時、聞きたかったこともう一度質問させてください」


 こんどは手は握られていない。


 4人掛けの席で大地の正面に空、その右となりに海が座っている。


 大地の横は開いている。


 入ってきたところは今は障子で塞がれている。


 ごくり、唾を飲み込む大地。やけに緊張した面持ちである。


「なにが、ききたいんや」


「私、見たんです。大地さんが光の中から出てくるのを」


 少々目を大きくして返す大地。


「ほんとに見たんか?」


「はい」


 大地は観念したのか一つ咳払いをしてから天井を見つめて声を発した。


「は~、ごめん、ビー、言ってもいいかな」


「いいよ~」


「!!!」


 突然、、虚空から返事があったことに驚く二人。


「これは、ビー、君たちの言うところの宇宙人だ」


 天井からふわりとガラスのピラミッドが降りてきて、3人の前のテーブルに降り立った。


 今まで、偏光により姿を消して天井付近にいたのだ。


「これが」


「・・・観察者」


 海が思わず小声で漏らした。


「ああ、これはビーの操るドローン。端末みたいと考えてくれればいいよ」


「今から、そっち行くね~」


「あ、くるんだ」


 部屋の隅に光が満ちた。光が消えた後そこに、名門お嬢様学校として名高いある中学校の制服を着た少女が立っていた。


「彼女がビー」


「初めましてなの~。あたしはビー、よろしくなの~」


「あれ?あなたは、いつも来てるひとなの」


 海に向かって言葉を掛けるビー。


「!!!、ごめんなさい、ちょっと、ここ暫らく監視してたわ」


 ちょこちょこ歩いて大地の横に座る。


 ちょうどそのとき、店の人がビールを持ってやってきた。


「失礼します、ビールお持ちしました」


 ひとり増えていたことに少々驚いていたが、さすがは店のひと、すぐに追加注文をとって帰っていった。


 ちなみに、ビーは外見からオレンジジュースを頼んだ。


 少々、水を入れられた感じではあるが、その間にビーはどうやら二人をスキャンしていたようだ。


 海に向かってビーはこう話た。


「あなたは、どうやら別の星のひとなの、え~と、たしか、この地球からは、そうね、地球を基準に銀河系を12等分にして時計回りに10時方向の最外苑部にあった星だったとおもうの、なぜここに?」


 その一言に目を白黒させる海。彼女自身、母星がどこにあるのかは知らないが、異星出身であることを当てられるとは夢にも思っていなかった。


 驚いている者がもう一人。


 空である。


 海の顔を目をめいっぱい見開いてまじまじとみている。


 虚空から突然現れた女の子に、横にいる親友の海が宇宙人だと言われたわけなので無理も無い。


「え、海ちゃん、それって・・・」


「まって、空ちゃん。・・・後で説明するから、ごめんなさい」


 俯いていた海が握りこぶしにぐっと力をこめてビーをにらみつける。


「なぜ、わかるの。私の種族はあなたにあっていないはずよ」


「ああ、それはね、身体的な違いはスキャンすればわかるし、私たちには種族記憶って言うのがあるのね。そこにあなたたちのデーターがあったの。同胞の誰かがあなたたちの星の近くを通ったのね。その誰かはあなたたちに興味が無かったみたいね。その誰かの論理セクターが星の場所と遺伝子の情報だけ記憶してたのね」


 当たり前のことだという雰囲気だがビーの種族の根幹をなすことをさらっと話す。


「種族記憶って?」


「種族記憶っていうのはね、私たち個々の感情とは別にね、論理セクターっていって、種族的にみて有用な情報は論理セクターが勝手に判断して記憶するのね、その記憶は私たち全てに伝えられるのね。だから、もしかすると、ダイチくんを好きって言うことも、みんなに伝わってるかもなの~。きゃはっ、言っちゃった」


「いや、それはないやろ。」


 冷静に答える大地。


「むう」


 ほっぺたを膨らませて抗議するビー。


(なにこれ、かわいい)


 海は観察者と呼ばれる存在と現実のビーとのギャップに悩みつつ、そのかわいさにも目を奪われていた。


 使命を思い出し、最大の質問を発することに成功した。


 ビーの目をそらさず真正面から見据え質問を発する。


「なぜ、地球に」


 その質問に対し気楽に返すビー。


「たまたまなの~。地球が発する電波に惹かれてやってきたって感じなの~」


 海は握り締めていた拳の力を緩める。


「滅ぼしにきたんじゃないのね」


「どっちか言うと、逆なの~」


「あたし達は、本来、知識の吸収が目的なの~、で、知識を求めて宇宙を旅するのね、それで旅の過程でさまざまな星を訪問して、その星の住民と接触するのね、その星の人の個人を好きになって~、その人と過ごして~、その人の種族全体を好きになって~、文明終焉まですごすの~」


 海はビーの間延びしたしゃべりに少々混乱しながらも、なんとかその内容を理解した。


 理解した内容の確認のため口に出して話してみる。


「あなたの目的は知識の吸収で、今回はたまたま地球に来たってわけね。そして、今回、水無月さんがパートナーとして選ばれた、今後、地球が滅びるまで地球にいるってことよね」


 大地の腕に自分の腕を絡めるビー。


「そうなの~。でね、ダイチくんともっと一緒にいられるように、この体を造ったの」


「え、造った?、あなたって初めからその体ではないの」


 怪訝そうにビーを見つめる海。


「そ~だよ~」


 新たな情報に目を見張る海。


 それまで、蚊帳の外だった空が硬直状態から解けたように身じろぎする。


「海ちゃん、ちゃんと説明して」


「わかったわ、空ちゃん」


 意を決して話し出す。


「落ち着いて聞いてね、まず、私のことからね。私は異星人なの。あ、でもね、地球生まれの地球育ちなの」


 大きく目を見開く空。


「今まで隠していてごねんね」


 その目は不安に満ちていた。


 空に受け入れて欲しい半面、拒絶されても仕方が無いとも思っていた。節目がちに空に視線を向ける。その手は硬く組まれていた。


「ほんとうなの?」


 小さく空が問い返す。


「・・・うん」


 空の顔に徐々に歓喜の表情が広がる。


「海ちゃんが宇宙人!、やっと、夢がかなったんだわ。それも親友の海ちゃんが」


 そんな反応が返ってくるとは露とも知れず、少々ドギマギしながら空を見つめる海。


「なんてことでしょう、ああ、こんな嬉しいことはないですわ。海ちゃんが隠し事をしていたのはちょっと不満ですけど、許してあげます」


 両手で海の手を握る空。


 手を握り合う二人を少々手持ち無沙汰な面持ちで眺める大地。


(なんか俺この場に居ないほうがいいんじゃないかな?)


 にこにこしながら大地を見ているビー。


「許してくれるの」


 おずおずと返す海。


「うん」


 その表情に徐々に笑顔が広がる。


 満面の笑みで見詰め合う二人に大地が声をかける。


「あの~、あなたも宇宙人ということですか」


 キッとばかりに目を向ける海。


「そうよ、なんか文句あるの」


「いえ、ないです」


 しょぼんとする大地。


(は~、なんか俺、やっぱり居ないほうがいいのかも)


 空気の読めない大地であった。


 話の続きを促す空。


「海ちゃんが異星人ってことはわかったわ。それで?」


「ああ、水無月さんの横に居る子がビーという名前の宇宙人なのね」


 みんなの視線がビーに集まる。


 なぜか、笑顔でVサインをだすビー。


「私たちは彼女たちの事を観察者ってよんでるの。彼女はねとてつもない科学力を持っていてね、私たちはカーボナーって言う共同体に所属しているんだけどね。カーボナーは銀河系の半分を支配しているんだけど、このカーボナーの科学力の大本は彼女たちからもたらされたもので、いわば、神みたいな存在なの」


「神」


 思わず発した声に、自分で驚いたのかあわてて、口を押さえている。


「神は精神的な拠り所だから、実際的な利益をもたらせてくれる彼女たちは神以上の存在かもね、その彼女が今度は地球にやってきていて、今水無月さんとパートナー?的な関係、になってるわけね。それで人が好きになってどうも地球が滅びるまで地球にいるらしいわ」


「・・・神が地球に」


 どこか心ここにあらずな反応の空。


 あまりにも沢山のありえないことを伝えられた空の頭はパンク寸前だ。


 突然、スイッチが入ったのか、劇的な反応をする空。


「すごい、すごいよ。海ちゃん。私の周りに親友の宇宙人の海ちゃんがいて、目の前に宇宙人の神がいる。なんてことでしょう。夢のようだわ」


 胸の前で両手を組んだその手は嬉しさで小刻みに震えている。


「とりあえず、これから長い付き合いになりそうね」


 ため息を付きながらこの先のことに思いをはせる海。


「あんたも、下向いてないでなんとかいいなさいよ」


 相変わらず大地には少々きつい言い方をする海。


「はい」


「あんたのことこれから大地って呼ぶから、あんたも私のこと海って呼びなさいよね、わかった?」


「あ、私も大地さんって呼びます。ってもう呼んでますよね、えへへ。私も空って呼んでくださいね。あの、それから、ビーちゃんって呼んで良いですか」


「わたしもビーちゃんってよぶわ」


「いいけど・・・」


「いいの~」


「なに、文句あるの」


「ないです」


 その後、そのまま宇宙人との親睦会ということになった。


 ビーが酒に興味を示していつの間にやら飲んでいて、絡み酒であったことが判明したり、海が急に泣き出す泣き上戸だったり、空が色っぽい絡み酒だったりしたことはまた別の話である。

お読みいただきありがとうございます。

まだまだ勉強たりません。

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