6.ビー、お披露目する。
体つくっちゃいました。
今日は朝からビーが上機嫌だ。
「おっはよ~大地くん。きょうもいい天気だよ~」
早く会社に行かしたいらしい。
「まだ、会社いかないの~」
「ん、まだちょっと早いかな。まずは、朝飯作るかな」
「ご飯っておいしいの?」
「ん、美味いよ~」
「あたしってね、化学成分は知ってるけど、味は良くわかんないの」
「おいしい配合、配分は知ってるんだけどぜんぜん美味さがわかんないの」
目玉焼きを焼きながら話を聞く。
「それは悲しいねえ」
(何とかならんもんかな)
「それも今日までなの~、へへへ~」
言いたくて仕方がない雰囲気だ。
「ん~、そうなのか」
「そうなの~、まだ、秘密なの~」
目玉焼きを皿に移す。
(醤油かけたり、塩、マユネーズ、ケチャップなどかけるけど、俺はマヨネーズ アンド ソースだよな。)
「半熟がいいんだよな」
「半熟?」
「ごめんごめん、独り言」
箸で黄身部分を二つに分断、当然半熟なので中から黄色い液体が溢れ出す。
あふれ出た黄身部分を白身部分にちょっとだけ付けて口に運ぶ。
(黄身の包み込むような味が白身にぷるるんとした食感と交じり合って、さらにマヨネーズと絡まって美味い。最近、たまに、卵かけご飯用醤油かけて食べる事もあるけど、これもいいよね)
「今日、なんかあるんだ」
「そう、あるの~。たのしみなの~。大地も楽しみにしててなの」
「あ、それから、大地くん、今日もきてるの」
「あー、またか」
「駐車場の向こうの電信柱の陰にいてるの~」
怒鳴られた日から毎朝、なぜか小草生月さんがきてる。
(監視されてるのだろうか。良くわからん)
会社から帰ってきてから洗うのだろう、流し台の中に置かれたボウルの中に汚れた食器を入れ若干の水を溜める大地。
食後に歯を磨く習慣があるようで、手早く歯を磨く大地。使っているのは白と水色のストライプの歯磨き粉。
子供のころ流行った歯磨き粉であるが、それ以来ず~と使っている。
上唇の端っこのほくろ部分のみ電気剃刀を使用し、後の部分はT字型の剃刀でひげを剃る大地。
全体をT字剃刀で剃りたいところであるが、下手するとほくろ部分を削ってしまうため仕方なしに電気剃刀と併用している。
使っているコップは会社の設立何周年記念だかで貰ったコップだ。
身支度を整えビーに声をかける大地。
「行ってくるよ」
「行ってらっしゃいなの」
と言っても、ちょっと離れてドローンが付いていく。
大地はドローンには気がついていない。
(は~、何で私が監視なんてしなきゃならないの。観察者を監視する私ってなに、観察者監視師?なんか早口言葉?たぶん、観察者も気がついているんだろうなあ)
たしかに気がついている。
電信柱の陰でモジュール解析器を操作する。
やはり大地の部屋だけ解析結果が反映されない。
(強制排除されないってことは一応黙認されてるってことだよね)
勝手に自分に都合の良いように解釈する。
あまりにも続くようならビーも排除にのりだそうと考えているが、監視され始めてまだ1週間であるので様子見だ。
大地のマンションに来る前に近所のコンビニで買ったアンパンと牛乳を取り出す。
(やっぱり、張り込みだったらこれよね)
変なところで形にこだわる海。
アンパンを食べながら監視を続ける。
(でもやっぱり、私はジャムパンのほうが好きかな。赤いし、明日はジャムパンにしよ。あ、出てきたみたい。)
急に、モジュール解析器に大地のデーターが表示される。
そそくさとアンパンを口に突っ込み、牛乳で流し込む。
(さて、行くとしますか)
近くの道路わきに止めた愛車の軽に乗り込む海。
大地が玄関から出てきたのを確認して海は姿を消す。
(車にでも乗っているのかなあ)
大地はなんとなく思う。同じ電車に乗ったことはない。
(いつも思うんだけど、本当になにがしたいんだ小草生月さん)
今日も日差しがきつい。
(ああ、今日も暑いなあ、どこ言ったんだろ梅雨)
会社に着いて自分の席に座る大地。
空は、大地と目が会わないようにモニターの影に身を小さくして隠れている。
(そこまでせんでも・・・)
大地は大きなため息を付いた。
「は~」
びくっとなる空。
ここは月の中(ビーの中)の一室。
「できてるかな~なの」
その白い部屋の中央の台の上には少女がひとりが横たわっていた。
その体は、リズミカルな心臓の鼓動が伝わってくる。
胸もゆっくりとではあるが上下に動いて呼吸しているのがわかる。
その姿は服などはなにも着けておらず唯一首の後ろの部分に大きさは500円硬貨ぐらいであろうか、丸い金属のようなものが張り付いている。
表面は濁った黄土色とでも行ったらいいのか金属のようだが、端の部分は皮膚と融合しているようだ。
左手首にはガラスでできた四角い腕時計のようなものが装着されていた。
電源は入っているようで、小さな光が時折瞬いており、小さなイルミネーションのようである。
「さあ、起きるのよ~」
ビーの声が部屋の中に響いた。と、同時の少女の目が開いた。
その顔は、初め青染めていたが、しばらくたった後、ほんのり朱色になってきており、徐々に生気がみなぎってきたかに見える。
少女は台の上に横たわったまま、自分の声を確かめるように声を発した。
「あ~あ~あ~、・・・は~」
今まで呼吸することを忘れていたかと思うような大きな深呼吸してから、突然、上体を起こし台の上に横座りする形で足は台から下にのばしている。
少しの間顔に注がれる風を感じてじっとしていたかと思うと、誰に聞かせるというわけではないが声を発した。
「風を感じるということはなかなかなの」
部屋の隅から新鮮な空気を供給しているのか、肩までしかない髪が軽く風に揺れた。
顔は非常に整っており、すれ違った人が10人居れば10人とも振り返るそんな美人と言える顔だ。
若干、幼く、中学生ぐらいだろうか、まだ少女いえる年齢にみえる。
胸はビーにとって機能性を認められなかった結果であろうか非常に質素である。
その少女はそっと台から降り床に足を付けた。
少女は誕生以来始めて地に足を付けたのであるが初めて立ったにしてはやけにしっかりした足取りで立ち、台に手を添えながらであるがその周りをゆっくりと歩いている。
その姿は、一歩一歩を確かめるようにゆっくり歩いたり、早足で歩いたり、時には狭い空間ではあるが走り、足の機能を確かめるようであった。
その場でかるくジャンプし天井まで4メートルぐらいあると思われるがその天井に楽々手をつく驚異的な身体能力をしめしている。
「体は、まだ動かし辛いの。少し調整がひつようなの」
まだまだ向上するようで驚異的な体である。
「目もおもしろいの、全周みえないの、見るためにはその方向を向かなければならないの。感じる光線の範囲も狭いの、ふ~ん、これは後で調整なの」
ドローンからの全方位的な視覚情報がいままで普通だったようで2つの目から入る情報だけの制限された体にはいまひとつ違和感があるようだ。
「胸はちょっと小さすぎたの、でも邪魔になるから少なめでいいの」
やはり、胸についての有用性は認められなかったようだ。
「後はおいおい調整なの、よし、転送するの」
終業のチャイムが響く
~♪~♪~。
(今日も一日何事も無くおわったなあ)
そそくさと会社を後にする大地。
自分の住むマンションまで帰ってきた大地。
ピンク色や淡い水色で塗装された外観はおしゃれすぎて自分には合わないなあ。なんて思いながら鉄でできた階段を上る。
エレベーターが付いているのだが、待っているより階段登った方が早いのでいつも階段を使っている。
トントントンっと4階に上がる。
いつも、ドアの前に立つと同時にドアが開いて「おかえり~。ダイチくん。」と声を掛けてくれるのだが、今日は何故だかドアが開かない。
怪訝そうな顔をしながら、チャイムを鳴らす。♪~
「は~~い」
中にはいるようだ。
いつものちょっと間延びしたビーの声が響く。
若干、笑いを堪えているようなくぐもった声のように聞こえなくもない。
(ああ、そお言えば、出がけになんか楽しみなことがあるっていってたなあ)
「俺じゃないときはど~してるんだろう。きっと、確認してから返事してるんだろいうなあ」
ドアノブをそっと回す。
鍵はかかっていなかった。 ガチャリ。
ドアをゆっくり開く。ギーという音がしながらドアが開いていく。
ドアを開けたところで、ちょっとドキッとするキレイな女の子が走ってきて、大地に抱きついた。
「!!!」
抱きつかれたことに少々びっくりしながらも、女の子を支え、後ろ手にドアを締める。
(苺のにおいか?なんか良い匂いする~)
なんてことを思いながら抱きついてきた女の子を見た。
裸の上に毛布を被っているだけと言うことに気がついて見る間に真っ赤になる大地。
それもそうだろう、今までの人生の中で女の子に抱きついた経験もなく、しかも、少々若いとは言え大地の好みのど真ん中な女の子が裸で抱きついているのだから。
シドロモドロになりながらも平静を保とうと無駄な努力をする大地。
「おかえり~なの」
両手を女の子の肩をつかむかどうするか諮詢しながらさまよっていた手が止まる。
「この声は、・・・ビーか」
「そう、ビーなの、ダイチくんビックリした、ビックリした?」
「その姿、ど~したんだ」
「造ったの。これでダイチくんとぎゅ~とできるの~」
ぎゅー、しがみつくビー。
ほとんど無いとは言え女の子の胸を押しつけられ、しかもその甘い匂いを吸いこんでしまい思わず・・・。
「あれ?お腹のところになんかあたってるの。びくんって?」
手を伸ばそうとするビーにあわてて、
「うぎゃ~、離れて離れて」
ちょっと反応してしまった大地。
「さっきまでなかったあの突起は?ちょっとダイチくん、スキャンしていい?」
「だめだめだめだめったらだめ~」
「むう」
ビーは不満そうだ。
ちょっと、押すようにして突き放したことによりビーの全身を見てしまう大地。
押された事に不満なのかちょっとほっぺたをふくらませるビー。
「いいでしょ、ちょっとだけなの、ねえ」
「だめだめだめだめだめー」
ここは譲れない大地。
しかし、ビーから目は離れない。
被った毛布の間からチラチラ見え隠れするその胸や足、言えない部分などから目が離せない大地。
何とか理性を総動員させて目を引き離す。
「服、服、服着てよ。なんで裸なんだよ」
「だって、ダイチくんに見てほしかったんだもん」
と言いつつ腕を持ち上げ毛布を左右に広げるビー。
「なかなか、いい出来でしょ」
「わかった、わかった、わかりました。僕の理性が無くなる前に服を着てください」
興奮してくると普段自分のことを「俺」といっていたのが「僕」に代わる大地。
普段「俺」といって少々悪ぶって見せているのか。
少し横を向いて気まずさを隠そうとする。
「そお、じゃあ、服、着るね。はい、こんな感じ、これでいい?」
次の瞬間大地の前にはブラとショーツだけの下着状態のビーが立っていた。
その言葉に、壁をみていた視線をビーに向ける。てっきり、服を着たのだと思っていた大地は、下着姿のビーを見てさっきまでとは違った内なる葛藤に戦いを挑まなければならないのでした。
薄ピンクの上下おそろいの下着姿と言う抗いがたい葛藤に思わず一歩踏み出し、慌てて頭を振って後ろに向く大地。
「なかなか、手強いの~、何時かは繁殖行為にもチャレンジするの~」
というビーの小さな呟きは大地には聞こえてはいなかった。
それからビーによるファッションショーの始まりだ。
ビーのチョイスであるため、まとものものは一切無い。どちらかと言うとコスプレ大会だ。
ナース、婦人警官、女医、スチュワーデス、などなど、
中には、水着や着ぐるみなどもあった。
それもそのはずでビーの知識は職業の観点からの調査は行っていても一般人を対象にした一般的な家庭の調査というものはしていない。
普通の年頃の女の子の服装データーはない。
最終的に行きついたのが近所の名門お嬢様校の制服で、大地にも会社の行きかえりに見かける馴染みのある制服だった。
ビーもなかなか気に入っているようだ。
今後、問題が起きそうな気がしないでもない大地だったが、それで一先ず落ち着くことができた大地だった。
お読みいただきありがとうございます。
いろいろ読みにくい文章ですみません。