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59.ビー、ヤングコーンについて語るミネラに呆れる。

ヤングコーン大好きです。

「ダイチくん、ビーが取ってあげるの、お椀かして、あ、ちょっとまってね。・・・、はい」


 ビーが甲斐甲斐しく大地に湯豆腐を取り分けている。


「おう、サンキューや、ビー」


 大地も嬉しそうに受け取る。


「はい、小夜子ちゃんも」


 おずおずとすこし遠慮勝ちにお椀を差し出す小夜子。


「ありがとう、のじゃ」


 まだ、語尾に「のじゃ」を付けている。


「もう、のじゃは、いいのに~」


「はい、・・・のじゃ」


「あれ?小夜子ちゃんってなんや、ミネラさんやで?」


 大地が不思議そうにビーに尋ねる。ミネラではない事に、気がついていないようでキョ トンとした表情だ。


「うん?もう~しょうがないなあ~、ダイチくは~、判ってないのね、この子は小夜子ちゃんなの」


(小夜子ちゃん?なんかそ~言う名前付ける遊びなんかな?また、変な遊び覚えてきたもんやなあ)


「はいはい、あ~、判った判った。ミネラさんは、小夜子ちゃんなんやな。ほんじゃあ、よろしくや、小夜子ちゃん」


「え~と、うん。よろしくね、のじゃ」

 

ビーによそいで貰った湯豆腐に刻みネギ、鰹節をぱらぱらっと掛けてから出汁醤油を少しかけて食べる。好みにより生姜の擦ったものを入れたりするが大地は入れない主義だ。


「はふはふ、ふまいなあ、もぐもぐ。ミネラさんは、おっと小夜子ちゃんやったな、御代わりやったら沢山あるから言ってや、お、そうや 、忘れとったわ、こんなんも造ったんやで、ちょっとまっとってや」


 大地が台所に何かを取りに行った。



 暫くしてから、大地は小さな鉄鍋を持ってきて皆に見せる。


「じゃ~ん、これや~、マーボー豆腐の基。簡易的やけど豆腐無い状態のたれだけなんやけどな、湯豆腐入れたらそれらしく食えるやろ思て、さっき100均で基だけ買って来たんや」


「ダイチくんそれ美味しいの?ぼこぼこ言ってねっとりしてるの」


 ビーはマーボー豆腐を食べた事がない。すこし期待している顔だ。


「それ、大丈夫なんですか?」


 小夜子はもちろん、マーボー豆腐は食べた事はあるのだが、少し怪訝そうだ。普通はそんな造り方はしないから当然である。小夜子の 家では両親は出張などで家に居ない事が多い、マーボー豆腐自体の味は知ってても、あまり家で造ると言う事がないのでなおさらなじみがない。


「文句は食べてからやで~」


 コタツの上には湯豆腐が載った土鍋が小さなガスコンロにかけられており、大地は慎重にコンロごと脇に除けてスペースを造った。


 ガスコンロは一つだけの為、別に600ワットの電気コンロを持ち出して来てガスコンロの横に置く。少々火力が弱いが冷まさない為だけなのでこれで問題はない。


 小さな鉄の鍋にマーボー豆腐の基がぐつぐつとにえたっている。怪しい科学の実験の様にも見える。大地の顔も何処となく笑みが浮かんでいるので少し不気味だ。土鍋と鉄鍋の使い方が逆のような気もするが 、仕方がない。


 鉄鍋に豆腐の投入である。湯豆腐の土鍋から数丁の豆腐を掬い上げマーボー豆腐の基が煮え立つ赤茶色いプールにそっと放つ。待つ事数分、完成だ。


 ひき肉やその他の普通入れるであろう具材は入っていない、ただ、なにか角切りの緑の物体が見え隠れしている。


「よし、出来たで~、どうかな?}


 大地が入れた緑の物体は、アクセントにとキュウリを1センチ大の角切りにしたものだ。なるべく、種が形成されていない若いものが適している。瓜でも良いのだが今日はキュウリを入れてある。


 あまり煮詰めてしまうと歯ごたえが無くなるし、速ければ青臭くなるので頃合いが肝心だ。


 小夜子は若干渋い顔をしながら大地から渡されたマーボ ーもどきをしげしげと見つめる。箸の先でキュウリを突いてみたりしている。


 隣では、同じく渡されたビーが躊躇なく、そのもどきを口に運んでいる。


「美味し~い、辛~い、熱~い、お水ちょうだ~いなの~」


 目を白黒させていたビーだが、気に行ったようで、大地から水の入ったコップをもらってゴクゴク飲んだ後も何度もお椀にもどきをよそいでいた。


 小夜子はビーの様子を横目で見ながら、お椀のもどきに注意を向ける。少しの躊躇の後、意を決っしてなるべく小さな豆腐の塊を箸でとって口に入れた。


 口の中に辛さのカーニバルが広がる。小さな子供が泣きわめきながら狂ったように踊る、そんなイメージと言えば判るだろうか、小夜子にとって、ここまで 辛いものは食べた事がなかった。子供用としての配慮は微塵もない、それどころか、更に唐辛子が投入された大人の辛さに少し戸惑いを感じながらも「ああ、これが大人の味なんだ」と変に納得もしていた。


 口に広がる辛みに驚きながらも、その鮮烈な辛みに嫌な感情は湧きあがらない。小夜子はその辛さに夢中となった。直ぐに水を求めたのは、子供故、仕方のないことである。次に小夜子が箸で摘んだのは、緑色をした謎の物体、およそ、マーボー豆腐には入れられないだろう物、キュウリである。初めその正体は判らなかった。グリーンピースやそら豆の類かと思っていたのだが、そのフォルムは到底、豆とは言えないサイコロ状のものであった。


 恐る恐る小夜子は口に運ぶ。更なる辛さが 口 の中に広がるかに思えて、少し、おっかな吃驚状態である。口の中に入れた後もそれはなにか判らなかった。前歯で二つに裁断する。奥歯の上にその物体が載せられ、上下の歯で軽く押える。舌先でちょいちょいと触れるが判らない。表面はすこし柔らかくなっているが、中は堅い様で弾力が違う。


(これはなにかしら?緑色をしているので植物には違いないわね。アボガドかしら)


 ぐっと奥歯に力を込め、噛んだ。カリっ、歯ごたえの良い中から少し青臭いがマーボー豆腐の辛みを緩和するように爽やかさの出現に思わず声が出ていた。


「なにこれ~、この堅さ、これって、キュウリよね。え~、あたしキュウリ食べてる?」


 実は、小枝子はキュウリが苦手であった、あの青臭 さ、あんなものが口に入ると思うと全てを擲って逃げ出したい衝動に駆られる。それ程の苦手な物体である。それが、今、小夜子の口の中に、名前を口にするのもおぞましい、そんな物体が口の中にいるのだ。頭の中では必死になってそのおぞましい感情を引きだそうと躍起になっている。しかしそんな想いと裏腹にそのまま、噛んで飲み下した。飲み下す事ができたのだ。


 その事実に小夜子は驚いている。


(あたし、今、キュウリを食べたわ、食べたんだわ。しかも、これ美味しい)


「お兄さん」


「え、お兄さん?俺のことだよね、ミネラさんからそんなん言われるとなんかこそばゆいわ、ああ、今、小夜子ちゃんだっけ」


「はい、小夜子です。あ、ありがとうございます 。こんな美味しい物食べさせてもらって。キュウリを食べれるなんて、これはもう魔、そう、魔法です」 


「なにを、おおげさに言うてんのや、こんなん簡単やんか。100均で買ってきた基を唯、温めて唐辛子と味醂少しと角切りキュウリ入れただけやんか、まあ、味醂がポイントやねんけどな、本当はひき肉とか筍とか入れたいところやけど、今日は湯豆腐がメインやから控えてるんやで」


 魔法やと言われて少し嬉しそうな大地。照れ隠しなのかコタツの上にあった水の入ったコップを引っ掴んで口元にもって行く。


「あ、それ、ビーの・・・、間接キッごにょごにょ・・・」


 なにかビーが言いかけていたが、大地はそのままゴクゴク飲んでいる。


 ビーは少し赤くな りながら、俯いており、大地はその様子に(あれ、辛過ぎたかな?)ぐらいに思っていた。


 そんなやり取りをしている中、玄関の扉の処に眩い光と共にミネラが現れる。手には少し大き目の鍋を携えていた。ビーの要請に応じてビーフシチューを持て来たのだ。


「おお、なにやら豪勢じゃな、わしも仲間に入れてもらうとしよう。ビーよ持って来たぞ、ほれ」


 ミネラはビーと目が会うなり、お土産を強要された意趣返しとばかりに、手に持った鍋を放り投げた。


「うわ~、ミネラちゃん危ないの~、ひっくり返ったらど~するの、も~」


 ビーは素早く空中で力場を形成し、包みを受け止めた。


「大丈夫じゃ、ビーなら受け止められるじゃろ、それにのう、鍋の中 は1人前づつ個分けにされたビニール袋に入れられておるので大丈夫じゃ、こぼす心配は無いのじゃ、そのまま冷凍庫で凍らせておけるじゃろ、持ちにくいから鍋に入れたまでじゃ、鍋は後で持って帰るのでな返す様にな」


「それでも、駄目なの、食べ物は粗末にしちゃダメ」


「堅いのう、ビーは、人みたいじゃな」


「ビーは今、人だもん、ちょっと、力のある人なんだから」


「ビーよ、人はそんな風に、空中でふよふよと鍋を浮かべんのじゃぞ、それより、そこで固まっている者に紹介してくれぬか?」


「あ、そうだったの、え~とねえ、今、現れた綺麗な子が、あ、同じ顔だったの~、う~ん、なんて言ったらいいの?う~んう~ん、あ、そうだ、この黒い子がミネラちゃ んなの~、小夜子さん。それで~、ミネラちゃん、こっちのピンクリボンの子が小夜子ちゃんなの」


「ビーよ、黒い子とは、ちと酷い言いかたじゃのう、わしが今着ている服の色だとは思うが、腹の中まで真っ黒のようじゃ、否定はせぬが、もう少しなんとかならんのかのう、お主もそう思うじゃろ?怒ってもいいのじゃぞ、ピンクの子よ」


 小夜子は突然現れたミネラに驚愕している。光と共に突然自分にそっくりな者が現れたのだ、しかも、ビーの斜め上には鍋がぷかぷか浮いたままになっている。これで、驚くなと言う方がどうかしている。


「お主、固まっておるのか?無理もないのう、わしの様に絶世の美女が、突然現れたのじゃ、判る、わかるぞ」


「ミネラちゃん、同じ顔 なの」


「 ん、そうじゃったな。改めて自己紹介するのじゃ、わしはミネラじゃ、よろしくの」


「・・・、え、それだけなの、ミネラちゃん」


「なにか不都合があるのかの?」


「もう少しなにか付けくわえたほうが良いとビーは思うの」


「そうなのか、ふむ、じゃあ、ミネラじゃ、お主もなかなかの美人さんじゃな、わしには負けるがの」


「ミネラちゃん・・・。同じなの。はあ~なの、ため息がでるの。この子はミネラちゃん、小さいけど、ビーのお姉ちゃんなの。甘いもの大好きで、最近、ヤングコーンに嵌っているらしいの」


 ビーの口からヤングコーンと言うキーワードが出た為、これ幸いとヤングコーン信奉者を増やそうと、語りはじめる。


「ヤングコーンは 最高じゃ、ビーも食べてみた方が良いのじゃ、噛んだときのカリッとした食感たまらんのじゃ、表面の小さな未成熟のコーン、未成熟ながら、しっかりその存在感を出しておる。舌の先に当たる粒粒感が良いのじゃ、サラダに入れても良し、煮たり焼いたりしても最高じゃ。図に書いて説明するとじゃな、ダイチちゃん、紙と鉛筆はあるかの」


「あるで~、ちょっとまっとってな」


「スト~プ!ヤングコーンはもういいの。ダイチくん、ストップなの」


 腰を浮かしかけた大地のセーターの端をビーが掴んで止める。


「いいのか?まだまだ、語りつくせぬぐらい溢れる思いでいっぱいなのじゃがのう、もう少し、説明した方が良いのじゃないかの。ビーよ、お主、ひょtっとして、あ の素晴らしいものを食べたことがないのではないかの、そうじゃ、きっと、そうに違いない。いかんのう、いかんのじゃ、ビーお主、食べず嫌いは、駄目じゃ、ここは一つわしが、教えてやらねばならんのう」


 うんざりした顔のビー。小 夜子は相変わらず固まった状態だ。


「結構なの、もう、十分なの」


 少し、不満顔なミネラ。手が鉛筆を求めてわきわきと、動かしている。


「むう、本当にいいのかの」


 とても残念そうにするミネラ。どれほどの思いがあるのだろうか。


「もういいの、それ以上言うなら、ビーも溢れるダイチくんへの想いで対抗するの。ビーはねダイチくんの」


 それを聞いたミネラは慌ててひっこめる。ビーがダイチについて語り出すと日が替わる。


「判ったのじゃ、今日はここまでにしておくのじゃ」


「ダイチくんはね、ああ見えてね、凄いのよ、それはね」


 顔の前で手をひらひらさせるミネラ。


「判った判った。降参じゃ」


 火が 付いたのかなか なか止めないビー。


「むう、ミネラちゃんだけ語ってずるいの、ビーのも聞いて欲しいの」


 このままでは、話が進まないと思ったのか、大地が割って入る。


「はいはい、ビー、その辺にしとこうな、聞いてるこっちが恥ずかしいわ、ビー、それより、そこで浮かんでる鍋、ど~にかしてくれるか」


「ほへ、あ、忘れてたの。ダイチくん、はい、これ、ビーフシチューなのよ」


「おう、サンキューや、ミネラさんありがとうや、でも、ミネラさんって分裂出来るんやな、知らんかったわ」


「分裂?人をミドリムシみたいに言いおって、大地ちゃん、それを言うなら分身じゃろ」


「おお、そうや、分身分身、でも、凄いよな分身か~」


「ああ、その子は 小夜子と言うらし いぞ」


「うん、そうやったなあ、こっちの子が小夜子ちゃんで、さっき来た方がミネラさんやね」


「そうそう、間違わんようにな、まあ、わしの方が美しいので間違わんじゃろうがな」


「ミネラちゃん、さっきも言ったけど、同じなの」


「ん?そうかのう、わしの方が、明らかに纏っている気品が違うじゃろ?この何処までも白い素肌、正に白魚のような指先、触れると壊れてしまう様な肩口からのライン、ちと胸のあたりは寂しいがの、それもこれからじゃ、な、判るじゃろ?大地ちゃん」


「ごめん、わかりません」


「なぬ、判らぬとな?それはいかんのじゃ、それは、わしとのスキンシップが足らぬと言う事に違いないのじゃ」


 ミネラが大地に向かって ダイブする。それを空中でビーが力場で受け止める。


「やや、ビーよ、これはないのじゃ、下ろしてくれ。判ったのじゃ、わかったから、はよ」


 空中で引っくり返ったミネラがもがいている。スカートが捲れあがり、着ているゴスロリ衣装には少し不似合いな、大きなクマさんがプリントされた白い生地が見え隠れして、少し目のやり場に困る大地。


 ビーに下ろしてもらい、ぱんぱんとスカートを軽く叩いて整えている。ミネラが上目使いにダイチと視線をあわせひとこと。


「えっち」


「ダイチくんは、えっちでいいんです。えっちでなかったら、ダイチくんじゃないもん」


ビーがフォローなのか、エッチ発言を肯定する、しかし、フォローになっていない。


「ビー、そりゃないよ。それにミネラさんひと言、言わせてもらうとやな、その衣装に、クマさんはないわ、クマさんは」


「ダイチちゃん、やっぱり、しっかり見ておったのじゃな、ダイチちゃんとしては純白か、レースじゃな」


「まあ、レースは良いなあ、その衣装やったら、レースの赤か黒かな、あ、いやいや、そんなこと言うてんのとちがうやろ、つい、答えてもうたわ」


「そうじゃったか、赤か黒なら大地ちゃんの心を鷲掴みにできたわけじゃな、わしとした事が、失敗じゃった。ギャップがいいかと思うておったのにのう、王道とは、逆の逆じゃったとは、読み違えたようじゃのう、次からは気を付けるとしようぞ。ダイチちゃん、次を楽しみにしておるがいいぞ。」


 ミネラは小夜子に、目を向ける。そこには、相変わらず固まったままの小夜子がいる。目は 、ミネラに釘付けだ。


「なんじゃ、お主、まだ、固まったままなのかのう、難儀なことじゃな、ほれ、しっかりせぬか」


 ミネラは小夜子の肩を掴んで揺らす。


「え、え~、なに、ど~言うことなの、のじゃ、あ、あたしがいる。ド、ド、ド、ドッペルゲンガー・・・のじゃ」


「誰が、ドッペルゲンガーじゃ、失礼な、そうすると、お主はもうじき死ぬのじゃな、わしにはど~でもいい事じゃがな」


「ドッペリゲンガーじゃないの?あ、そうか、あなたが、ミネラさんね。本当にあたしとそっくりなのね、驚いたわ、のじゃ」


「そう、わしが、皆のアイドル、ミネラちゃんじゃ、よろしくなのじゃ、おお、このフレーズはなかなかじゃな、今度からこれを使うとするかの」

お読みいただきありがとうございます。

なかなか、遅々としてすすみません。

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