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4.ビー、やきもきする。

ご都合主義もいいとこですね。

笑って見逃してやってください

 大地がビーとであって数日後、ビーは一日の大半を大地の部屋に飛ばしたドローンに意識を向けて過ごしている。


 昼間は大地が会社に行ってしまってかまってくれないので、世界各地に飛ばしたドローンでさまざまな映像、知識の吸収をしているが、大地が帰ってくると大地との会話が楽しくてしょうがないようだ。


 そんなある日。


「ダイチくんはあたしの力をあんまり使いたがらないねえ」

「ん~、そうかなあ」

「だって~、瞬間移動できるのに電車乗って会社行ってるし、食べ物なんかでもなんでも、ビーが合成してあげるのに、お金出して買ってる~。そのお金だってビーが出そうと思えばいくらでも合成できるのに、合成が嫌だったら普通に株価予想でもなんでもできるから簡単に稼ぐことができるのに、なんで、なんにもしないの?」


 その声音からは少々不満が伺える。


「瞬間移動は、たぶん遅刻しそうになったらお願いするし、食料についてもサイフがピンチになったらお願いする。お金はやっぱり犯罪だからちょっとやりたくないしなあ。株価予想ってなんかずるしてる気がするし」


「ふ~ん、そうなんだ~、使いたくなったら言ってよね」


 もともと小心者の大地はなるべく普通の生活を維持したいとは思っていたが、楽できれば楽したいと思わないでもなかった。


 ぶっちゃけ言うとなにも考えて無かったということだった。


(今度、通勤でお願いしようかな)




 そんな会話をしていた数日後。


「今日は大地くんなんだかお寝坊さんなのよ~。昨日、接待とか言うよくわからない風習をやってきたと言っていて、夜遅く帰ってきたと思ったらそのまま寝てしまって、ちょっと不満なのですの」


 時計の針は8時30分をとっくに過ぎていた。


「ちょっと、ダイチくん、起きなくてもいいんですの?。ダイチくん。ねえ、ったらねえ」


「うう~ん、うう。今何時?」


 大地は布団に抱きついた状態で右手だけをもぞもぞ時計を探すように辺りを漂わせている。


「今、8時40分28秒ですの」


「えっ、何時って」


 宙を彷徨っていた大地の手がピタリと止まった。


「今ねえ、8時41分16秒ですの」


「え~、まずい、まずい、まずい・・・・まっず~い~」


 気持ちの良い朝だというのに顔面から冷や汗をたらし、慌てて飛び起きる大地。


 大地の格好は、昨日帰ってきたときのままで、スーツのまま寝ていた様だ。


 しわくちゃスーツ姿が悲しい。


 逆に今の時間の無い状況ではそのまま飛び出せる為、好都合か。


「8時43分12秒なのよ。だいじょうぶ?」


 窓の外の道路にはゴミ回収業者が来たのか大型車の発する低いうなり音と時折堅いものがあったのかガタガタいう音が辺りに響いている。


 近所の子供たちの登校する姿はすでにない。


 高校生だろうか、「遅刻なんか関係ありません」とでも言うのか、堂々とした足取りで進んで行く数人を見かけるのみである。


「あかん、どう考えてもまにあわん。朝の会議ど~しよ~」


 鞄をもったまま玄関でへたり込む大地。


 大地の家から歩いて駅まで10分、電車で45分、さらにバスで15分ほどかかる為、絶望的である。


 奇跡でも起こらない限りどうにもならない状況であるが、ここにはビーという奇跡の産物があった。


「お手伝いできるの~」


「お願い、申し訳ないけど、送ってください」


「いいよ~。座標固定の為、先にドローン飛ばすの~。ちょっとまってね」


 少々のんびりした声ではあるが、大地にとっては正に神の声の様に感じた。


「ドローンがダイチの会社に着いたの。はいはいっと、転送地点は屋上につながる階段のとこでいい?」


「そこでいい」


「それじゃあ、おくるよ~」


 白い光と共に消える大地。辺りにはなにも無かったかのように朝の喧騒が戻ってきた。


 道路では近所のおばちゃんが餌としてやったのだろうか、パンの耳を雀がちゅんちゅん鳴きながら啄んでいる。


 少し離れて近所の猫が睨んでいる。


「さあ、朝の時代劇シリーズ「暴れん坊○軍」を観るの~」


 そんなのほほんとした声が聞こえてくる。


「あ~、靴、送るの忘れちゃった、てへ。まずいかな、なんとかなるよね、うん。〇軍、〇軍っと」


 玄関にはいつも大地が履いていた革靴が物悲しそうに片一方はひっくりかえった状態で残されていた。


 大地の務める会社は物を造っているわけではなく、設計専門の会社である。


 工場はなく雑居ビルに事務所を構え、一室にPCを設置し営業が取ってきた仕事に合わせて設計を行い図面化、納入し対価を得ることを行っている。


 いつも大地が座っている席の対面側に、見かけは一時代前の事務所のおばちゃんという呼び名がぴったりの女性が座っている。


 歳はちょっとわからない。


 歳を取っているようでもあり若いようでもある。そんな不思議な雰囲気を持っている。


 腕には両手とも最近では珍しく黒い腕カバーをつけ、服は会社の制服の白黒の縦じま、スカートはちょっとやぼったく何の飾りも無い黒一色、洗練とは程遠い感じだ。


 顔にはこちらも最近見ないフチが黒く太い眼鏡を掛けている。


 なにか行動を起こすときに眼鏡の左右を押して位置を正すのが彼女の癖のようだ。


(なにかおもしろいことないかしら。空から得体の知れないものがやってくるとか)


 この女性もちょっと変わった人のようである。


 彼女の名は如月空きさらぎそら、大地と同じ会社に勤めている。


 女性としてはめずらしく機械設計技師である。


 大地とは正面に座っているのではあるがあまり話はしたことが無い。


 朝会えば挨拶ぐらいはする間柄だ。


「そういえば、水無月さん来て無いわね。いつもなら20分まえぐらいには来てPCでカチャカチャやっているのに。休みかしら」


 何気なくそっと眼鏡を直す。


「そろそろ始業時間ね」


 そお言いながらそっと立ち上がった。


 その雑居ビルの屋上に繋がる扉の前に白い光と共に大地が現れる。


 大地の出現によって、押しのけられた空気が逃げるシュッという風が狭いところを抜けていくときに発する音にも似た音が階段スペースに響いた。


 通常だと、空間内の同一体積分の空気と入れ替えて転送を行うのであるが、あまりかまってもらえなかったビーのいたずらであろうか、大地は突然の気圧変化に耳の痛みを覚え顔をしかめた。


 そこへ運悪く同僚の如月空。


 彼女は業務が始まる前に階段スペース横に設置してある自動販売機で1杯70円のコーヒーを飲む事を日課にしていた。


 この日も日課のコーヒーを飲み空になった紙コップを捨てようと自動販売機に行く途中であった。


「んん?なんか光ってるよ、あれ、なんか配線がショートしてるの?」


 階段の上のほうでカメラのフラッシュを焚いたような光が連続して光る。


 恐る恐る自動販売機の影からそっと覗いてみるとそこに居た大地と目が合った。


 目が合った瞬間ビクッとなる大地。


 咄嗟にあいさつの言葉がでたのは大地にしてはよくやったと言うべきだろう。


「おはようございます。如月さん」


「・・・おはようございます」


(すごく睨んでるよ、如月さん。見られたかな、ど~しよ)


 辺りは少しほこりにより煙っている。


「そろそろ会議の時間ですよ、水無月さん」


「すぐに用意します」


「それはそうとして、ここで何をしてるんですか、裸足で」


「え、あ、本当だ」


 ここで初めて裸足に気が付く大地。


 背中が汗でじっとりしてくる


(うう、なんとかごまかさなくては)


 焦る大地。


「まあ、いいです。早くしてくださいね」


 そお言い、あっさりその場を後にする空。


「助かった~」


 そそくさと席に着き、机の下に置いてあったサンダルを履く大地。ずっと革靴では蒸れてしまうので、社内ではサンダルを履いている。


♪~♪~♪~


 始業開始を知らせるチャイムが鳴った。10分程度の朝礼の後、会議の為、別室へむかう大地。


 後ろ姿を見送る空。


 すぐその後、階段スペースにその姿があった。


(あれは絶対何かがあったわ)


 屋上の扉に始まり階段部分を入念にチェックする空。


「なんにもないわね」


(ますます、怪しい)


「水無月さんどこから現れたのかしら。まさか、テレレポーター!?うふふ、これは、ちょっと楽しくなってきたかも。絶対超常現象ね。やっと、私の前に超能力者が現れてくれたのね」


 肩を震わせて喜ぶ空。そう、空は超常現象が大好きで大好きで大好きでいつか超常現象に会う事を夢見る乙女と言うにはちょっと遅かった女性である。


「今日から観察しなくちゃ。ふふふふふ」


 その日から大地観察作戦と銘うったストーカーが始まった。


〇月〇日

今日から水無月大地を対象に観察記録をつける。

今後、どのようなことが観察されるかたのしみ。

彼はテレポーターだろうか、それとも未来から来た調査員?

まさか、宇宙人とか、今後明らかになると思う。


〇月×日

今日もなにも異常な出来事はなかった。

なかなかしっぽを出さない。

なかなか慎重な人のようだ。人?ほんとに人だろうか。

ひょとしたら・・・。

〇月△日

最初に確認してから2週間ほどたったが、今だになにも変なことは起きていない。

おかしい、水面下でいろいろやっているのではないかちょっと不安になる。

私以外の人が全て入れ替わっているとか?

あの人は宇宙人のような気がする。

休日にも観察しに行くべきか。


△月〇日

今日は休日であるが朝から水無月大地のマンション近くで監視。

たまに。窓からガラスのピラミッド状の物体が見える。

何らかの装置だろうか。

あれが何なのか非常に気になる。


△月□日

最近良く目が合う。感ずかれたのかも。

ちょっと自重しなくては。

ばれてしまってはますますしっぽが掴めない。

少し大胆にいかないと駄目だろうか。


□月〇日

今回は大胆にいってみようと思う。

あの光を確認できた前の日、水無月大地は接待で飲んでいたと言う話を聞いた。

ひょっとして酔わせればしっぽをつかめるかも知れない。

一考に価する考えである。

幸い、明日は金曜日、飲みに誘ってみようと思う。

なんとしてでもしっぽを掴む。





(最近、如月さんと良く目があう。気が付かれないよう、そおっと物陰から見てみてもなぜか目があう。向こうもこちらを見ているようだ。なんだろう?。ひょっとして気があるとか?ないない、ないなあ)





(最近、ダイチくんの周りに女性の同僚の方の影があるようなの。ストーカー?なにか調べているようでちょっと気になるの。目に余るようなら、ちょいってどっかにやっちゃうけど、もう暫らく様子をみるの)





 そろそろ18時になろうと言う時間、しばらくして終業のチャイムが響く。


♪~♪~♪~


「お~今日も終わった~」


 両手を頭の上で組んで背伸びをする大地。今日は金曜日なのでそこかしこで飲みに行く話しが出ている。


 大地はそれほど社交性が良い訳ではないのであまり誘われない。


 本人も気を使うのが苦手なので誘われたいとは思っていない。


 帰ろうとして鞄を手に取り立ち上がりかけたところ横から声が掛かった。


「ねえ、ちょっと、飲みに行かない?」


「え、おれ?」


(ちょっとびっくり、なんと、如月さんからお誘い?)


 立ち上がったまま、ほけ~とする。どう返していいかわからなかった。


「そう、ちょっと下で待ってて下さる?、すぐに用意して行くから」


 と言い残しこちらの返答を聞かずに出て行った。


 そそくさと扉から出て行く大地。ちょっと足取りは嬉しそうだ。


(とうとう行動をおこしたのね)


 ビーは数日前から大地の周りに常にドローンを待機していた。


「おまたせ~」


 1階のエレベーター横の喫煙スペースで何気なく待っている大地。


 特にたばこを吸うわけではないが、柱の陰になるこのスペースが目立たずに人を待つには良いと大地は思っている。


 逆に相手から見つけられなくなるのだかそこまで気が回らないようだ。


 そこにキョロキョロしながら現れる空。


 仕事中とは別人であるかのように華やかであった。


 コンタクトにしたのか黒縁眼鏡がなくなり、アップにしていた髪も下ろしている。


 長さは肩より少し長いくらい、まさにお嬢様然としており、なによりその着替えた服は白を基調としたまさに清楚と言う言葉がぴったりであった。


 思わず絶句の大地。


「なに~、どうしたの?」


「いや、なんでもない」


 返すのが精一杯で、大人げなく、すこし、頬が赤くなっている大地であった。


「さあ、どこ行く~」


「え、2人だけ?」


 てっきり、人数合わせの為にでも呼ばれたのだろうと思っていたのだが2人だけと聞いて驚く大地。


「そう、2人だけ。私じゃ不満?」


(みてるみてる。おめかしして正解だったかも、ふふふ。さあ、しっぽをだしなさいな)


「とんでもない」


(は~、緊張する~。如月さんってこんなに美人さんやったかなあ)


 いつもとは違った如月の姿に緊張する大地であった。


 10分程度歩いて1軒の居酒屋にたどり着く。


「ここはどおかな」


「いいんじゃない、でも、ちょっとデートには不向きかも知れないわね。まあいいわ、入りましょう」


「デートって・・・」


 さらに赤くなる大地。


(赤くなって・・・、デレデレしちゃって、なんかおもしろくない)


 大地たち一向より少し離れてついてくるドローン。


(やっぱり、体が必要なの、今度、造ってみようかな。そしたら、ダイチくんともっと一杯楽しいことできるかも)


 ドローンが小刻みに揺れている。


「乾杯~」


「お疲れ~」


 キンッ、軽くビールジョッキを打ち合わせる二人。それから30分ほどとりとめの無いバカ話をして過ごす二人。


(なかなかしっぽを出さないわね。こうなったら女は度胸の直球勝負よね)


「私ね、前から水無月さんのこと気になってたの。あ、下の名前で読んでいい?」


「気になるって、・・・。好きに呼んでくれて構わないよ」


(ドキドキ。これ、なんの話?これ、ドッキリ?からかってんじゃ?)


「ここ暫らく大地さんのことずっと見てたわ」


 居酒屋の横の電信柱の影にドローンが浮かんでいる。


 興味の対象は空ではなく電柱の陰にいる猫である。


(かわいい~。触りたい。やっぱり体は必要ね)


「私ね、見ちゃったの」


「何を」


 そっと大地の手に手を重ねる空。


 もちろん、逃がさない様にする為である。


(もしも、テレポーション行っても、手を繋いでいれば私も一緒なので逃げられないわ、たぶんだけど)


(え~、なんで手を掴まれてるの?、これってもしかしなくても告白だよね)


 二人の思いは大きく隔たりがあるが気付かない。


 自分のことだけで精一杯である。


 観視しているビーも今は猫の動作に興味の大半を振り分けている。


(さあ、逃がさないわよ)


「ちょっと前のことなんだけど、朝、大地さんが、屋上に繋がる階段のところで光の中から出てくるのを見たのよ」


 実際には見ていないのだが、いつの間にか空の記憶では見たことになっていた。


(!!!、なんとかごまかさなくては、ど~すれば・・・)


 空は目を反らさず真正面から見つめている。キラキラとしていてどこか狂喜に満ちた目だ。


 空に握られた手がじっとりと汗ばんでくる。大地はあまりにも危機的状況ではあるが、どこか冷めた目で空を観察している。


 キラキラとした目を見ているうちに、大地は空のことを素直に綺麗だと思った。


 質問の答えとはかけ離れた言葉が思わず口からでてしまった。


「綺麗だ」


「!!!、なにを言ってるのよ」


 異性の手を握っていることをあらためて認識する空。


 その顔は見る間に真っ赤になり、あわてて手を離した。


(なに、なに、これ、ど~ゆ~こと)


 改めて今の状況を考える空。


(これって、私がデートに誘って、手握って、「綺麗だ。」の一言。まるで愛の語らいみたいじゃない。うぎゃ~、恥ずかしい、恥ずかしすぎるの~)


 目をつぶって、両手で顔を覆って真っ赤になった顔を隠す。


 いてもたってもいられなくなった空は慌てて席を立ち


「ごめんなさい・・・」


 と一言を残して店を後にした。ぽつんと一人残される大地であった。


 衝立の向こうの席の酔っ払いが勘違いしたのか助言めいた言葉を投げかける。


「兄ちゃん、はやまったなあ。もっと、ソフトにいかにゃあ」


「????」


ますます、混乱する大地。


夜はさらに更けていく。

お読みいただきありがとうございました。

ちょっといまどき純情すぎるでしょうか。

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