3.ビー、大地の家を訪問する。
なかなか遅々とし進みません。
書きたい事いっぱいあるのですがなかなかに難しいです。
小1時間ほどのドライブで大地の住む長月市にやってきました。
長月市は、昔炭鉱のあった町に隣接する町で海に面していることもあってここから石炭を出航していた.
港町として発展し、石炭の採れなくなった今でも近隣の町より港町としてそのまま栄え、ちょっとした高層ビルが立ち並び大都市とまでは言えないが、それなりに栄えている地域である。
そろそろ走行距離が13万kmを越えようかという最近ではあまり走っていない車が後部座席を荷物で満杯状態で、街中の狭い路地を進み、10階建てマンションの1階部分の駐車場に停まった。
にんまりした笑顔のまま助手席に浮かんでいるドローンに向かって
「ここの4階が僕の住んでる家さ」
「ここが」
「いまさらながら、異星人とのファーストコンタクトがこんなだったなんて・・・」
なんか遠い目をしながら、ハンドルに両手を添えてつぶやく大地。
「こんなもんでしょ。それとも、なに、ダイチくんは、白い光で包まれて意識を失って、気が付いたら身動きできないように固定されてて、お腹を大きく裂かれたかったとかなの?」
「そんなこと言ってない。固定されてるとこまでは思ったことはあるけど。なんか埋め込まれたりとか」
「思ったことはあるんだ。・・・変態さん?、なんなら、今からやるの?」
なにかを探しているようにドローンが車の中をゆっくり飛び回った。
「じゃあ、そこの『タガネ』って言うのかな?でも埋め込んどく?。手の甲から生えてるのってなんかかっこいいかも。左に尖ったの生やして、右に平らなの生やしたらなんかいいよね。うふ」
「ないないない、ないよ」
両手の甲を見てから必死で両手を左右に振って否定する大地。
「そう?、いいのに、気が変わったらいつでも言ってね。得意だからね」
大地は大きめの氷の塊でも飲み込んだようななんとも言えない表情をして、ふ~と一つ大きく息を吐き出し、一言、言ってから車を後にした。
「ちょっとまってて、部屋散らかってるから、かたずけたら呼ぶから」
得体の知れない宇宙人のビーに対して部屋に来た女の子のように接してくれる大地を微笑ましく思うビー。
「うふふ。あたしの目には、もうどんな状態かはわかってるんですけどね」
マンションに設置された鋼鉄製の階段をダンッダンッダンと、音を立てて登る大地を見送りながら呟くビー。
ビーの高性能の目には大地の部屋の様子は外からでも手に取るようにわかる。
それこそ、大地が知らないような、部屋の冷蔵庫の下にころがっている500円玉はおろか、古本として買った単行本の間に挟まっている誰かが挟んだ一万円札の位置まで把握している。
(それにしてもこの荷物、部屋に入るかな?)
ちょっと不安に思うビー。
(入りきらなかったら、ちょっと空間いじって広げてあげてもいいよね。)
なにやらとんでもないことを思ってるビーだった。
大地は焦っていた。
(宇宙人を部屋に招くってどうすりゃいいんだろ。誰もこんなこと悩んだやつおらんやろなあ)
ポケットから部屋の鍵を取り出すのもままならず、思わず足元に落とす。
(なに、てんぱってんだろ)
屈んで鍵を拾い、鍵穴に鍵を突っ込むのももどかしく思いながらも、ため息に近い大きな息を吐きながら鍵を回して部屋に入る。
大地の部屋は9畳ぐらいで台所と一体になっており、バス、トイレ付。部屋の中はさすがに他人には見せられないくらいのゴミだめと表される状態。
入り口近くには性格からくるのか、きちっと分別されているゴミ袋がある。
一番玄関に近いところにあるのが中がいっぱいになった燃えるゴミ専用のゴミ袋があり、その隣にはプラスチック専用のゴミ袋がそれこそ入り口からあふれ出すような状態で置かれている。
あまり酒は飲まないようで、缶、ビン用の袋にはビールの缶がひとつだけ。
この部屋に越してきた時より万年床となった布団が一組、その他には小さな冷蔵庫、テレビ、本棚の上には鉱物各種。
もちろん、本棚の中には鉱物に関する本がぎっしり。
部屋の隅にはマンガの本やDVDが積まれていて、ほんの少しエッチな本も混ざっていた。
下駄箱の上には透明な衣装ケースがあり、中には洗濯を待っているちょっと地味な柄の汚れた服や下着、靴下などが詰まっている。
週末にはまとめて洗濯されるのだろうが、今日は、鉱物採集に行った為、サボったようだ。
部屋は北側に面しているのか、昼でも少々暗いため明かりのスイッチを入れ、押入れに布団、マンガ類を突っ込む作業を始める。
ゴミ類も少々見栄えが悪いので縛ってベランダに出す。
台所に詰まれたまだ洗ってない食器類は適当にゆすいで棚の上に置き、何とか見れるような状態になったと判断した大地は窓から合図をしようと身をのり出したが、1階の駐車場を見ることができなかった。
諦めて振り返ると目に前にドローンが音も無く浮かんでいた。
「!!!、あ、あれ?」
「ごめんなさい。下から見てて終わりそうだから着ちゃったの」
「え、どうやって?、扉、閉まっているのに」
扉に目をやる大地。
「あたし、場所さえわかれば、どこでも、亜空間経由で瞬間移動できるのよ。便利でしょ。と言っても本体は移動できないけどね、ドローンで力場に包めるもの限定ね」
「ふ~ん、あ、それじゃあ、車からさっき採った鉱物運んでもらえる?」
「いいよ~、ちょっと端によってね」
慌てて大地は窓際までさがる。
次の瞬間新聞で包まれた鉱物が部屋がいっぱい現れる。
「うお~。すげ~、こんだけ、車に積んだら、そら車も走らんわな」
実は、採集した鉱物の質量と体積をちょっといじって小さくして積んでいたことには気が付いていない。
実際に採集した量は車積載量の3倍以上あった。
さすがに床から1メートル近くなった時点で何処かおかしいと思い始める大地だった。
(これちょっと、量、多くないか?、マンションの床、大丈夫かな。)
「えっとね、車に積んだ時点で、ビーが質量をちょっとだけね、いじったの。それをね、部屋に移動したところで解除したのね」
「それでこの状態か~」
そこかしこでミシッ、ミシッと不気味な音が響く。
「このままだと、たぶん、明日には床が抜けてると思うのね、だから、ちょっと空間いじらせてもらってもいいかな」
大地は恐る恐る窓を開けてベランダに移動する。
「ど~すんの」
「あのね、押入れの中の壁を亜空間に繋げてね、亜空間だから終わりが無いのね、そこに部屋作ってこの石を移動させようと思うのよ」
「ほ~、そんなことができんのか、願ってもない、よろしくお願いします」
「常設しちゃうとまずいので、簡易型で、え~と、あった、あった。ダイチくん、ちょっと手をひろげてくれる?」
大地が何気なく手を上に向けて広げると急に手を中心に白い光が出たかと思うと光が消えた後に黄色い玉に針が突き刺さったような押しピンそっくりの物体が現れた。
「これを4隅に差し込んでもらえる」
「わかった」
大地が押入れの中に入り慌てて突っ込んだ布団やらマンガやらを移してから、押入れの壁の4隅に謎の押しピンを突き刺してでてくる。
「これでいいかな」
「うん。ちょっとまってね。えっと、エネルギーは簡易型だとちょっと不安かな、あ、そうだ、座標を私の中に設定してっと、エネルギーもあたしとリンクして供給、うん、これならいいよね、こんなもんかな」
(なんか不穏な独り言が・・・)
大地は少々不安になりながらも待っている。
急にブーンと言う低周波の音が響いたかと思うと押入れの壁が水面のように揺らいだ。
「できたよ~。あのね、常設型だとずっと維持されるんだけど、この場所にずっとって言うのはちょっと問題がありそうなので簡易型で造ってみたよ。それでね、簡易型だとエネルギーに不安があったのであたしの中に部屋つくってエネルギー供給してみたよ~」
「いずれ、どっかの恒星採ってきてエネルギー元にするから、それまであたしが供給するね~」
「恒星って・・・、入ってもだいじょうぶ?」
恐る恐る壁にそ~と手を伸ばす。
「ちょっとまってね、まだ、向こう側に酸素ないからね~。・・・はい、いいよ~」
ビーの一言にちょっとびくっとなりながらも壁に向かって人差し指でつんつんと突く大地。
大地の指にまとわり付く境界面は水を思わせた。
少しゆっくりながらも、しっかりした足取りで進む。もちろん、先導はビーが操るドローン。
大地の全身が壁の中に吸い込まれるように消えたあと、月に擬態したビーのなかの空間に火がともる。
天井までが5メートルほど、奥行きと横幅が10メートル程度の出口のない白い空間だった。
光は天井自体が淡く光っている。床は少し弾力があり、また、仄かな温かみもあり素足で歩いても違和感が無い。
「ここに、あの結晶を移動するね~」
「ここって、ビーの中なのか」
「そう、あたしの中。殺風景でごめんね。ダイチくん、あたしの中に入った感想は。?うふふ、あたしの中って言い方、ちょっとエッチね」
その問いかけに真面目に返す大地。
「うん、涼しくていい匂するね」
世間は梅雨に入ったばかりではあるが気温は30度を越える日があり夏を思わせる陽気だったが、ビーの中は25度に保たれていた。少々肌寒い。
「いい匂いって、ダイチくんエッチね」
「・・・」
「早速、移すわね」
「おう、よろしく」
次々に足元に鉱物が出現する、それも、部屋にあった新聞紙に包まれたものではなく、新聞も取り払われ、泥なども落とされ洗浄も終わった状態で。
「あれ?綺麗になってる」
大地は現れた鉱物を手に取り不思議そうに見ている。
「ああそれはね、移動するときにゴミや砂、泥などを分離してもってきたのね。だって私の中にねゴミなんか入れたくないじゃない、だからね」
「へ~。それも便利やね。洗浄せんでいいなんて楽やね、ありがと」
(お礼言われちゃった。なんか、照れちゃうの)
「ダイチくんについてもそうだよ、さっき壁を抜けるとき体に付いた汚れなんか全部取り除いたんだよ」
「ふ~ん、そうなの?」
大地は自分のことには興味が無いようだった。
大地の反応にちょっと不満を持ちながらも転送作業を続けるビー。
結構広い空間だったのが瞬く間に鉱物でいっぱいになる。
大地は次々に出現する鉱物に走り寄っては覗き込み、「こりゃいい」なんて奇声を発している。
「それじゃあ、本棚に似たものをだすよ~」
足元から格子になった本棚状のものがせり上がって来る。
その上に鉱物を乗せる作業に没頭する大地。
乗せる時、角度にこだわりがあるのか、一旦載せてから再度回転させ載せなおすという作業を続けている。
全てを台の上に設置終わるのに半日を要した
「こんだけあると壮観やね」
腰に手を当ててトントンッと叩き年寄りじみた仕草をしながらつぶやく大地。
「あたしにはこの石の意味はわかんないけど大変なのはわかったよ。いつでもこことのリンク繋げておくから自由にきてね」
「うん、ありがとう」
頬を人差し指でぽりぽり掻いている大地。
「ここって、ビーの中なんだよな」
「そおだよ」
「ここの外って月、いや、宇宙なの?」
「見たい?」
「見たい見たい」
奥の壁が白一色だったのが急に暗くなり小さな光の玉が散りばめられた世界が広がる。
映像は左から右に移動しているようでしばらくすると一際大きな丸い水色と白いもやの物体が映し出された。
大地には、初め、それがなんの映像か判らなかった。徐々に記憶にある景色と認識を一つにして
「ほ~、これが地球」
「そうだよ~、これが貴方たちが住んでる地球だよね」
「これ、映像じゃなく自分の目でみれないかな」
無性に目で見たいという思いとらわれる大地。
「いいよ~。この部屋をガラス張りにして表に出す~?。それとも、ダイチくんだけで宇宙服みたいなので包んで出たい?」
「歩いてみたいので、宇宙服でおねがい」
「OK~、それじゃあね、壁際でね、手を左右広げてね~、あ、それから足は若干広げて立ってね」
大地は慌てて壁際に移動する。
「そうそう、そんな感じ~。目を閉じておでこを壁に付けてくれる~」
大地は目を瞑りおでこを壁に付けようと少し前に屈むが、おでこが壁に付く3センチ程手前でそのまま頭の形を保ったまま包み込む。頭の部分は半球上に透明になっており全体的にウエットスーツの様なフォルムをしている。
大地は頭に接触する感覚があるだろうと想像しながら頭を傾けたが、何の衝撃もなく進むので少々不安に感じ目を開けた。
そこには宇宙が広がっていた。
「あ、そうそう、太陽はみないでね~、一応偏光はするけどちょっと目が眩むからね~。それから、重力は一応月と同じにしてるから注意するのよ~」
耳のすぐ傍でビーの声がする。大地はそれどころではなかった。
目の前の圧倒する景色に目を奪われぴくりとも動けなかった。
「ダイチくん?」
大地の様子に怪訝そうに声をかけるが、目に涙を溜める様を見てビーは躊躇われ、なにも言わず傍にあるだけであった。
それからしばらくたってから。
「ありがとう」
ぽつりと大地。
「ここに連れて来てくれて本当にありがとう」
「・・・・うん」
ビーはなんと返したら良いかわからなかったが、なんともほんわかとした思いが湧き上がるのが心地よかった。
その後、大地が
「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが・・・」という件をしゃべりだしたが
「あたしの表面を歩いたのは本当にダイチくんが始めてよ。」
なんて言われてちょっと赤くなっていた。
「それにしても、この宇宙服?って酸素はどれだけもつの?」
「あたしが死なない限りず~となの。頭の後ろ部分に小さな孔があって、そこから亜空間経由で酸素供給してるのね。なにかあってもすぐに亜空間に退避するから安全なの」
「でもあんまり日向部分には行かないほうがいいの。太陽光線などは防ぐから問題ないけど、地球や衛星から光学装置で監視してるかもしれないからね。監視っていうより観測のほうが正しいのかな」
「OK~」
月面を実際にはビーの偽装した表面を浮かれて飛び回っている大地を見て、これからの事を思うと期待に胸を躍らすビーであった。
お読みいただきありがとうございます。
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