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2.ビー、大地と出会う

鉱物採集を趣味としている大地くんとの出会いです。


 梅雨が始まったばかりだと言うのに、全然雨の気配がしない日のまだ朝もやも消えないころ。谷間にタガネを打ち付ける金属の音が響く。


カーン、カーン、カーン、ゴン。


 永遠に続くかと見えたタガネを打ち付ける音が急に終わりを見せる。


 鋭く振りおろした金槌がタガネではなくそこに添える左手の親指根元を打ち付けたようだ。


「痛っ。痛~、やってもうた、やる、やる、いつかやるとは思とったけど。痛い。しばらく左手には力が入らないか」


 それでも何とかタガネを支えて打ち付ける作業を続ける姿がそこにあった。


 男の名は水無月大地みなづきだいち


 鉱物採集というちょっと変わった趣味の持ち主である。今日も山の中の世間からは、遠に忘れられた廃鉱山に出かけて、朝からタガネを黙々と打ちこんでいる。


「あとちょっとで採れるんやけど、堅いなあ」


 ひとかかえもありそうな大岩から少しだけ覗いた水晶を採ろうと何度もタガネを当てて試みるが、角度が悪いのか違うところを叩く。


 業を煮やし、少々イライラしたところ、集中力が途絶えて手を叩いたということらしい。


 そんな男の後ろ5メートルほどのはなれた、地面から目に高さの位置に1辺が5cmほどのガラスのピラミッドが糸で吊るされているわけでもないのに浮かんでいる。


 ピラミッドの中央部分には少し魚の目を思い起こさせるような半球状の出っ張りがあり中で円盤状の物体が高速回転している。


 これはビーが飛ばした探索用のドローンで、地球の各地にそれこそ星の数、放たれたもののひとつで、ビーの目として使っているものである。


「なにしてるんだろ?この星の住民は変なものを熱心に採取しているの」


 住民全部ではなくごく一部の特殊な趣味の人だけのものであるがビーにはまだ理解できていない。


 ビーのもとにはさまざまな場所からの映像がドローンから届けられる。ふと捉えた、原住民の奇異な行動の映像に意識を向けた。


「1メートル程左の壁の中に大きな空洞があってそこに沢山あるのに、分からないの?。ちょっと、手伝ってあげようかな」


 少々、親切心を出したビー。


 ドローンの中心で回転していた円盤の動きが少し増した瞬間、壁に向かって陽炎のようなゆらゆらした光が照射され、数秒後、壁が大きく抉れるように崩れる。


「え、なに?なにがおこった?」


 崩れる音に普段とは比べるべくも無く敏感に反応した大地は、慌てて、自分が崩れやすい斜面に立っているのも忘れてその場から飛びのき、案の定、態勢を崩し斜面を数メートル小石のように転げ落ちた。


 どこか頭でも打ったのかそのまま動かなくなった。


「!!!」


 ビーは声にならない悲鳴を上げて、あわててドローンに大地にスキャンをするよう指示をだした。


 不足の事態に備えて別のドローンにも至急現場に急行させる指令をだすのでした。


 一番酷いのは、大地本人が叩いた手であるというスキャン結果にほっと胸を撫で下ろしビーだった。


 大地の横で手の治療をしながら目覚めるのをまっていると、やがて、「おぎゅっ」と変な声を発しながら大地が目をさました。


「ごめんなさい」


 どこから発っせられたのか大地には認識でなかったが、微妙に幼さの残る、女の子の涼やかな声が響き渡る。


「なにが?」


 大地にはなにが起ったのか理解できていない。まだ、混乱冷めやらずのどこか遠くをみているようなその目には目の前で左右にゆらゆら揺れながら空中に浮かぶドローンの姿を捕らえていない。


「あの~」


「・・・・」


 どうにかドローンを認識することができたようだ。


「え、え、え、・・・」


「はい」


「三角目玉がしゃべった~」


 叫んだその拍子にさらに半メートル斜面を滑り落ちる。


「あの~、大丈夫ですか」


「ひ~」


 ようやく、大地はガラスのピラミッドがしゃべっていることを認識することに成功したようではあるが、その場で固まってしまったようだ。


ビーは暫くどうすればよいのか考えていたが、なにか思いついたようだ。


(この人が採っていた石の結晶を目の前にだして見せれば、怯えるのをや

めるかもしれない。これはいい考えかも。うん、やってみよ)


 ドローンを操り先ほど崩した壁からキラキラした如何にも結晶ですって主張している塊をそっと力場で包み大地の目の前を右に左に見せ付けるように漂わせた。


「ほ~ら、結晶ですよ~。ほらほら、あなたが採ろうとしていた結晶がこんなにあるのですよ~、ほらほら~」


「あほか~、そんな単純ちゃうわ~」


 と言いながらも目で結晶を追いかける。


 40cmほどの大きさの岩一面にびっしり水晶がついているのは外国産に見劣りしないぐらい良いもので、大地にとっては目が離せないものだった。


「うふふ。成功したの~。おびえが無くなったの~」


「う、むぐぐ。おまえは、なんなんだ。おばけか、妖怪の類か、宇宙人か」


 相変わらず目で水晶を追いながら震える声で質問を発する。


 質問を発しながらじりじりと後ずさっていくその姿は少々なさけない。


「妖怪とは失礼な、ビーは異星人に属するの。正確には異星文明により生み出された知的でキュートな生体宇宙船ですの」


「自分で知的でキュートとか言う?それにこんなちっこいのが宇宙船?」


 そう言いながら無造作に手を伸ばそうとする。


「触らないでくださいなの」


 慌ててドローンを大地から遠ざけるビー。


 びくっとしつつも新たな質問を投げかける


「中になんかいるんか」


「中にはいませんの。と言うよりこれそのものがビーの目であり手ですの」


「ビーの本体は、ほら空を見上げてください。白い大きな星がみえているでしょう」


 ドローンが左右に揺れながら急に1メートルほど上昇し視線を上空に誘導する。


「月?」


「そう、ちょっと月を押しのけてかわりにビーが納まってみたの、てへ」


「え~、本当に?」


「ええ、本当なの。今、月は5秒ほど時間軸をずらして別次元なの」


「ほんとかなあ」


 ちょっと胡散臭そうな顔をしながらも足元に転がってる水晶をポケットに仕舞う大地。


「そんなことはどうでもいいんですの。あの・・・、さっきはごめんなさい」


「さっき?」


 不思議そうな顔をする大地。


 その間も手は回りに散らばる水晶を求めて彷徨ってる。


「さっき、あなたが斜面を滑り落ちた原因はビーが壁をこわしたからなの」


「ん、そうなの、壁はなんで壊したんだ」


「あー、それは、あなたにここに結晶があるよって知らせるためにやったの。でも、力加減を間違えて予想以上に崩れて・・・」


「そりゃしゃ~ないね、俺の為にやろうとしてくれたんだ、それをビビリの俺が予想以上に飛びのいて落ちていったというわけか」


「・・・うん」


 かわいらしい声が沈んでる。


 大地は話を聞きながらなんとは無しに足元に落ちている小石をつかんで谷に投げている。なんだか無意識でやっているようだ。


(なんだか、怖く無くなったな。)


と大地


「よし、初めからやりなおそう」


「ん?」


「まずは自己紹介から始めようか、俺は水無月大地みなづきだいち、32歳、今日は会社の休みを利用して鉱物採集に来ている」


「趣味は当然、鉱物採集、関西出身や、すこし関西弁混じるけど許してや、ここから1時間ほど行った町に住んでる、サラリーマンや、サラリーマンってわかるか?」


 とりあえず握手するように右手を上げてみるが、相手がピラミッド様の物体なので、そのまま気まずそうに降ろす。


「ビーはねえ、こことは違う銀河からきたの、歳はそうね、ここの公転周期で7億ちょっとのまだまだピチピチなの~。ビーの目的は知識の吸収。ある星では観察者って呼ばれてたの。この星には赤道付近から発している電波に誘われてやってきたの。」


「あそこに見えているのがビーの本体なの」


「サラリーマンは、うん、会社に所属している歯車ってよばれる人たちのことなの~。これはドローンって言ってビーの目や手のかわりをするものなの」


 ドローンが大地の周りをくるくる回る。


「趣味はマンガ、アニメね、最近は時代劇にこってるの。そのためにこの地域の言語を解析して覚えたの」


「何時かは水〇黄門みたいにやってみたいの。このお方を何方と心得る、異銀河からやってきたビー様なるぞ、ビー様の御前である一同頭が高いひかえおろ~ってね。うふ」


「7億年ってえらい歳間」


「むむ、失礼な!。まだ若いんですの、ビーたちは200億公転周期ぐらい生きるんだから」


「長~」


「異文明の知識の吸収ってその文明が無くなるまで観察するものなの」


「まだまだ若いってことか?それに時代劇にこってるって、わからんでもないけど。」


 大地の周りをなんとなく嬉しそうに2機のドローンが飛びまわってる。


(おや、ドローンが増えてる?)


 また、足元の小石を拾って今度はドローンに向かって投げている。これも無意識の行動のようで、大地は自分の周りをぐるぐる飛び回るドローンのことをなんか蝿みたいやな、なんてのんびり考えている。


「とりあえず、よろしく」


 片手を頭のうしろを擦りながらなんとなく頭を下げる大地。


 これをみてドローンをお辞儀するように傾けるビー。


「こちらこそよろしくね。でも、石はなげないでね。あなたがこの星での最初のお友達ね。えへへ~。あの、あなたのこと『ダイチくん』って呼んでいい?」


「ああ、それじゃあ、俺も『ビーさん』ってよぶかな」

「うん。でも、さんはいらないよ。『ビー』でいいよ。ところで質問があるんだけど、いい。」


「ん、なにが聞きたいんや」


「ダイチくんが採ってた石の結晶はなにか価値があるの?」


「・・・一般的にはそれほど価値はないよ。自己満足ていどかな」


「ふ~ん、そうなんだ」


「まあ、趣味のものだから・・・」


「・・・さっき崩した壁のすこし奥にもう少し大きな空洞があって、結晶がいっぱいなんだけど、いる?」


「え、わかるの?」


「うん、ビーにはいろいろな見方ができるから。放射線分布で見るとかね」


「ふ~ん、便利やね。結晶については要ります。是非おねがいします」


「わかったわ。それじゃあ、ちょっと離れてね、派手にいっくよ~」


「わー、ちょっと待って」


 大地は慌てて滑りながらも斜面を登り、先ほどビーが崩した壁にとり付き、少しの水晶を回収した後、すこし横に移動し大岩の陰に避難した。


 ビーは大地が避難したのを確認した後、今度は大きく崩さないように注意を払いながらも、避難は完了しているので少々大胆に力場を作用させ壁を抉っていく。


 谷間に人の頭の大きさの岩がガラガラと転がる音が響く。その音に驚いた鳥がギャーギャーとけたたましい鳴き声を上げて飛んでいく様を眺めて、もともと気の小さな大地ではあるが、少々おっかなびっくりで岩影から覗いているその目は期待に目を輝かせている。


 車程の岩が谷間に滑り落ちていき、静寂があたりを支配するようになった後。


「終了~。まだ、小さな岩が上から落ちてくるので注意してね」


 予想以上の大きな岩が谷間に消えていくのを見て戦々恐々の思いで硬直していた大地。


 欲が勝ったのか、のろのろと視線を壁に向けるとそこには人が立って入れるぐらいの空洞があり、壁一面に大小さまざまな大きさの水晶がそれこそ私を採ってと言わんばかりに、大地にとっては正に桃源郷かと見まごうばかりの世界が広がっていた。


それからは


「あははははははは~くぁ~」


 と笑いが止まらない状態で、ビーに手伝ってもらいながら回収作業に没頭するのでした。


「あそこを抉って」


「は~い。こんな感じ?」


「こんどはここ」


「よいしょっと、はい」


 初めこそ丁寧な感じで大地の指示に従っていたビーでしたが、永遠に続くかと思われる作業に嫌気がさしたのか


「ここ、おねがい」


「はいはい」


「ここも」


「はいはい」


「そこも」


「・・・」


 序々に口数が少なくなり、無言になるのでした。まあ、趣味じゃ無い人にとってはそんなもんです。


 遂には


「もういいでしょ。同じでしょ、さっきも採ったでしょ。はい、終了、終了~」


「え~」


 無残にも終了宣言がでるのでした。


 その後も採取した水晶を車までビーに運んでもらい満面の笑みを崩すことなく、時折「うひひ。」と不気味な笑いをこぼす大地に対して


「ダイチくんに声かけて失敗だったかも・・・」


 小声で呟くビーでした。

お読みいただきありがとうございます。

誤字脱字多くてすみません。

いろいろ修正しました。

もっと、勉強しなくてはいけませんね。


2013_0816_ビーの口調少し変更しました。

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