108.ビー、上機嫌。
ちょとだけ更新です。
* * *
「ダイチくん、嫁だって」
にこやかに大地に話しかけるビー。
大地は、どっかりと地面に座り、胡坐を組んでいる。
「ビー、なんか、嬉しそうやな?」
ダイチはドラゴンが飛んで行った方向とビーを見比べながら、如何にも不機嫌そうに腕を組んでいた。声の低さからは不機嫌さが伺える。
「ねえねえ、ダイチくん。嫁よ、嫁」
「好きにしたらええやん。俺は知らんし」
そっけない態度の大地。ビーと視線は合わせない。
「ダイチくん、怒ってるの?」
「いや、怒ってないし」
ぶすっとした顔で応じる大地。
「嫉妬?」
ビーの顔が期待に輝く。
「嫉妬なんかしてないし。しらんわ」
期待が確信に変わった。
「嫉妬なのね」
満面の笑みのビー。
「・・・」
「もう~、ダイチくん子供なんだから~、ビーがトカゲさんのお嫁さんになるわけないでしょ」
「・・・」
「機嫌直してよ~、ダ~イチく~ん」
ビーはことのほか上機嫌だ。大地の背後から抱きついて、頬どうしをくっ付けている。以前、恋人の機嫌が悪い時にやるとよいと級友に教わったのだ。ビーは今後、積極に行くことに決めたのだ。
「ダイチくん、判っているでしょう?ビーはダイチくん・・・だけなのよ」
「・・・」
「ダイチくん?」
ビーの声のトーンが一段階下がった。
「あんまり拗ねてると、ビー、もう~怒るよ~、ダイチくん?」
ビーは両手で大地の顔を挟んで自分の方に強引に向けた。そして、そっと、頬に口を寄せて、
「ちゅっ、これで機嫌直してね、えへへ」
そんな二人のやり取りを呆れた表情で見ているコッコ。
「はぁ~、ご馳走様ですよ。しかし、緋の神様は相変わらずですの。強い女の子は、全て自分の嫁って・・・、紫紺の神様にも申し込んでいたと思うのですよ」
* * *
大地とビーはコッコに連れられて、紫紺の神殿に向かっていた。
泊まるころがないという話に、神殿に来たらどうかとコッコに勧められたのだ。神殿といっても、紫紺の神様を表すモニュメントがぽつんとあり、コッコが暮らす家があるだけなのだが。
コッコの家には、昔、神殿に仕える神官たちが一緒に住んでいたので、部屋数はある。現在は、使われていないので、埃だらけであるのだが、掃除すれば十分住むことは可能だ。
町は、大きなものではなく、村と言った方が良いかもしれない。ただ、領主の屋敷である大きな建物が中央に立っているのが町の外からでも判る。
周りをぐるりと石垣で囲われている。入口には木でできた大きな扉が設置してあり守衛らしき人が詰めていた。石垣は、不意の魔物対策のようだ。
顔見知りなのだろう、コッコは、にこやかに門番に挨拶を送り、門番も気楽に返していた。少し大地たちを見て不審そうな顔をしていたが、すぐに興味を無くしたようだった。
そのまま、門番の前を素通りして石垣に沿って歩いていくと、小高い丘の上に三本の石柱が建てられており、小さな花が添えられていた。
町から少しだけ離れた場所に立つモニュメントは少しだけ寂しそうだと大地は思った。
ここからでは町の石垣は間にある木々に隠れて見えなかったが、モニュメントが設置してある丘の上まで登ればなんとか見えそうであった。
「コッコさん、あれが紫紺の神様の神殿なんか?」
「そうです。ここが私の勤める紫紺の神様の神殿なのですよ。神殿にようこそ。迷えるもの達よ」
コッコは少しおどけて見せる。
コッコにとって、ビーの力は圧倒的で、正に紫紺の神様と同列と考えていたのだが、大地はその神様に祝福をうけた者と言う位置づけで落ち着いたようだ。
「おう、神官っぽいね」
「ふふふ、大地様、私は正真正銘の神官ですよ」
ビーはなにか感じるところがあるのか、辺りをきょろきょろしていたが、大地とコッコが家の方に歩いていくので、慌てて後を追っている。
「ここが、私の家なのです。今から掃除するので、手伝ってくださいね」
「おう、あたりまえやで。部屋お借りするんやからなあ、ビー?」
ビーは、モニュメントをもの珍しそうにしげしげと眺めている。
「あ、う、うん、そうなの。掃除するの~」
神殿には、なにかあるのか、神妙な顔をしながら、大地の言葉に応じるビーだった。
* * *
その日の晩は、質素ではあるものの、とても温かいものだった。大地、ビーともに大満足だ。
皆がそれぞれに割り振られた部屋に引っ込んだあと、暫くたってから、大地の部屋の戸が控えめにコンコンッと叩かれた。
「ん、なんやろ?コッコさんやったりして。はい、は~い。開いてるで~」
「ダイチくん、ちょっといい?」
扉を開けて入ってきたのはビーだった。手には大きな枕を抱えている。
「おう、ビーか、別にいいで」
「ちょっと、話がしたくって」
「話?でも、その手に持っているのは枕とちゃうか?」
「え、そうね、そうかもしれないの」
家具は木でできたベッドがひとつっきり、大地はぱんぱんと少々硬いベットを叩いてここに座るように促す。
「なに言うてんねん、まあ、ええわ、それで話ちゅ~のはなんや」
ほっとした表情のビー。
ぽすんと大地の横に座る、何気なさを装って、持ってきた枕を大地の枕のよこに並べて、ぽんぽんっと叩いている。
「あの神殿のモニュメントなんだけど、あれって、観察者の個々を識別するときのマークに似ているの」
大地は自分の枕を引っ張り、少しだけ距離をとる。
「偶然とちゃうか」
ビーは、上目使いで大地を見たあと、枕を少しだけ近づける。
「それに、あのトカゲちゃん、ビーが使った隕石をぶつける技で、紫紺の神様が使っていたって・・・。」
大地は更に、距離を取ろうと枕を引っ張ったが、その拍子にベットから落ちてしまった。
諦めて、ふたりの枕を並べて置く。また、今日も、眠れない夜となりそうだ。
「ビーは紫紺の神様が観察者じゃないかって思ってるんか?」
「う、うん。でも、通信送っても返事がないの。それに、こんな遠くの重積世界で会うなんて考えられないし」
「たまたまちゃうか~」
「う、うん。だったら良いんだけど・・・、ねえ、ダイチくん、今日、ここで寝ちゃだめ?」
扉の外には息を潜めてコッコがしゃがみこんでいた。少し顔が赤かった。
「ビー様、やっぱり、大地様の部屋に行ったのですの。初めからお二人同室にするべきだったのですの」
ビーたちは声を潜めて話しているのか、扉の外からは、中の様子を伺うことはできなかった。
「明日はあの言葉を言わなければならないですの。『昨夜はお楽しみでしたね』だったですの」
そっと、その場を離れ、自分の部屋に戻るコッコだった。
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