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107.ビー、ドラゴンと出会う。

長く空いてしまってすいません。

* * *


 大地はコッコから貰った、少し硬いパンで作られたサンドイッチに齧り付いている。


 大地基準によると、少し小さかったけれど、ありがたかった。


 レタスのような葉物に鶏肉の触感だが見た目ハムのようなものが挟んである。トマトの様だが黒いちょっと怪しいものも挟んである。小さな何かの花の蕾の酢漬けが挟んであり、噛むと、口の中に爽やかさが広がった。


 大地の横には、同じように、ちょこんとビーが座っていた。ビーは1個まるまるでは大きかったので、ひとつのサンドイッチを二つに割って、両手で持って、はむはむと食べていた。


 ビーの横にコッコが座っており、ビーが割ったサンドイッチの片割れを食べている。


 コッコはビーを見ながら、にこにこしている。初めに感じた畏怖など当の昔に忘れてしまっていた。ビーの食べる仕草が、森で見かける小さな動物、モックに非常に似ていたからだ。


 モックは人懐っこくて、その姿は、耳の長い栗鼠といった感じで非常に可愛らしい。コッコが森に来るといつも集まってくるのだが、コッコのお弁当の残りが目当てなのだ。


(ビー様、かわいいです。大精霊様にこんなことを思うなんて私はなんて不遜なのでしょう。でもかわいいです)


「悪いなあ、あんたの昼ごはん頂いてしまって」


「いえ、良いんです。ビー様、大地 様に食べて頂いて私もうれしいです」


 コッコは大地の言葉ににっこりと答えた。


 話を始めようとしたとたん、ビーのお腹が、くぅ~と、かわいらしい音を発てたので、コッコは持っていたお弁当を差し出したのだ。


「これ、おいしいの」


 ビーは両手で持ったサンドイッチを大地に掲げて見せた。


「お口に合いまして、良かったですよ。これも紫紺の神様のお導きですよ」


 ビーはそれほどたくさん食べられないので、コッコと半分こにして食べている。


「コッコさんて、神官なんやなあ」


「ええ、私は、紫紺の神様の神官なのですよ。魔法を授けてくれた紫紺の神様に感謝なのですよ」


 コッコは少し胸を張る。


「この腕輪が神官の証しなのですよ。おばあちゃんが紫紺の神様より頂いたもので、私が受け継いだのですよ」


 コッコは、そう言いながら、腕に装着した銀のバングルを誇らしげに大地たちに見せる。


 鈍い光を放つそれは、複雑な幾何学模様が彫刻されたものだった。


「へぇ~」


(神様が実在するんや~、神っていうより、魔法の研究してた人が神様に祭り上げられたものなんかもしれんなあ。強い人が武神みたいな感じに)


 大地は、のほほんと、そんな風に考えていた。


 木陰は涼しく、何処かに香りのよい花でも咲いているのか、甘い香りを運んで来ていた。


 大地がなにげなく、空を見上げたとき、草原の向こうに連なる山々の陰から、なにか大きな赤いものが飛んでいることに気がついた。


「なあ、あれって、何やと思う?鳥?飛行機かなあ」


「え、ヒコウキってなんですか、なんかあるのですか?」


 コッコは怪訝そうに大地を見る。飛行機という言葉など聞いたこともなかった。


「ほら、あ の山のところ。なんか赤いものが」


 大地はその物体を指差した。


 ビーは相変わらず、サンドイッチを口に運ぶのに夢中だ。


 その物体は、見る間に大きくなって、指差した手を下ろす間も無く大地の視界いっぱいに広がる。


 それは、着地寸前に大きな翼で急制動をかけ、一向のほんの近くに降り立った。生じた風が大地たちに吹きつけ、ちょっとした竜巻を思わせた。


「ド、ドラゴン?ドラゴンや~」


 大地は大声で叫びながら立ち上がる。


 大地たちの目の前には、小さな家サイズはあるだろうか、背中には赤々と燃える炎が揺れ、その赤い光を鱗の1枚1枚が反射し、神神しさを辺りに投げかけている。赤い目が放つ光は体の内部まで見透かされるようだ。醸し出される神神しさとは裏腹に、人の背丈ほどもあるその爪は、魔が魔がしく全ての光を吸い込むような漆黒だった。


「あ!緋の神様?」


 コッコには顔見知りなのか、ちょっと驚いた顔をしていたが、慌てて先ほどビーたちにしたように腕を交差させた挨拶をする。


「おう、コッコであったか、久しぶりだのう、そなた、息災であったか?」


そのドラゴンは目を細めながらコッコを見ている。機嫌が良い事を表しているのか、大きなシッポがふよんふよんと左右に揺れている。


「ありがとうございます。緋の神様。皆、神さまたちの御かげで日々平穏に暮らしております。唯、今年から私が神官位を継ぎました。祖母は昨年の暮れに流行り病で・ ・・」


 コッコの表情が曇る。


「そうか、あれもよい歳であったからのう、あちらに行っても気楽にやっておるであろう」


 悲しみを表しているのだろう、ドラゴンの背中の炎も控えめのものになる。


「はい、漆黒の神様のもとで宜しくやっていると思います」


 ドラゴンの目が大地たちに向けられる。


 背中の火が急に大きな炎に変わる。


「時に、そこにいる者たちは何者だ?遠くからでも判るこの波動、わしは紫紺の奴が居るのかと思うてやってきたのだが」


 ドラゴンの目が細くなり、大地たちを睨み付ける。大地にその目が向けられた時、我知らず拳を握りしめていることに気が付く、大地。


「はい、大精霊ビー様、大地様にございます」


「精霊?いや、そのもの達は、精霊よりも大きな力を感じるぞ、精霊を従える者、どちらかといえばわしに近い存在、ふむ、そうか、新しく生まれた神か?どれ、お前たちの力、少し試させてもらうとしようか」


 大地はそのドラゴンの言葉を聞いて青くなっている。


「ビー、なんか、試すとか言うてるで」


「ん?ダイチくん、なにか言ったの?」


 ビーは、ドラゴンなど目に入っていなかった。やっとのこと、サンドイッチを半分ほど食べた状態であった。


「コッコよ、下がっておれ、ちと、辺りを騒がせる」


 コッコは慌てて、木陰を作る大樹の陰に避難する。恐る恐る頭だけをだして見ている。


 大地もコッコと同じように退避したかったが、ビーを置いては行けなかった。


「ビー、やばいで、早く逃げ出さないと、あのドラゴンなんかやるきや」


「ダイチくん、ちょっとうるさいの。ビー、今食べている最中なの。静かにしてなの」


 ビーはまだ手にしたサンドイッチに夢中であった。


 コッコは、推移を見守っている。その顔は少し不安には満ちているようだが、何時ものことなのか、それほど恐れは無いように見える。


「そこの者、お前たちからは力を感じるぞ、おい、聞いておるのか?」


 尻尾が苛立たしげに地面をたたいている。


「おい、無視をするな」


 地面を叩いていた尻尾が、拳ほどの石を弾いた。運悪く、その弾かれた石はビーの手元を捉え、持っていたサンドイッチを地面に落とすことになった。


「「「あ!」」」


 暫し、足元に転がる無残な状態のサンドイッチを見ているビー。微妙に肩が震えている。


「誰?」


 大地は、これまでに聞いた中で最も低い声だと思った。


 表情は俯いていてみえない。


 いつのまにか辺りに楽しそうに囀っていた小鳥の声が聞こえなくなっていた。


「ダイチくん、ダイチくんなの?」


 ゆっくりと大地の方に体を向ける。


「ちゃうちゃう、俺とはちゃうで」


 大地の背中には嫌な汗が流れた。


 ビーの周りで陽炎が揺らめいているように見える。


「じゃあ、誰なの?コッコちゃん?」


 コッコは大きく目を見開いている。


「あわわ、わ、私じゃないですの」


 ビーはドラゴンに向き直る。


「じゃあ、この、大きなトカゲちゃんなのね。トカゲちゃん、ちょっと、お仕置きが必要なようなの」


 ゆっくりとビーの腕がゴラゴンに向かって差し出される。


「トカゲちゃん、手加減はいらないわね」


 ビーの意識が自分に向いたことで気を良くする。


「ぐっふっふっふっ、やっと、やる気になったようだな、そこのちんちくりん。お前の力試させてもらうぞ。死んだら、己の運の無さを恨むが良いぞ」


 ビーの肩がピクリと震える。


「ちんちくりん?今、ビーのこと、ちんちくりんって言った?」


「おう、おまえに言うたのだ、ちんちくりんよ」


 辺りの温度が急激に下がったような感覚に囚われる。


 大地はごくりと唾を飲み込み、ビーに声をかけようとした瞬間。


「ビ、ビー」


 ビーは突然、ドラゴンに向かって駆け出す。ドラゴンまで、あと数歩の処で垂直に飛び上がった。


 一瞬の出来事であったため、大地はビーを見失ってしまった。


 辺りをきょろきょろすると、ビーはドラゴンの鼻の上に居た。


 トンッとドラゴンの鼻先に軽やかに舞い降りる。


「今、言ったのはこの大きなトカゲちゃんなの?」


 大地の目にはビーが微笑んでいるように見えた。目は笑っていないが。


「ぐふっふっふっふ」


 ドラゴンも可笑しそうに笑う。たぶん。


「なにをやる気なのだ?ちんちくりんよ。人の鼻先にとまりおって、お前がなにをしようとも、わしには通用せぬぞ、ぐっふっふ」


「あ~、また言った。この大きなトカゲちゃんにはお仕置き確定よね、ダイチくん」


「おう、お手柔らかにな」


「うん、判ったの~、ちょっと、痛いけど、口は災いの元だから、我慢してね」


 ビーは、軽く飛び上がったと思うと、ちょこんと鼻先に蹴りを入れたように見えた。


「ぐべ」


 ドラゴンは蹴り飛ばされ、ドゴ~ンと言う音と共に、背後にある岩の中に半ばめり込む形でとまる。


 ビーは、足に接する空間に作用し、足にダメージがかからないようにしてから、蹴りに大型タンカー並みの質量を上乗せして発ったようだ。


 いくらドラゴンが大きくても、数倍の質量の衝突には敵わない。


「かはっ、やりおる。このわしを蹴り飛ばすとは。ぐふふ、嬉しくなってきたものだ。さて、今度はこちらの番。ぬぐ、動かん。お前、なにをした?」


 ビーは、岩にめり込むドラゴンに向かって手を翳し、もう一方の手を空に掲げている。ドラゴンを空間に固定しつつ、空の彼方ににあるなにかを探しているようだった。


 ビーはドラゴンに向かってにっこりと笑いかける。


「これでいいかな?うん。ちょっと大きいけど、トカゲさん、死なないでね」


 急に空が暗くなり、赤いなにかが落ちてきた。


 ビーの手の動きに沿って大気圏外から巨大な岩の塊が落ちてきた。名前を付けるのなら、そう、「メテオインパクト」であろうか。


 残念ながら、その質量の大半は大気圏との摩擦で燃えてしまっているので、ドラゴンとのインパクトの瞬間にはバレーボール大ぐらいだ。


「うぬぬ、力は、ぐぐ、効かぬ、なんという力か、これは、紫紺の奴の技、仕方がない、理力の腕・・・」


 ドラゴンは、自身の前の空間に、理力の腕と言われる魔力により生み出される自由自在なアームを展開する。このアームにより隕石を受け止めようと考えたようだ。


 展開された理力の腕は、青白く光っており、扇状の形をしていた。先端が分かれていて、どことなく手の様に見えないこともない。


 そして、辺りは、ドカーンと言う大きな音とともに、白い光に包まれた。


 白煙が晴れてくると、そこには巨大なクレーターが出現していた。


 未だブスブスとクレーターの中心では溶岩の様に涌き起っているいるようだったが、そこからぼろぼろになりながらもドラゴンがのっそりと立ち上がった。


 全力では無かったとは言え、あれだけの攻撃に耐えたドラゴンは如何にタフな存在であるかを、まざまざと見せつけられた大地は驚愕に目を見開いている。


 ビーはと言うと、既に、その状態を知覚できていたのか、静かに眺めていた。ぼそりと「硬いね~」と言ったところを見ると、ビーでも少しは驚いていたということだろうか。


「少々翼がやられてしまったが、わしはまだまだやれるぞ」


 ドラゴンの片方の翼の先が取れてしまったのか、左右歪な状態になっていた。


「緋の神様ぼろぼろです・・・、ビー様」


 コッコは目を大きくして緋の神様をみている。


 ドラゴンの言葉を受け、ビーは目を細くしながら、手を翳そうとした所、ドラゴンからまったが掛かった。


「まて、お前の強さは十分に判った、今日のところはお前の勝ちとしよう」


 尚もビーが手を上げると、慌てて頭を下げる。


「すまん、わしの負けだ。お前は強い。降参だ」


 尻尾がだらんと垂れており、背中の炎も弱めだ。


「しかし、お前の攻撃、紫紺の奴に似ておる。同族か?空から火の玉を降らすとは正気とは思えん、まったく、紫紺と言いお前と言い、限度を知らぬ奴らめ」


 紫紺の神様にも攻撃を仕掛けたようである。


「まあ、よい。・・・良し、決めた。お主、わしの嫁になれ。お前の力は、わしにぴったりじゃ。うむ、これは良い考えじゃ。うん、これから、頼むぞ、嫁殿」


 あきれた目で見るビー。


「この大きなトカゲちゃん、頭おかしいの?もう一個、頭の上に落としておく?」


 ビーの言葉に慌てて退散するドラゴン。


「もうそれは、十分だ。あまりひつこく言っても嫌われるだけじゃからな、今日はこのまま退散するとしよう。ではな、嫁殿」


 ドラゴンは、なにか唱えると眩い光に包まれた。光が消えたあとそこには、ビーと戦う前の状態に戻っていた。なにか、回復の魔法をつかったのだろう。そして、弾丸のように空の彼方に帰って行った。


 後には、巨大なクレーターと、恐れおののいているコッコ、ビー、そして、頬を膨らませて、何とも言えない顔をしている大地が残された。

「ビーは俺の嫁」って大地が言えればいいんですが・・・。

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