106.ビー、ばっちこ~いなの。
すいません。
ずいぶん長く開いてしまいました。
剣と魔法の世界に繰り出します。
草原を大地とビーが町を目指して歩いている。
歩き始めて20分ぐらい経ったであろうか、遠くに町らしきものが見えているのだが、一向に近づいている気がしない大地だった。
「なあ、ビー、あそこの町、近づいてるんやろなあ、まさか、幻影だったなんてことないよなあ」
「ん?大丈夫なの、ダイチくん。ちゃ~んと近づいてるのよ。ダイチくん、ちょっと、だらしがないの」
ビーは大地より数メートル先を歩いており、どんどんと先へ進んでいる。
「そやけどな、ビー。会社員にはちょっときついは、普段、会社との往復しかせ~へんし、それも、電車までしか歩かんのや、ビーちょっと、休ませてくれるか」
「も~、ダイチくん、運 動不足なの。しょ~がないなあ。ん~と、あそこの木のとこで休憩するから、がんばってなの~ 」
ビーはそお言いながら前を指差した。100メートルぐらい先に大きな木があり、木陰にはベンチの用に平らな岩がある。
「そうか、ほんじゃあ、先行って待ってるわ」
ビーを追い抜かして、小走りで進む。木陰に辿り着くと、ごろんと横になった。
「ダイチくん、ふ~ふ~言ってたんじゃなかったの?なんか、元気なの」
木陰に吹く風は優しく、少し汗ばむ大地の頬を過ぎていく。どこかで、見知らぬ鳥の声が楽しげに鳴いていた。
大地はぼんやりと辺りを見回していたが、岩陰になにやら気になるものがあったのか、目を大きく見開いていた。
ビーが大地の傍に近寄ってみると、大地は岩の間からなにやら取り出している最中だっ た。
「ダイチくん、なにしてるの?」
「お、ビーか、これ、こんな物があったんやけど、これ、なんやと思う?」
大地が差し出した手の中には、拳ほどの大きさの円筒形の緑の結晶が握られていた。
「なんなの?綺麗なの~」
「緑柱石やろか?いやいや周りは緑色やけど、中心部に薄赤く色付いてる、トルマリンか?まだ落ちてるかもしれん。ちょっと探してみるは」
お忘れかもしれないが、大地は鉱物おたくなのだ。
「お、ここにも落ちてる。あ、あそこにも」
目の色変えて、拾い始める大地。そんな大地を、ビーは、やや、冷ややかな目で見ている。
「ダイチくん、ダイチくんってば~、それ、危ないものかもしれないのよ。見た目 トルマリンのようだけど、いろいろと複雑な組成で、中央部分に未知の組成物があるようよ」
「ほへ?未知のもの」
「そう、よく判らないんだけど・・・、危ないかもなの」
「危ない?・・・大丈夫とちゃうか~」
ビーの注意など何処吹く風、大地はせっせと集めている。
* * *
私の名前はコッコ。これでも私は、紫紺の神を奉る神官なのですよ。一応神官を務める家として、アカと言う立派な姓も戴いているのです。昨年までは、おばあちゃんと一緒に住んでいたのですよ、でも、暮れに流行り病で亡くなってしまったのです。だから、アカ家は私ひとりなのですよ。
あ、紫紺の神様について説明しないといけないのですよ。みなさんもわかっていると思うけど、この世界には、7人の神様がいることは知っていますよね。その神様の中で、魔物が使う魔法を人にも使えるように、授けて頂いたのが、紫紺の神様なのですよ。
紫紺の神様が魔法を授けてくれるまで、人はただ、身を寄せ合って細々と暮らしているにすぎなかったのですよ。他の神様たちにとっては、魔物も人も同列で仕方がないことだったのですよ。人を好きな紫紺の神様がその現状に愁いて授けてくれたのですよ。
大昔はもてはやされていたようですけど、みんなに魔法が浸透するにつれて、魔法が当たり前になってしまい、今ではこの祭壇も町の城壁の外の寂れた処にぽつんと建つのみ、訪れる人も ほとんどないのですよ。
「昔は凄かったのよ」っておばあちゃんからよく聞かされて育ちました。私はそんなのしらないのですけどね。まあ、賑やかになってくれたほうが良いことは違いないのですけど、ご飯もいっぱい食べたいし・・・。
はぁ~、ため息も出るってものですよ。新しい魔法でも授けて頂けないかしら。
魔法の理論等はすでに人々に知られていて、今では、様々な人たちの間で研究が進んでいるのですよ。だから、人々の間では、紫紺の神様は時代遅れって認識になっているようなのです。始めに、だれが授けてくれたのか考えて欲しいものですよ。
紫紺の神様はね、その身にまとう色彩から紫紺の神様と呼ばれているのですよ。この世界には、緋、青、銀、漆黒、常盤、黄金、そして紫紺の神様の7人の神様がいるのですよ。神様として顕現なされたのは一番若い神様なのですよ。それでも、おばあちゃんのおばあちゃんのおばあちゃんが子供だったころよりず~と前のことなのです。
そんな訳で、今日も私は、紫紺の神様に平穏を願いつつ、食べる為に、薬草を採りに出掛けた訳です。
* * *
『今日は、大量なのです。これも日頃の行いが良いせいなのです。紫紺の神様に感謝なのですよ』
何時もなら、カバンの底にちょこんと採れれば良いほうなのだ。今日、コッコは、ポロン草の群生地を運よく見つけることができて、ほくほく顔だ。ぱんぱんに膨れたカバンを重そうに持っている。
ポロン草とはあらゆる毒に効く万能の薬草で、市場でそのまま出しても、なかなかに実入りが良い。しかし、ポロン草を市場に出す前にひと手間かければ更に高価で取引されるもので、コッコは、幸いなことに、その加工方法を祖母から教わっていた。コッコの数少ない収入源の一つであった。
コッコは上機嫌で草原を歩いている。町から少し歩いたところにある、大きな木の下で昼食を摂ろうと思ったのだ。コッコのお気に入りの場所でもある。知らずに鼻歌が漏れ出していた。
もともと、その場所は、町の住民は近かよらない。なぜなら、このあたり一帯には魔物の元となく魔結晶があるからだ。魔結晶は魔素の淀みにより成長する。魔結晶が十分成長すると、その中から魔物が生まれるのだ。
コッコには、紫紺の神官として受け継がれた魔法がある。この辺りに発生する魔物にはびくともしないという自信があるのだ。
コッコの 目が目当ての木陰をとらえたとき、そこには、先客がいた。
結構大きな木なので、木陰も広く、小さなコッコが加わっても問題はない。ただ、コッコは、何時もなら誰もいないはずの場所に人が居たため少々怪訝そうな表情をしている。
コッコがそこに居た男の人に視線を向けると、にへらっとした表情が返ってきた。
「こんにちは、お嬢さん」
コッコにはその人になにを言われたのか理解できなかったが、とりあえず、にこりと笑顔を返した。
コッコの笑顔にドキリとしたのか、その人は真っ赤になっていた。
その人が手にしているものの正体を知った瞬間、コッコは走り出していた。
『なにをしているの貴方!はやく、捨てるのですよ。小さくとも、それは魔結晶ですの。人の魔力を吸って、魔物が生まれるかもしれないのですよ』
コッコは男の手にする物をはたき落とすと、慌てて蹴り飛ばした。カランカランとガラスが転がる音を発てて魔結晶が草むらに消える。
通常、自然界に漂う微量な魔素を吸収して成長する魔結晶であるが、人が触れると、触れた人の魔力を吸収して急激に成長することがある。
「あ~なにするんや~、俺のトルマリンが~」
大地は突然のことに目を瞬きながら、叩かれた手が痛いのか、反対の手で擦っていた。
「ダイチくん、また、悪さしたの?」
ビーが、何時ものことだと言わんばかりに大地と飛び出してきたコッコを交互に見ている。
「またって、俺、悪さなんて、せ~へんで~」
大地は飛んで行った結晶が気になるようで、名残惜しそうに草むらを見ていた。
ビーは、コッコの正面に立ち、ゆっくりと話しかけた。
「ごめんなさいなの~、ダイチくんがなにか、貴女に悪さしたの?許してもらえると良いんだけど」
二人が並んで立つと、ほんのわずかビーのほうが背が高かった。いや、ビーが少し背伸びしているようで、プルプルと足が小刻みに揺れている。
コッコは少し興奮しているのか肩で息をしていたが、落ち着いてきたのか、ひとつ息を吐いてから、ビーの言葉に反応する。
『貴方たち、言葉が違う?言葉が通じないようなのです。何処から来たのですか?私の言っていること判りますか?』
『あ、ああ、そうなの、忘れていたの~、言葉判るの~。えっと、ビー、名前はビーって言うの、で、こっちのかっこいい男の人がダイチくんなの』
コッコはビーが話す言葉に少し違和感を覚えたが、言葉が通じることにほっとしたが、次の瞬間、目を見開きまじまじとビーを見ている。
(あっ、この方のオーラ、とんでもないですの、人の形を とっているけど、この方は精霊?ただの精霊じゃないですの、きっと神に連なる大精霊ですの)
『失礼しました、大精霊様だったとは、すみませんですの。こちらの方も、精霊の気配を帯びていますの、この方も精霊様なのですね、すみませんですの。精霊様なら、魔物など問題ありませんですの』
コッコは慌てて、精霊に対する正式な挨拶を送る。両手に軽く拳を作り、胸の前で交差させ、そのままお辞儀する。
「えっ、えっ、?この人急にどうしたんや?それに、ビーも急に、変な言葉話し始めて、訳わからんわ」
大地はなにが起こったのかわかっていなかった。
「あ、ダイチくんごめんなの~。えっとねえ、ちょっと待っててね、今、ダイチくんとも言語モジュール解放して情報リンクするから。う~んと、うまいこと行くかなあ、スーパーコア共有しているから行けると思うんだけど・・・、どう?ダイチくん」
ビーは空中で文字を描くように指を振る。大地は神妙な顔だ。
この星の言語体系についてはツバイの事前調査により入手済みである。この星の人々は(人に限らないが)、方言などで少しの違いはあるが、統一言語を使用している。
「ビー?なんかしたんか。お、なんか、頭の中もぞもぞする気がする~。お、おお?」
大地は鼻血じゃないのに、頭の後ろをとんとんとんと叩いている。
「ダイチくん今からビーが聴く事に答えてね、いい?」
大地はきょとんとした表情でビーを見ている。急になにを言いだすのかとその表情が訴えているようだ。
「ん、なんかよく判らんけど、ええで」
ビーはにっこりとしてからさも当たり前のようにその質問を口にした。
『ダイチくんはビーのこと愛してますか?』
大地、コッコともにその質問の意味が判らなかった。
「ん!」
ビーは憤慨した表情で一歩大地に詰め寄った。
「もう~、答えてなのっダイチくん」
どうどうどうとばかりに大地は、詰め寄るビーを静止するように手のひらを広げている。
「そやけどなあ、ビー 」
ビーの顔は、わがままな我が子に対する母親の表情の様にも見える。
「しょ~がないなあ、もう一度聞くよ、いい?」
大地は、少し身構える。心の準備ができたのか、少々引き締まった表情をしている。
「お、おう」
大地は、ファイティングポーズをとるように軽く拳を握りしめた。
『ダイチくんはビーが好きで好きで、堪らないですか?』
好きということを認めることに、やぶさかではないが、堪らないかと言われると人前で認めることに抵抗があった。確かに、好きで好きで堪らないと言えるのかもしれないのだが・・・。
「ビー・・・」
更に、ビーはたたみ掛けるように言葉を重ねる。
『ダイチくんはビーを好きで好きで、ど~しようもなくて、もういっそのこと襲いたいと思っていますか?』
大地の目は泳いでいる。
襲いたいと思ったことなど、星の数ほどあるのは確かだ。大地はなんとか言葉を絞り出すことに成功する。質問の答えではなかったが。
『襲うって・・・、ビー、女の子がそんなこと、言ったらあかんわ』
コッコは蚊帳の外である。この二人はなにを話しているのかと言った表情だ。
『ダイチくんはビーのこと好きじゃないの?ビーは、大好きだよ、何時襲われても、ばっちこ~いなのよ』
コッコはもう限界とばかりに恐る恐る二人の会話に口を挟む。
『あの~』
二人から強い口調の返事が返される。
『なに?』、『なんや?』
コッコは慌てて、頭を左右に振っている。否定の動作は異世界でも同じなのだろうか。
『いえ、なんでもありませんですの』
その表情はなんとも苦虫を噛み潰したような顔だ。
(なんで、私が怒られないといけないのですの?)
『今、大事な話をしているんだから、口を挟まないでなの』
コッコは勇気を振り絞って言葉を発する。
『えっと・・・、大精霊ビー様、その・・・ダイチ様、でよろしいんですよね』
まだ、なにか言うのかと、ビーの目が細くなっていたが、凄みが増すよりも、膨らました頬により、可愛さが増していた。
『なに』
ビーにとって、大地以上に大事な事などありはしないのだ。
『言葉・・・』
コッコはビーのプレッシャーに耐えてその言葉を発することに成功した。
コッコにとっては、二人のことを偉大なる存在、精霊と思っている為、ビーの怒りの矛先が何時自身に降りかかるかビクビク物だった。そんな存在に言葉を発することがどれだけ勇気がいることだったか。神や精霊と接する機会の多い神官だから発せられたのか、コッコの性格ゆえなのか。
『あ、俺、意識してなかったけど、変な言葉使こうてるやんか、ビー、なんかしたんか?』
コッコの言葉により、いつの間にか異世界の言葉をしゃべっている事に気が付く大地。
『そうだったの、それで、ダイチくんは結局、ビーのこと好きなの?嫌いなの?』
ビーは、判ってはいても大地の口から聞くことに固執している。
『いや、そんなことより』
大地の言葉を塞ぐようにビーの言葉が響く。
『答えて!ダイチくん』
(好き以外は許さないなの)
『う~ん、いや、その、・・・好き、かな?』
ビーは上目使いで大地を見る。
『本当?』
コッコは遠い目をしながら、二人のやり取りを聞いていた。
『う、ほ、本当や』
『本当に本当?』
『本当、本当に本当や』
『うん、そうだと思った。えへへ』
がらりと表情の変わったビーを見て、ほっと息を吐くコッコ。二人のやり取りが終わったと思ったコッコはおずおずと言葉をかける。
『あの~』
にっこり笑顔のビーと視線が合う。
『なあに?』
『もう、帰っていいですよね?』
* * *
お読み頂きありがとうございます。




