105.ビー、大地に跨る。「ダイチくん、朝だよ~」
夢ですね。
そんな娘、夢の中にしかいません。
ツバイが転送したのは、腰までの高さの植物が広がる草原の一角だった。少し離れた処には、城壁に囲まれた、異国情緒漂う建物群が見えていた。
「さて、どうしようかな~、まずは、ダイチくん起こさなきゃなの~」
ビーは大地をごろんと仰向けにする。
大地は、口からくぐもった声を発していたが、ビーは気にしなかった。
「ツバイちゃん、言っていたもんね~、スキンシップが大事だって。えっと~、確か、男たちの夢の起こし方、『跨り朝だよ~』だったの ~」
ビーは、大地の上に跨り、胸の上に手を付いて、ゆさゆさと揺らし始めた。
「ダイチくん、ダイチく~ん。朝だよ~、ねえ、起きて~、ダイチく~ん。朝だよってば~。・・・むう、起きないの」
大地の体の状態は転送時に習得済みで、重大な障害が無いことは判かっている。
「むふふ、ダイチくん、速く起きないと悪戯しちゃうよ」
ビーは、にまにましながら、ゆっくりと顔を近づけていった。
(あ、ダイチくんって意外と、まつ毛が長いの~、もうちょっと、もうちょっと、もう)
吐息がかかるぐらいの距離まで顔を近づけた時、大地の目が開いた。
「あ、えへへ~」
ビーは、誤魔化すようににへら~と笑いかける。
「観察者、ビーさん、なにをしておられるのですか?」
「えっと、えっと、なんだろうねえ、えへへへ」
言い訳を言おうとした様だが、なにも思い浮かばなかったようで、顔を真っ赤にしながら、笑って誤魔化そうとしている。
「ここどこや?地球やんなあ」
大地は、ビーを見上げながら話している。ビーも何食わぬ顔でそのまま、大地に乗っかりながら返していた。大地の追求が無かったので、少しほっとした表情だ。
「えっと、ここは、時間軸はもとに帰って来たのだけどね、重積世界のひとつなの。でも、もとの世界からは、すご~く離れているはずよ。どれほどかはわからないんだけど、少なくとも、ビーのストックしている太陽を半分くらい使ったくらいのエネルギーが要るくらいだから、もう、と~っても、と~っても遠いのよ」
ゆっさゆっさゆっさ。
「あの、ビーさんや」
ゆっさゆっさゆっさ。
「なにかな、ダイチくん」
ゆっさゆっさゆっさ。
「何故に、揺すっているのかな?」
ゆっさゆっさゆっさ。
「気にしないで、ダイチくん」
ゆっさゆっさゆっさ。
「いや、気になるちゅ~ねん」
「ダイチくんを起こそうと思って」
「起きてるで~」
「うん、でも・・・もうちょっと、起こそうかなあなんて」
ゆっさゆっさゆっさ。
「何を起こすつもりや」
「もう~、ダイチくん、なにだって、エッチねえ」
「・・・」
「あのね、ツバイちゃんが言ってたの、もっとスキンシップをとりなさいって。ビーも、ちょっと少ないかなあ~なんて思ってたから。もうちょっと、積極的にいこうと思ってるの~」
「はぁ、そ~ですか。とりあえず、俺から、降りような」
大地はがばっと徐に体を起こす。その反動でビーはころんと転がった。
「もう、ダイチくん乱暴なんだから」
「ビー最近、ミネラさん化してるんとちゃうか?」
「そう?」
「ほんで、ビーの本体は、大丈夫やったんか?」
「今、ツバイちゃんが制御して太陽の中で修復中なの。意識体だけ分離してダイチくんと一緒にこの世界の地球に来ているって訳なの。修復が完了するまで、この地球で過ごす事になっちゃった」
「そうか、はよ、治るといいけどな、とりあえず、ぼけ~としとっても仕方がないなあ、あそこの街に行ってみるか」
大地は立ち上がり、パンパンとズボンの砂を払った。その時、急に、グラリと体が傾い てビーの上に覆いかぶさるように倒れる。
「きゃあ、ダイチくん大胆。うふふふ」
大地の頭は、有るような、無いような、そんなビーの胸に埋められていた。ビーの手は、その頭をガッチリと抱え込んでいる。
「痛っつ、なんか、おかしいわ。ガルポンの麻痺がまだ残ってるみたいや」
「あん、ダイチくん、ビーの胸で、もがもが言わないでなの」
(むむむ、これが、スキンシップ効果と言うものなの?恐るべしなの)
ビーはそんなことをにんまりとしながら考えていた。
「悪い、ビー、怪我なかったか」
「大丈夫なの、寧ろ、ばっちこ~いなの」
大地の頭が、胸から離れて行くのを、少し名残り惜しそうにしながら、大地を見上げている。
「そやけど、ビー、なんか見たこと無い服着てるなあ。お、俺もやんか、何時の間に」
ビーは少し地味なベージュ色の厚手のスカートに、茶色いブラウス、その上にはマントを羽織っていた。
大地はというと、こちらも、厚手の茶色いズボンにシャツ、申し訳程度のような、ガードする範囲の少ない皮の鎧を付けていた。
「それはね、目立たないようにって、ツバイちゃんが転送の時に服だけ、ここの人が着てるようなのに変えたの。なんか、冒険者って感じよね」
「ダイチくん、カッコいい!」
「そうか?ビーも可愛いで」
大地は、ポーズをとっている。満更でもない感じだ。剣が無いのは寂しいが。
「ここ電波がね、一切ないの、だから、文化水準は中世みたいな感じかな、でもね、変な波動が沢山感じられるから、なんか、不思議な感じなの」
「変な波動?」
「うん、良く判らないんだけどね、剣の世界である事だけはたしかなの」
「まあ、とりあえず、行ってみるか。さあ、ビー、何時までも座っとらんと、行こか、はい」
大地は、座りこんでいるビーに手を差し出す。ビーはその手を掴んでよいしょっと立ち上がった。
「冒険の始まりやな」
「うん」
「ダイチくんは勇者さまよね、ビーは、さしずめ武闘家かな?」
ビーは鋭く手足を突き出す。
その勢いに、少し厚手の布のスカートがふわりとめくれ上がった。
そこは、変わらずピンクだった。
「俺としちゃ、踊り子がええなあ」
「じゃあ、ダイチ君のためだけの踊り子なの~」
ビーは、くねくねと怪しい動きをしている。
「そりゃどうも、ほんじゃ、行くか」
「うん」
ビーの体の治療が完了するまでと言う、期間限定の冒険の旅が始まったようである。
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