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手紙から始まった交際・・・・だけど  作者: ロックハート
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87 山と花と本

5月か6月だったよね

 山菜が採れる季節だった。


 山の花もきれいなはずだった。


 彼女がまた市民登山に参加するとの連絡を受けて、二つ返事で自分も参加することにした。以前から気になり始めたことだが、出張でも、山行でも、何故か雨に打たれる事が稀だった。行事が雨で中止になった記憶がない。 


 自分は、晴れ男だろうとの自信で、当日もきっと淳子と逢えるはずと確信していた。


 しかして当日、早朝でもあり、いささか朝霧もあるが晴れる予感がした。


 いつもの 集合場所に、少しでも早くいけば、彼女との席も並んで座れるはずとの思惑で準備はしたが、どうしても時間がかかり、出発数分前に到着で、既に大部分がバスに乗車中だった。


・・・彼女の車は既に到着している。ではもうバスの中か。俺が来るのを知っているなら外で待っていてくれてもいいのに・・・


 などと自惚れと僅かな希望が頭をよぎる。しかし親密だった当時でも他人には好意が見える態度は見せなかったのに、今となっては期待するほうがどうかしている。


 彼女が何処に座っているか、期待しつつ乗車する。


 座席に眼を移すと、淳子は既に、席に着いていて、同級生と二人がけだった。

 自分は、空いている一人がけの席へ着く。一人であれば他人との会話の苦痛もしなくて済むが、期待していた気持ちは、半分になり複雑な気持ちもありで、前方の二人を眺めつつ出発を待つことになる。


 やおら同級生が


「健太郎くん、淳子ちゃんの隣に来ない? 席替わろうか?」


と嬉しい提案があった。

 が 話しベタを自認する俺は、笑って辞退する。自発的な接触は相変わらず苦手である。偶然にその立場を受容するなら、仕方がないというスタンスである。


・・・これではいつまでたっても、進展するわけがない。・・・



 登山口について、メンバー分けで、年齢別となり、また彼女と同じグループになる。

 

 これだけは譲れない。彼女から離れないよう、登山道入り口まで、隣で歩き、登山道に入ったら、自分が先になり、彼女は俺の直後で、登り始める。


 山菜の時期で、木の若葉、姫竹の新芽、もろもろの山菜が出ているらしかった。同行したグループの話からもそれが判る。自分は、ほとんど山菜には興味がない。


 つまらないというか、少々腹が立つのは、・・・


 先をゆくメンバーが、山菜を見つけると、採るために歩みを止める、挙句は、登山道からはずれて山菜を採りに行く。そうなると、後続は、終わるまで足を止め、待たなければならない。そのたびに登山のテンポが狂うのだ。遅れた分、前のグループに追い付くため、早足にならざるを得ない。


 内心は、山菜を採りたいなら、登山とは別のグループとか、一人で山へ入ればいいと思うのは俺だけか。待っている間、足元の山菜などを自分も採ってみるが、ポケットに入れてもどうせ下山後捨ててしまう。


 それでも、ただ待っているのもつまらない。足元の姫竹らしいものを手に


「これって、姫竹?」


と彼女に聞いてみる。


 これはこれで、彼女との会話のネタになることを知る。


「違うんじゃない?」


 暫くしてから


「これは姫竹だよね」

「うん そうだね」


 他人の、山菜採りは、腹が立つが、ただ立って待っているよりは、彼女との会話ができればよほど楽しい。


《貴女は、どう思ったかな。山菜とか一切採らなかったよね。興味がないのは知っていたけど、腹立つまではいかないかな》


 おかしかったのは、・・・


 高山植物に詳しい(らしい)山岳会の女がいた。

 メンバーが、その彼女に この花 なんて名前? と聞く。

 グループ先頭のメンバーが、花を見つけて、自分たちの少し前のメンバーに聞くため、少々声が大きく、たぶん最後部まで聞こえるだろう。


「この花、しらねあおい かな?」

「うーん 違う。しらねあおいではないけど、名前が思い出せない」

「んじゃ なにかなー?」

「しらねあおいじゃないのは確実なんだけどオ。名前が思い出せないんだよねー」

 と、数度の言い訳としか聞こえない会話が続く。


 グループの全員に聞こえる会話だった。俺的には、知らないなら知らない。でいいんじゃね。どんだけ負けず嫌いなんだろ。というか、知ったかぶりなのか と。


 途中、別の引率者が、山の花々の名前を教えてくれた。自分は花の名前を覚えることに積極的ではなく、覚えることも得手ではない。ひたすら頂上をめざし、頂上でビールを飲み下山するタイプの登山である。ピーク登山とか、ルート登山とでもいうらしい。


 で おかしな会話があった直後、休憩して、近くの花を見ると、蜂がとまっている。まだ咲いてはいないが花弁がそれぞれ繋がっていて、風船のように膨らんでる。何気なく注目していると、ポン と音がして、花が開いた。結構大きな音で彼女も聞こえたと思い。


「ね 今この花が開いたんだよ。ぽん と音しなかった?聞こえなかった?」

「こんな音がして、花が開くのって初めて見た」


 この花の名前なんていうの の顛末が聞こえていたであろう彼女は、笑顔で話を聞いてくれたが花の開いた音は聞こえなかったのだろう。怪訝な顔で、それでいて笑顔で聞いてくれた。俺の勘ぐりか、さっきの花の名前の顛末をまだ笑っているような気がした。俺と同じ気持ちで聞いていたのだろうか。


 休憩終了  再度、出発。

 途中、山岳会メンバーが教えてくれた花の名前を、覚えることが出来ず、数回同じ花があると名前を確かめようと、彼女に、


「これは○○草?」


と聞くと、彼女は 


「そうだよ」


とにこやかに答えてくれた。


 すぐに忘れてまた確認する事になるが、間違った名前を言っても、


「これって ○○×だったっけ」


と聞いても、笑って


「○○○だよ」


と ほんとの花の名前を、にこやかに答えてくれた。


 彼女もこの受け答えを楽しんでいたようで、たとえ間違った名前で聞いても、何度も同じ名前を言っても、


「そう ○○草」


と 教えてくれた。


 このやりとりは、何度も繰り返されたが、決して嫌がられることはなく、笑顔の会話だった。

 その笑顔は、交際中にも見せなかった、でも まるで交際中の恋人同士のような笑顔で答えてくれた。


 登山自体は、行程が恐ろしく長く、昼食を摂るまでの山頂直下の休憩でバテてしまった。今までにない経験だった。初めての経験で、バテるとは、こうゆうことだったのかと、痛感した。年齢でグループ分けしたが、結局、若いグループと歩行速度は一緒で、なんてこったの感想。


 先行する列から遅れ始めても、その歩みは止まらず、なんとかついて行くも離れた最後尾は、しばしば視界から消えることが多くなった。僅かなプライドも砕ける。

 淳子も自分からは、離れずに付いて来る。俺が遅れているためか、大きな負担ではないのかもしれない。


 休憩地点では、水も不足した。もし一人、又は二人での登山であれば致命的だったろう。わずかに残る水に途方に暮れていると、山岳会から水の補給があり一心地つく。水の予備を担いでくるのは流石であるが、なぜ水場が少ないことを募集案内に書かないか少々恨む。


 少しだけバテは回復したが、回復しないまま再出発した直後水場があり、水量は豊富ではなかったがポリを満タンに。

 直に頂上到着。すぐさま、シートを広げ横になり回復を図る。淳子も横になり動かない。口には出さないがやはりバテていたようだった。

ビールと昼食を胃に流し込みやっと一息つくことが出来た。


「バテたー」


と声をあげると、山岳会メンバーが笑っている。


・・・おい 確かに若くはないが、この行程はきつすぎる。年齢でグループ分けした意味がない・・・

と思ってしまうのは俺だけか?


 更に、横になっていると、山岳会メンバーが 鹿がいる と叫ぶ。


 俺は、

「何 何処」


と言いつつ、起き上がって、叫んだ方向をみると


「何がいるって? 見つけたら起こして」


と彼女が問いかけてきた。


《見つけたら起こして は、貴女のちゃっかりした一面を見たような気がしたよ。実利がないと動かない とか。 でも、これは俺に対する甘えと感じる 俺は、甘ちゃんだけど。付き合っていた当時からもちょくちょく見せたしぐさだったよね》


 俺が立ち上がった時は、既に鹿は去った後らしく、見えなかったけど、手を差し出してきた淳子の手を引いて立ち上がらせ、肩がふれあいそうな距離で、指差し、


「あそこら辺に鹿がいたらしいけど、どこかへ行っちゃったから見えないね」


 と説明したが、結局は無駄な行動に終わった。鹿なら山で見ることはある。残った印象は、彼女のちゃっかりした頼み事と、それが俺だけに可能だったであろう甘えの表現と理解したことだった。


 下山道は、雪解け直後か、結構なぬかる箇所もあり、斜面をトラバースする箇所もあった。事前の偵察登山で、張り渡したのだろう、ザイルが張ってあり、ぬかるみと相まって、少々危険だった。

 滑落しても、まあ岩も少ないし、雑木もあり、大怪我はなさそうだが、数メートルは落下しそう。滑落すれば、積もって湿った落葉と泥で上がってくるのは難しいと判断して、彼女を前に渡らせて、事故があった時の対処が早く出来るようにしたつもりだった。


「先に行って」


と前後を交換。


 予想に反して、彼女はサクサク渡っていく。俺は、いささか腰が引けた形で、山側に体を預けて渡る格好になる。山側に体重に預け過ぎると、かえって動きが悪くなり危険が増すことは判っているのだが。


 全員無事に渡り切ると、通常の山道となった。季節柄、花が多く、苦手な話題ではあったが、花談義となった。


「毎年、専門学校の登山引率してる時にね」

「この花、なんて名前ですか? とか生徒からよく聞かれるんだよね」

「ふーん」


「俺、花の名前とかよく解からなくて、困るんだよ」

「まあ 頭に チシマとか、ミヤマとか付けて適当に答えてるんだけど」

「来月あたり、また引率だし」


「ふふっ 大変だね」

「頑張って、覚えたら?」


「さっきの花は覚えたけどね」


 この山行中、専門学校引率登山中に、学生からこの花はなに?と聞かれるのだが答えに窮する事を彼女に伝えた。



 数週間後・・・・


《この時の会話、覚えていてくれたんだね。 貴女の優しさとか、心遣いとか嬉しかったよ》




趣味の山行関連では、やはり長くなってしまいます。

いちいち細かいことまで書いてしまいました。


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