73 閑話休題 2
閑話2 ・・・温泉一泊忘年会のときですが・・・
時間は大分遡る。
既に淳子は結婚していたか? まだ結婚前でも、ほとんど連絡がなくなっていた時期か
《確かな事は、自分はまだ貴女に未練はあったんだ。 ちょっといいなと思う女性がいても、つい貴女と比べてしまい、どっちにしても、貴女の方がずっとよくて、好意を持たれても、やっぱり貴女が頭から離れなかったんだ》
会社の同期で、係は違ったが同じ部署に配属された同僚女子がいた。同期で同じ部署に配属された女子は一人だった。
自分は、其の女子に軽口で、
「会社終わったら茶でも飲みに行こう」
と昼食時や、たまに同じ仕事をした時には、声を掛けていた。一応声を掛けるのが男としての礼儀?程度のつもりだった。
「バスの時間があるから」とか
「用事があるから」 とか
で一度も誘いには乗って来なかったが。
断られても、本気で誘ってはいなかったので
「ありゃ また振られた」
と軽口でいかにも残念な風を装いながらも、気にも掛けていなかったのだが・・・
さかんに声を掛けてた時期から、こりゃだめだ。ひょっとしたらお茶の一杯位は一緒できるかと考えていたが、全く脈はなさそうだと感じて、しばらく声がけはやめていたころの部署内忘年会で温泉旅館に一泊した時だった。
宴会も終盤になりつつある時、同期女子の先輩に手招きされ、会場の中央付近に座らされた。
「健太郎 ちょっとここに座りなさい」
と座らされる位置に手を添えられて座る位置を指定された。
そこでは、数人の先輩女子が周りを囲み、同期女子が正面に座り自分は何事かと少々不安な心地だったが、同期女子から繰り返し酒の酌を受けた。徳利を持ち、更に片方の手を徳利の下に添えてのやけに丁寧な酌だった。
・・・いったい何事か?・・・
三回目かの酌を受けたあと、同期女子は、俺を呼んだ先輩女子から促されるようにして
「よろしくお願いします」
と 三指をつかれて頭を下げられた。
同じ部署内の先輩女子から囲まれ、セクハラ(当時はない言葉だったが)の誹りでも受けるかと思っていた自分は、思いもしない行動に、何がなんだかわからない状態でぽかんと座っていた。
・・・何が 何を よろしくお願いしますなんだ?・・・
それを見かねたか先輩は、
「定子に声をかけてるよね。定子も付き合いたいんだってよ」
と説明をされた。
・・・ありゃ冗談が本気にされちまったか・・・
即座に思ったが、本気で付き合いたいと思ってもいない女にここまでされて、さてどうしたものかと思案しつつ、呼んだ周りの先輩にも気を使わなければならなかった。
今までの酒で酔った雰囲気も覚める、緊張のなかでまた酒を煽ったが、さらに同期女子から酒を注がれる始末だった。明らかに良い返事が聞ける満々の気持ちが見て取れる表情で。
周りも、告白を後押しして、結果 付き合いが始まることの一部始終を見届ける瞬間を期待する雰囲気だった。
意を決して自分が発した言葉は
「ごめん 好きな人がいる」
だった。
好きなのは淳子だったか、そろそろ別の人だったか今となっては思い出せないが、確かなのは、声を掛けていたのは、女性には、声を掛けてみるという俺の勝手な礼儀だった。
いくら好意を持っても、上手くいかない付き合いもあるが、好意がなくてもこんな展開になるなんて、いかにも皮肉である。
俺の返事で、一気に周りにしらけた冷たい空気がただよい、先輩女子の顔色が変わった。
周りの先輩の冷たい視線を受けつつ、また酒を煽るが、今度は酌をしてもらえず、自分の周りから席をたって行く同期女子と先輩女子だった。
一人座席に残された自分は、
・・・アチャー なんでこんな事になるんだ。はっきり言えば、冗談でも声を掛けていた時は、いい返事の一つも言わなかったし、交際してくれなんて俺は言ってもいないのに、いきなり よろしくおねがいします と頭を下げられたって、どうしろというんだよ。俺だって 他に好きな女も一人や二人はいるんだけど・・・
だった。
自分だけが、阻害されたような雰囲気に思える忘年会宴会も終わり、部屋へいったん帰ってひと風呂浴び、寝るべく自分の割り当ての部屋を探す。しかし温泉旅館は例にもれず廊下が複雑で路に迷った。
ウロウロしていると、さっきの同期女子と先輩女子が向こうから歩いてくる。
先輩女子からの後押しを受け、見守られて交際申し込みを(相手からすれば俺からの告白の了解かな)断った手前、さすがに気不味い。視線を泳がせながらすれ違いざま俺が放った言葉は、
「部屋が見つからない」
直後、直接俺を呼んだ先輩女子から帰ってきた返事は、
「ずっと捜してろ」
だった。
明らかに怒っている。まあ 同じ係のかわいい後輩女子の告白を面前で断った相手だ。面子も潰されたと思ったのだろう。
俺からすれば 再度 アチャーの気持ちに戻るである。
後で考えるに、同期女子は、俺から声を掛けられると、断っていたにもかかわらず、本気に受け取っていて、それを先輩女子に、当日か、以前から、健太郎君から誘われているんだけど とでも相談していたのだろう。それを聞いた先輩女子は、んじゃ 自分が声を掛けてやるから、交際の申し込みを受けなさいとでも アドバイスしたのだろう。
声を掛けるのをあきらめて、一端中断していた時の、よろしくお願いします は、さすがに驚いたが、これ以後、実るか実らないかは別にして、女には声を掛けてみるもんだと 思ったのは俺の自惚れとしても、間違いではなさそうだ。
しかし 本気で好意を持った相手からは、受けが悪いのはどうしてか? どうしても本気度が伝わらないのか、もうひと押しが不足か、本気が伝わらないのは、半ば逃げ腰が見透かされているからか? 本気の好意を伝えても 冗談としてしか受けてもらえない態度が見えているのかもしれない。
休題2 まだ続きます。




