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60 こんなに近く
彼女が結婚し一年ほど、どこに嫁いだか、何処に住まいを構えたかも全くわからない状態が続いた。もう一生会えないか、会えたとしても厄年とかのクラス会でしか会えないのかと思っていた。
彼女と親しかった、同級生、女友達に聞こうにも、未練があることを知られるのが、恥ずかしく、怖かった。
《もう貴女を忘れかけているころ、忘れるようにしていたころかな、俺が寮から自宅に帰るとき、思いがけず郊外スーパーへ買物に行くらしい、道路を横切る貴女を見かけたよ。買物かごを持って、サンダル履きで、すぐにごく近くから歩いて来たような姿だったね。時間からいえば、夕食の支度かなんかだったのかな》
彼女は気が付かなかっただろうが、自分は ああこんなに近くに嫁いでいたんだと安心というか、なんとも言えない感情だった。もう会うことは無いと思っていたのが、きっとまたいつか会える、会えるかもしれなという正直な思いだった。
《貴女は、知らなかっただろうけど、走っている車からすぐに貴女とわかったよ。すっかり主婦らしい格好で、あまりに突然で予期してなかったことだから、声も掛けられなかったけど、俺はなんとなく安心出来た心地だったよ》




