5 意識してしまう二人
お互いに廊下で会うと気不味くなってしまいました。でも会いたくて
この想いが自分でもはっきりするのに長い時間はかからなかった。それは廊下で遠くに彼女を見つけると、近づくに連れて、お互いに廊下の窓側と教室側を歩き、目線が合わない様、あちこちキョロキョロ見ては彼女の様子を時々見て、非常に気不味い思いですれ違う事が多くなった。すれ違うまでの時間が何と長かったことか。
廊下の幅は、二メートルかそれより少し広い程度だったか、どんなに視線を合わせないようにしても、廊下の両端を歩いても、どうしても視覚の範囲内にすれ違うまで入ることは避けられなかった。
彼女も、自分を見つけた瞬間から明らかに、表情が固くなり、正面を見たきり、すれ違うだけだった。どちらかといえば 知らんぷりとか見なかったことにしようとか の雰囲気だったかな。
《一度だけだったかな。 あまりの気不味さで、なんで俺が、この女に会うたびにこんなに気不味い思いをしなくちゃならないんだ。それにもまして、俺とすれ違う時に限って明らかに目をそらし、ほとんど知らんふりかよ。クラスは違っても小学校時代はずっと同じクラス。少しは視線くらい合わせてもいいだろう と半ば逆切れしつつ 振り返ってみたこともあるよ。勢いに任せて怒りの声をあげたくなったけどそんなことは できもしなかったけどね》
自分は、気不味い思いに耐えかねて廊下に別れ道があると咄嗟に違う方向に進み、また元の廊下に戻ったりもした。
自分の教室から、職員室、体育館、トイレへ行くためには、どうしても彼女のクラスの廊下を通らなければならず、偶然の出会いは避けられなかった。
そうであるにも関わらず、自分は矛盾した行動をとった。休憩時間では用もないのに、廊下に出て彼女のクラスの方向に歩いて行き、体育館や、職員室まで行き、引き返し、また元の廊下に戻るということもあり、会いたい、でも会うと気不味いと、矛盾する気持ちが常に心の中にあった。
そう 会えないと気落ちし、会うと気不味い気持ちが常に交差した。
中学では、毎週月曜日には全校朝礼があり、他にも時々行事で体育館に整列させられる事がある。
自分は常に彼女の背中を探していた。彼女は背が余り高くなく、列の中央、やや後ろ。自分は
最後尾で、常に背中を見ることができる位置だった。まれにではあるが、男子の列が短くなり、女子の列が長くなる時があって、彼女の立ち位置により近づく時があり、
「このまま動くな、動くな」
と心のなかで祈っていた。しかし整列し始めると、距離は離れ、概ね、願いはかなわなかった。
自分でも、視線を感じるということが往々にしてあることだが、彼女は自分の視線を感じていただろうか。感じることがあれば、彼女は常に、後ろから俺の視線を感じていたことになる。
《アー 一度だけあったよね。いつものように貴女の後ろ姿をじっと見つめていると、急に貴女は振り向いて、俺を見て、私を見つめないで と言うような顔をしたことが。
俺は慌てて目をそらしたけど、貴女のあの時の表情は今でも覚えているよ。やっぱり視線は感じていたんだよね》
《一年生のころは、まだ貴女の身長はそんなに小さくはなかったよね。でも学年が上がってくると身長は伸びなくなってたよね。もう列の中央から前になってしまって、だんだん俺の視線からは遠くになりちょっと残念だったんだ。貴女とはこの話は一度も話題にしなかったけど、俺の思いを感じてもらえるのなら笑い話でもいいから、話しておくべきだったかな》




