45 諦めと虚しさと
別れも近い
47年1月 淳子から年賀状をもらう
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明けまして
おめでとうございます。
昨年中はいろいろお世話になりました。
本年もよろしくお願いします。
お互いによい年になるよう、精一杯努力
しましょう。
一九七二年 元旦
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そして次の手紙は、五枚の長い手紙だった
47年1月17日(月)淳子からの手紙
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No.1
こんにちは。 その後いかがお過ごしですか。
きのうは 電話どうもありがとう。 みんな、出かけてしまって一人
きりだったので寂しくてもっと遅くこっちに帰ってくるんだったと
後悔していた時のあなたからの電話だったので、とてもうれしく
感じられました。 きのうと今日の連休どのように過ごしましたか。
私は二日間とも下宿から一歩も出ずじまいでした。一人で過ごす
時間が多かったせいかいろいろな事が次から次へ頭に浮かんでは
消え ああでもない こうでもないと、一人で気をもんでどうにもやり
きれない気持ちになっていくのがはっきりわかるのに どうする事もできませ
んでした。 こんな状態になったことありませんか。
人間って結局は一人っきりなんですね。孤独な生物なんですね。
私の性格からくるものかもしれませんが。 最初のうちは 一人きりで
何時間も時を過ごすのは つらかったのが だんだんに かえって
一人きりの方が良くなってそれを 好むようになっていくのが
何日間かの体験でわかりました。でも又 反面 すごく
No.2
寂しいものだなあと感じました。 そんなわけで あなたからの
電話は、私に何とも言えないような幸福感をもたらしてくれました。
本当にありがとう。 今、冷静になって考えてみると あの時は
ホームシックにかかっていたのかもしれません。
冬休みは二十日までなのに なぜこんなに早く帰ってきたかという理由は
本当につまらないことなんです。夏休みの時、 私は 下宿に帰ったのが
一番あとでした。その時みんなから ひやかされたんです。 なかなか家を
離れる事ができなかったんだろうと。 それで その時思ったんです。冬休み
には早く帰ってこようと。今考えてみると本当にあほらしい事
なんですけど。でもこれだけの事から早く帰ってきたのではあり
ません。家にいると一日一日が本とうに短くて何もせずじまいの
毎日だったのでこれではいけないと思ったのでした。こっちにきて特別に
何もしていないんだけど家での生活よりは充実しているような気が
します。時々むしょうに家に帰りたいと思う事はあるけれど。
これまでこんなに強く家に帰りたいと思う事はなかったんですけど。
No.3
もちろんこの他にもいろいろな事情から早く帰ったのです。電話でも
言ったんですけど、私 二十日まで休みだとは話しましたが、二十まで
家にいるとは言わなかったと思うんだけど。私の思い違いかな。
ところで ここ会津は、きのう雪が降ったかと思ったら きょうは晴れ上がって
ものすごく強い風が吹き、何か変な天候です。 そちらの方はいかがですか。
月末頃からは本格的に寒さが厳しくなるとの事ですが、この予報も
あたるものやらどうやら。
又、話変わるけど この手紙書く前にアルバム見ていたんだけど
去年の夏 石渕ダムにいっしょに行った時の写真を見ていたら、
むしょうに 石割ダムに行きたくなりました。春休みに帰った時にでも
もう一度行ってみませんか。 三月頃向こうには雪があるかしら。
No.4
書こうか書くまいかずいぶんまよったんですけどやはり書く事に
します。私は今までずいぶんと変なことばかり言ってそのたびに
あなたにいやな思いをさせてきました、 私は自分の思い通りに
事が進まないと気がすまないたちなので、あなたにもいろいろと
迷惑をかけてしまいました。でも最近やっと気がついたんです。
人には、それぞれの生き方があるということを。気がつくのがもう少し
早かったらと悔やまれるのですが、後のまつりです。本当に申し
訳ありませんでした。 それでお願いがあるんです。今までの事は
今までの事とし、これからは、新たな気持で良き友として
つきあって下さい。大変勝手な申し分ですが、お願いします。
それぞれ違った環境の中から体験を通したて得た事を互いに
反映しながら成長していきましょう。 理屈ぽくなってしまいまし
たが要は、これからもずっーと良い友達でいて下さい というような事を
いいたいんです。どのように書いたらわかっていただけるか苦心してこれ
だけの文を書いたのですがわかっていただけたでしょうか。
No.5
何か変な事ばかり書いて全々意味の通らない文になってしまい
ました。思っている事をそのまま書くという事はむずかしいものですね。
ペンを止めるにあたりそれを強く感じました。
これから増々寒さが厳しくなります。くれぐれもお体を大切に
して下さい。 ひまがあったらあなたの近況などをしらせて下さい。
それではこの辺で失礼します。
さようなら
一月一六日(日 午後十一時)
伊東 淳子
南野 健太郎 様
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彼女の悩み事が書いてあった。
“下宿に帰ったのが一番あとでした。その時みんなから ひやかされたんです。”
《ほんとうは俺と別れたくないからと冷やかされたんじゃないの。もしそれが図星だったら、手紙の中でも本当のことを書いてはくれなかったんだね》
“寂しくてもっと遅くこっちに帰ってくるんだったと後悔していた時のあなたからの電話だったので、とてもうれしく感じられました。”
《ほら やっぱり俺ともっと、いっぱいデートしたらよかったんじゃないか。悩みがあったのなら話してくれれば、何か解決したかもしれなかったのに》
“結局は一人っきりなんですね。孤独な生物なんですね。”
《なぜそんなことを言うの 俺達は、離れてはいるけど、いつでも気持ちは一緒だとは、思えなかったのかい 貴女は、一人で相撲をとっていただけとしか思えないんだけど》
“二十日まで休みだとは話しましたが、二十日まで家にいるとは言わなかったと思うんだけど。”
《そうだったかもしれないけど また理屈をこね回すのは、勘弁してくれないかな 貴女と一日でも長くいたいから、ギリギリまで地元にいてくれると思うのが普通ではないのかい? そしてまただまって帰ってしまったよね なんで?》
“去年の夏に石割ダムに一緒に行った写真をみていたらまた行きたくなりました。春休みにでも、もう一度いってみませんか。
私は今まで随分変なことばかり言って貴方に嫌な思いをさせてきました。でも人にはそれぞれの生き方があると気づきました。それでお願いがあるのですが、今までのことは今までの事として、これからは新たな気持で良き友として付き合ってください。・・・ “
《俺が写った写真も送ったかな。 ピチピチのパンツ履いたやつを見てくれてたの? ちょっと恥ずかしい。 貴女を撮った写真は、まだ持ってたかな 今度捜してみるね》
《いままで本当のあなたの気持ちを教えて下さいと 何度も書いてきたけど 貴女の望むことはこんなことだったのかい。これからもずーっと良い友達なんて 普通ありえないだろ 俺だっていつかは一緒になれると思っていんだよ》
文面を見ると、私との交際が物足りないと思っているのか、一向に進展しない交際に、友達として付き合う名目で諦めようとしていたのかもしれない。
“苦心してこれだけの文を書いたのですが・・・・”
《苦心して、どう遠回しに書いてくれたって、“これからも友達” としか表現してくれなかったね。今だから伝えられるけど、俺は入社研修会の時に聞かれた、「結婚している人はいますか?」に対して ここで手を挙げられたらどんなに幸せだろう と考えていたよ。 付き合い始めてから五年が経つけど俺が社会人になってまだ一年にもなっていないときに、貴女との交際をどう結婚に結び付けられると思うんだい? 中学の時のあの積極的な、交際申し込みはどこへいったんだい。結論を出すのは、もう少し待ってくれることはできなかったのかい》
自分は、石割ダムに行きたいとの希望についてもなにも返事をしなかった。・・・春でもまだ雪があるだろ。行けるわけがない。・・・と考えて、たかをくくっていた。
そして、またレンタカーを借りる手間をはっきり言って自分は惜しんだ。もしこの希望に何かコメントしていたら、また希望通りダムに行っていたらどうなっていたのだろう。ここでも、また自分は一歩脚をふみはずしたのだろうか?チャンスをのがしたのだろうか?
この手紙の彼女の名前は 淳子 からフルネームになっていて、自分の名前も これまでの
健太郎君から 南野健太郎様になっていて 手紙の内容とともにどこか一歩引いた内容だった。




