34 今更何を・・責めて欲しかったと言われても・・ 好きと告げても
一年前のブランクが気になって
46年7月8日 (水)淳子からの手紙
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健太郎君 お便りどうもありがとう。
なかなか返事がこなかったので 何かあったのではないかと心配していました。
私も相変わらず毎日 元気に通学しています。 きょうは市役所の交通量調
査のバイトに行ってきました。講義は三時間あったのですが サボッて行ってきました。
後にも先にも、こちらにきて始めて講義をサボりました。今までにも何度かバイトに
しましたが、土曜日とか日曜日という休日の日にでした。バイトしたお金は、山岳とテニ
スに全部当てています。それでもなかなか思うようにいかず、天からでもお札が
降ってこないかなあなどとバカな事を考えています。
ところで 私の手紙に対する家の人達の反応はどうでしたか。それが心配で
ポストに入れてからも出さなければよかったのではないかと後悔していました。でも結局は私の取り越し苦労に終わったようですね。健太郎君の手紙にもありましたが、私達は
いったい何なんでしょうね。私も健太郎君は好きです。好意をもっていなかったら今こうして
手紙を書いたりしないでしょうから。ただ私には、一年間のブランクがありました。そのこと
を思うと私はこうしてあなたのに手紙を書く資格のない者のように思われてしかたがない
のです。 私はあの時ずいぶんあなたを傷つけました。あなたは そんな私を責めること
さえしなかった。私は激しく責めて欲しかった。やりきれないような一年間が過ぎ、
あなたから思いがけない電話をもらったときは、本当にうれしかった。そして、今までのことを
詫びようと思っていたにもかかわらず、わびることさえもできなかった。そんな自分に腹立たしさを
感じると共にいや気がさしました。また世間体ばかり気にしている自分にもほとほといや気が
さしました。あなたの手紙に好きだから ただそれだけさ と書いてありましたが、私も
最もだと思いました。世間体よりも何よりも大切なのは自分達自信なのだと気づきました。
あなたさえ迷惑でなかったら、これからも手紙を書きたいと思います。
話しは変わるけど、夏休みは十一日からですが、補講などがあり、家に帰れるのは
二十日過ぎになるかと思います。 今からお会いするのを楽しみにしています。こちらで
バイトをして行きたいと思ったのですが、家から バイトをするなら、家から通ってやれと
言われたので、補講が終わり次第すぐに帰ろうと思っています。その時にはよろしく。
いろいろ書きたいんだけれども、これから少しまとめなければならないものがあるので
きょうは この辺で失礼します。 返事おくれてしまってごめんなさいね。
淳子より
健太郎 君 へ
七月七日<火>
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“なかなか返事が来なくて心配していました”
《貴方が俺の家へ手紙をだすことを心配するから、どう返事を書いたら解ってくれるかと悩んでいたんだよ。だから前の手紙に好きだからと書いたじゃないか。それでもまだ俺の気持ちは伝わらなかったのかい》
お札が降ってこないかな・・・・・・ 自分は半ば本気でお金を送ってやりたい気持ちだった。困っているのなら当然自分が援助してもいいと思っていた。しかし、甘い妄想は現実から、遠く離れていた。自分の給料では、そんなことは、全く現実的ではなかった。
“健太郎君は好きです。でも私達には1年間のブランクがありました。その時のことを思うと私には手紙を書く資格がない。私は貴方を傷つけてしまったのに、貴方は私を責めなかった。激しく責めて欲しかった。やりきれない一年間が過ぎて貴方から電話を貰ったときは本当にうれしかった。今までの事を詫びようと思ったけれど出来なかった。そんな自分に腹立たしさを感じました。”
淳子が短大に合格した時にお祝いの電話をしたのを思い出した。この手紙を見た時は正直、何を今更という想いであった。私は表面上、余り過去のことを気に病むのは好きではない。
自分の本心は、会わないようにしようと言われて了解した時でも、一日たりとも彼女を忘れたことがない。電話をしたのは、当然交際を復活させる、ただのきっかけでしかない。お互いに合意して会わないようにしたのであれば、またやり直すことは当然と考えていた。
“健太郎君は好き の後にだからこうして手紙を書いている”
とあり これも少し気に入らなかった。私はただ 好きという言葉が欲しかった。好きだから手紙を書いているのではない。手紙は気持ちを確かめ合い、深めるための手段であり、好きだから手紙を書くのではないことを。
自分が返事の手紙に書いたのであろう “俺達はいったい何なんでしょうか” の意味は、淳子がいつも気にしている自分たちの交際に疑問をもってること、また俺の家に手紙を出すことの躊躇を咎める意味であった。わかってほしかった。
きっちりとお互いが認める恋人どうしではないのかということを。少なくとも自分はそうであることを。
《でも 俺の気持ちは伝わらなかったんだね。あまりにも貴方に嫌われることを心配してあからさまな好意を伝えられなかったんだ》
・・・恋人という言葉は、交際のなかで一度も使わなかったが。このことも彼女が自分たちの立場を私の口(手紙でも)から、直接聞きたかったのではなかったか。・・・
自分は、自分がなにも言わなくても彼女には分かって欲しかった。しかし最後まで彼女は交際に疑問をもち、私はその疑問に応えてやれなかった。
“ずいぶんあなたを傷つけました”
《傷なんかついてなかったよ。確かにがっかりしたことはしたけど、一年我慢したらまた会うことができると思っていたよ。貴女はまだ俺のことを理解してなかったね。楽天的なことと、貴方を大好きなことを》
“責めて欲しかった”
責めたらどうなったというのだろうか。当時の交際が燃え上がったとでもいいたかったのだろうか? 彼女の気生からして、その結果で私は大学に合格したとでも言い訳が返ってくるだろうと自分は思っていた。
“思いがけなく電話をもらって”
《会わないようにしよう と合意したのは 合格した時に、思いがけなく電話をもらうためだったの? 会わなくなって、結果 短大に合格したのならば 電話なりのアクションを待っていてもいいのに、思いがけないことだったと言うことは、もう交際は終わっているとでも思っていたのかな。 悲しいよ》
“返事おくれてしまってごめんなさいね。”
《普段会っている時には、言葉尻に “ね” はつくことはなかったよね。手紙だから貴女の優しさや、可愛いところが見えてくるような気がします。 でも この優しさも もっと早く手紙を書いてくれることがずっと自分にとっては嬉しいことだったよ》




