31 退寮 そして疑問の始まり
46年5月29日 ( 月) 淳子からの手紙
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お便りどうもありがとう。
先日は急に電話をかけて驚かしてごめんなさいね。この一週間位
なんか、むしゃくしゃしていたんで電話をかけてみようかな、なんて思って
急に思いたったのでした。毎日クラブをして 下宿に帰ると くたくた
に疲れ、その上、なかなか寝つけないくせがついてしまい、次の日、講義中
に眠ったりで、毎日 何をして暮らしているのか疑問を感じないわけには
いきません。
ところで、六月に入ったら家から通うとの事でしたが、以後 私があなたに
手紙をかいてもさしつかえありませんか。 あなたに迷惑をかけるような
ことがあっては申し訳ないので、本当の事を教えてください。先日の電話では
考えすぎだとおっしゃいましたが、私にしてみれば、全く気にしないわけにもいき
ません。それから職場も一応決まり落ち着いたとのことですが、具体的に
どういう仕事をしているのですか。土・日と休みになりったら是非 会津の
土地にやってきて下さい。会津には 多くの名所があり、一度見ておく価値のある
場所です。その時には、不馴ですが、私が案内します。
話は又変わりますが、友人にすすめられて この間 山岳部に入りました。
まだ 一度も活動には 参加していませんが、今度の登山には参加をしようと
思ってます。夏休みには、五泊六日位の予定日程で、合宿が予定されてい
ます。登山と準備しなければならないので、今アルバイトを捜して
いるのですが、なかなか見つかりません。先週の日曜と今度の日曜(三十日)友人の
変わりにバイトをし、三十一日には夜デパートの棚下ろしに行く事になって
います。
不順な天候が続きますが、くれぐれも体には気をつけてね!
それでは この辺で失礼します。
淳子より
南野 健太郎 様
五月二十八日<日>
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“急に電話をかけてごめんなさい。気分がムシャクシャして電話をかけてみました。6月から自宅から通うとのことですが私が貴方に手紙を書いてもさしつかえありませんか。土日の休みにでも会津に来てください”
《ムシャクシャってどうしたの? 学校のこと、友人のこと、クラブ? 家の人から何か言われた?電話では話してくれなかったよね》
《貴女は、俺に “はっきりとしたことを何も言わない”と、よく言ってくれたけど、自分のことは言ってくれないのかな?》
電話とか手紙の中で彼女は私の自宅に手紙を出すのを非常に気にしていた。後々このことが私達の仲を少しずつ冷やしていった。
自分は電話でも
「気にしなくていい」
と伝えていて、勿論このころは、携帯も、メールもなかった時代。唯一の連絡方法は、手紙か電話しかなかったので、手紙が時間に制約されない連絡方法だった。
しかも、直接言えないことも、手紙なら書けることもあったわけだが、それすらも、できなくなくなるのは耐えられなかった。
“あなたに迷惑をかける”
《迷惑なんかあるわけない。 貴女からの手紙が待ち遠しくてしょうがなかったのに どうして迷惑なんて考えられるかな? 気を使ってくれるのはありがたいけど、それが自分にはかえって迷惑だったかもしれないよ》
《なぜ自分が自宅から通うことと、自宅に手紙を出すことを気にするのか自分には解らなかったけど、中学、高校時代にはあれほど積極的に自宅にも手紙を出してくれていたのに。大人を意識し始めたってことだったのかな? 自分はまだ子供だった?》
“会津には 多くの名所があり、一度見ておく価値のある場所です。その時には、不馴なれですが、私が案内します。”
この誘いには、一度は、遠く離れた地で、淳子と二人だけで会ってみたかった。この気持は会津だろうとどこだろうと、どこでもよかったのだろう。いつかきっと会いに行こうと思った。




