105 抱きしめろ
俺の視線を悟られたか。視線どころかもろに顔が淳子の方向をついつい向いていたか?
長らく学年全体の同級会が開催されなかったが会長が変わり、久しぶりの開催で20名参加。
みな必久しぶりの再会で和気あいあいの表情である。
くじで席順を決めると、淳子が右隣。これはうれしい。しかし正面に路子が座った。少女時代の面影はあるが、それ以上に年齢そのものの年輪が見て取れる。
でもまあ他の同級生と比較すれば若々しい。それ以上に酒席での話題がないのがちょっと困ったなと感じてしまう。まさかまた妹との失敗した見合いを引き出してもドン引きされるだけだろう。
淳子よりさらに近くの車で数分の隣街に住み、繁華街に行くにも通る道すがらではあるがまったく見かけることも少ない。
左隣は、やはり同級会の二次会で強制的に胸を触らされた女。まあそれだけの付き合いだからありきたりの世間話でも時間は過ごせそうと思う。
淳子と隣り合わせはうれしいがさらに話題がないのが現実だった。いっぱい話したいことはあるのだが、相変わらずの話下手だった。きっかけさえもつかめない。
仕方なくありきたりの話題で左隣と今の仕事の話題を振る。席の端なので自分以外話す相手もなく話題に乗ってくる。そして路子にも今の仕事の話題をふってみるとあまり深い内容ではないが話を続ける程度には相手をしてくれた。手紙のやり取りをしていた頃を思い出してちょっと話を誘導してみた。
「まだ病院で仕事?」
「うん そうだよ」
「薬剤師だっけ?」
「ううん 違うよ 医療事務だよ」
「あそうか でも 希望は半分かなえたってことだよな」
「?? え なんでそんなこと知ってるの?」
「ああ 昔手紙に書いてあったから 思い出した」
「エー そんなこと書いてたっけ?」
手紙のことも、その中身のことも忘れていたようなそぶりだったが、俯いて黙ってしまったところを見ると、思い出したか、忘れているふりをしたのだろう。
まあ それ以上の会話の進展はなかったが、次の機会への足掛かりはできたかなと勝手に想像をしてみた。
本命の淳子とは相変わらず話すきっかけがなく、ボッチも嫌なので、酒の酌ついでに席を回ってみる。
一通り現在の仕事や、趣味などを聞きまわって席に戻り、あまり動き回らない(ほかの同級生がまわってきて自ら席を移動しなくても会話成立)淳子に一言声をかけてみた。
「元気? 風邪なんかひいてない?」
「うん 大丈夫」
今度の同級会で二人で交わした会話はこれだけだったような気がする。
ほぼいつものことだった。会う前はあれも話したい。これも話したい。こんなことも聞いてみたい なのだが どれも昔のことに触れなければならない会話になってしまう。そうなるとどうも彼女は話したがらない雰囲気だった。
まあ 確かにそうだろう。いまが不満ないのなら、昔のことを懐かしむ必要がないのだろう。
路子もほぼ同じ場所から移動せずウーロン茶を飲んでいて、少し離れた位置に座って飲んでいると、路子と淳子が向かい合わせで歓談している。
昔のことを思い出して同時に二人と交際していた頃ならばありえない光景だった。
どんな話をしているのかしばらく聞き耳をたてたが、まったく聞き取れず。
二人とも笑顔で長い間何を話していたのだろう。気になる。
時間も過ぎて二次会へ移動。
列の最後尾で歩き、手を組んでみた。俺のほうから腕をからませる。背が高い俺から腕をからませると腕を抱えるようになるため、淳子が一旦腕を外して普通の体制になり腕を組みなおしてくる。
俺は二の腕を少し上げて手を握った。淳子は手袋をしていて淳子の手のぬくもりは感じられず、組んだ手を持ち上げると、指の先がない手袋だった。
何度か、移動中に手を握ったことがあるので、握られるのはなれたらしい。拒まれることはなくなった。
本心を知る由はないのだが
・・・こいつは、手を握られるぐらいで満足しているらしい。これ以上は危ないこともないだろう・・・
とか考えているのだろうか? とまた自虐してみる。
二次会場では、他の客もいたがほぼ貸切状態で、にぎやかで強制的に淳子の隣に座らせられるが相変わらず会話は成立しなかった。淳子は俺と反対方向に顔を向けて話し中。
カラオケで歌ってみる。自分の最も得意な歌。女子会でもカラオケを歌うのは自分と富美子だけで、ごくまれに淳子も歌う。いつも同じ歌で女性デュオの曲。たまに俺と一緒に歌う。ていうかこの歌を一緒にと初めて誘ったのが俺だったかな。他でも歌っているかは知らない。
同級会前に少し練習しておいて、この日に淳子の手を取って誘ってみた。手を握りフロアで立って歌いたかった。しかし淳子は立ってくれず、俺が立って、淳子は座って歌うことになった。
俺が希望するシュチエーションがことごとく実現しないのは、俺の押しが足りないのか、淳子が拒否するからなのか・・・・
カラオケも一緒に立ってデュエットしてくれない。
隣に座っても、会話が成立しない。席が離れても俺がちらちらと淳子を見ているのを、さらに見られていたのか
俺の行動を見かねてか、俺の左隣の女子会メンバー女が
「抱きしめろ 抱きしめろ 応援してるから」
と言ってきた。からかいか それとも俺の痛い心境を見かねたか
まあ 抱きしめたいのは常時俺の心底からの希望だが そんなことはできるはずもない。公然とできるであろう ダンスもチークダンスしかできない。
そんなのはダンスではないだろうが、淳子も拒否するだろう。
で三々五々帰り始め会もお開きになる。今年も女子会に呼ばれるだろうが なーんにもできないだろうし、起こらないだろう。
来年は俺たちのグループが同級会幹事なので路子とも会う機会が何度かあるだろう。もう少し昔話に話を向けてみようかな・・・・・




