104 寒い時期だったけど
初めて見たこと
もう電話で誘われる女子会でしか淳子とは会える機会はなくなっているのだが。
この頃は誕生会と称しての飲み会が多くなった。自分と淳子以外に、誕生月は、全く覚えることができない。ほかの参加者には無関心だからだろう。
このころだろうか、好みの相手と話したいとき、気を引きたいときは、相手の斜め右正面に座るといい ということを知った。隣でも、正面でもだめらしい。
今回は少し遅れてきた淳子。
自分は、コーナーソファーの端で、テーブルの近くの他の席は全部ふさがっている。
スツールの座った淳子は、俺の斜め隣になった。
おもむろに、着て来たコート脱ぐと、淳子にしては胸が大きく開いた服装で来た。
ほとんど今まで見たことがない服装だった。
正面に向き合うと大きくはない胸ではあるが、谷間が見える。ということは胸のふくらみも少し見て取れる。
長い付き合いではあるが、少しでも胸の隆起が見える服装はありえないことだった。
少し距離はあるが、これまでになく間近に胸を見る。素肌でもある。こんな状況は俺の人生でそんなにあり得ることなのか? 交際中でも、手も握れなかった相手の胸。
しかし、そんなことを考えてもガン見するわけにはいかないことは、百も承知。
悟られないようにチラッと見て目をそらし。会話をするたびに、視線は胸へ。話をしないときも
淳子の顔を見るつもりが、やはり胸へ目が行ってしまう。
視線を、送ると時々淳子とも目が合うが、胸を見ているという負い目があり、俺はすぐ目をそらしてしまう。度々そんなことがあると、さすがに淳子も気が付いたのだろう。俺の視線が胸に注がれていることを。
そしてそれは、自分の腕で胸を隠し、そして次は、着てきたコートを前で羽織るように胸を覆ってしまった。
≪やっぱり俺が貴方の胸に注目していたのは、あっさりばれてしまったんだね。当たり前だよね。視線を感じることは、よくあることでもあるし、会話の最中に向き合った時の視線がどこに行っているかなんてすぐにわかることなのに。これがもし富美子だったら、健太郎さっきから何処見てるんだよ。胸ばっかり見やがって とか すかさず言われてしまうんだろうね。
そうしなかったのは、俺への気配りかな。それとも胸を見られていたなんて下世話なことで大騒ぎするほどでもないとおもったのかな≫
やっぱり悟られてた視線の行き先がばれて、少々がっかりと、どんな仕打ちが待ってるか一瞬ドキッとしたが、何事もなく時間が過ぎて少し安心した。そして一次会終了。
次の店へ行こうと街中を連れだって歩く。
俺と淳子は連れから最後の順番を歩いていた。
無言で手を差し出すと、淳子も拒否することなく手を握り返してくる。夜は流石に寒い。
指を交互に重ね合わせて、いわゆる恋人握りと言うのだろうか。酔った勢いで暫くそのまま歩き、相変わらず会話もないのだが、自分のコートのポケットに手を握ったまま、誘ってみる。淳子も素直に俺のコートのポケットに手を入れてくる。それが全く当たり前のように自然に。
どうして、付き合っている時にこれが出来なかったか と 少し苦笑いをしてみる。
≪よく手を握ると、拒否するでもなく握り返してくれるよね。あ めったに手を握ることもないけど。こんなことで満足してくれるなら、適当にあしらっておけばおかしなことにはならないだろうという思惑? それとも少しは、大人の恋愛感覚があるの? それとも若い時の感情が少しはあって、当時手も握ってあげられなかった反動で、今それを満たしてくれているのかな≫
同行者から最後を歩いていることで自分ができる最大の感情表現ではあるが、反対に突然同行者が振り向いて手を繋いでいることが見つかり、囃し立てられることを望む矛盾した気持ちがある自分が、情けない。




