1 序
ダラダラとした恋愛小説でHもなし、キスもない小説です。手紙は誤字、誤字訂正なども表現して、らしい表現です。ちょっとだけ旅行記らしきものと、山行記を入れてみました。後半は、タイトルとは違う、男の引きずった未練だけの感想となってしまいます。
1 序
健太郎 中学三年
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突然の手紙なのでびっくりしたことと思います。
できたら あなたとの文通を望んでいるのですがどうでしょう。
淳子より
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まさしく手紙は突然に来た。
健太郎の人生のおそらく何分の一かを占める事になる同級生からの手紙だった。
自分は、今病院のベッドにいる(らしい)
らしいと思ったのは、自分は目が見えてない。体も動かない。いまの時間も、日付もわからない状態だった。
時々おぼろげに聞こえる会話や、それらしい音で病院のベッドに寝かされている状態だと推測した。そして意識がない状態とされているらしい。確かに体は動けないし、時折聞こえる会話にも反応は出来ない。
その日は、趣味のバンド活動の一環で、コンサートを観にいくところだった。夕方軽自動車を駆って、もうすぐ始まるコンサートに遅れまいと急いでいた。
急ぐ理由は、もう一つ、ひょっとしたら、中学、高校時代に付き合っていた彼女に会えるかもしれないという思いがあったからだった。
彼女は、好みのコンサートがあると、予約してチケットを入手し、このホールに来ることを聞いて知っていた。急げば、ちょうど期待した時間には到着するはずであった。
コンサート開始10分ぐらい前にホールで待っていれば、偶然をよそおって逢えるかもしれないという思いが強かったのだろう。
実際、何度か時間と場所を約束しなくても、入場する前に会うことが出来た。今度もきっと会えるはずだと考えていたが、それが直後に起こる事故を予想させるものではなかった。
既にライトを点けないと前方は見えず、降り始めた雨も一層行く先を暗くしていた。
もうすぐコンサート会場へ着く頃、前方の大型車のライトに一瞬眼をそらし、再度前方を見た瞬間、道路に横たわる枕木状の角材が目に入った。
ハンドルを切って避けようとしたが前輪は、角材に乗り上げ、ハンドルを取られて大きく蛇行した。
その先には歩道の縁石があり、再び前輪が乗りあげて、車は大きく傾き、道路側に横転しようとしていた。
更に悪いことに、後ろからも車が迫っていて、一瞬ルームミラーに写るライトが健太郎の目に入った。 健太郎は、一瞬、あー俺は死ぬかもしれないと 思うと同時、横転する音と、ブレーキの音、続いてぐしゃっと潰れる音がした瞬間、意識はなくなった。
その頃、同じような期待を持ってホールで待っていた 淳子は、もうすぐ開場するコンサート会場で、開始のベルを聞いていた。
何も連絡もしなかったが、この会場で今日開かれるコンサートには、行ってみたいと言っていた健太郎の言葉を信じて待っていた。
時間も場所も打合せたわけではないが、過去にも、数回 待ち合わせをしなくても、会えたことが、今回も期待を持たせていた。
しかし、開場のアナウスに促されて、チケットを切りに行く他の客に押されるように淳子は入り口に向かっていった。遠くにサイレンが聞こえたが、これから始まるコンサートへの期待に、それが何の音なのかという疑問は、消されていた。
コンサートは、それなりに楽しめた。欲を言えば、健太郎と同じ感動を一緒にできれは、なお楽しめたと思うのは、考えすぎか と自分をいさめた。もとより約束したわけではない。今までが偶然だったのだ。
コンサートの途中で、昔聞いたことのある恋唄を聞くたび、時々思い出す健太郎を振り切ってステージに集中し、心地よい疲労感を覚えつつコンサートは終了した。
コンサートの熱気も冷めやらないまま、淳子は会場から出て、車のハンドルを右に切れば、自宅の方向へ向かうのだが、前方にパトカーのライトが点滅しているのを見つけると、好奇心を抑えられず、直進した。 パトカーが停車している場所で左右を見回すと、後ろがつぶれて、運転席側も大きく変形した軽自動車が道端に置かれていた。
淳子は、あーさっきのサイレンは、この事故だったんだと 納得しつつ、事故車を見つめると変形した後部のナンバープレートから、記憶の中にあるナンバーが一部目に入った。
27-9・・ 後は変形していたせいもあるが、暗闇に隠されて確認は出来なかった。
「あー あの番号は健太郎のナンバープレートかもしれない」
と一瞬思ったが、まさかねとも思いつつそのまま走り去った。
次の日、新聞を見ると、事故の写真と共に、運転していた南野健太郎さん意識不明 の文字が目に入った。
あの夜の事を思い出しつ半分夢のような意識の中で、モニターのピッ、ピッという音が聞き取れた。
自分の身に起こった事故は、思い出せる。耳も少しは聞こえる。だが体が全く動かないが、命は取り留めたようだ、と思った。
「痛みに反応はありますが、意識の回復は時間がかかるかも知れません、このまま昏睡が続くかもしれませんが、しばらく様子を観ましょう」
という声が聞こえたが、なぜ自分は意識がないと言われているのが不思議だった。
何時か、何日かわからないが、遠くから足音が聞こえ、薄い意識から、それが誰か想像できた。
病室のドアがあき、
「失礼します」
の声でそれが淳子の声であることがはっきりした。
夕暮れが迫る時間帯に同級生数人と一緒に見舞いに来てくれた淳子だった。付き添っていた家族は、見舞いの花を生けるべく、花瓶の水を取り替えるため部屋をでた。
健太郎は、動かないとわかっているが、何処か動かそうと意識を集中した。淳子が来てくれたことで、何か意思を通じ合える手段がないかという思いだった。
見舞いのあいだ、淳子は健太郎の動かない体を見つめていたが、一瞬手が動いて、こちらに差し伸べようとしているようにも見えた。
一緒に来ていた同級生は、気の毒とか、これから家族はどうするとかの雑談のなか、淳子は同級生に悟られないよう、掛けられた毛布からわずかに出ている指を握ろうとした。一瞬健太郎の手も自分の手を握り返してきたように感じた。
健太郎は、また遠くなりそうな意識の中で、懸命に淳子の手の感触と共に、過去の思い出をも感じ取ろうとすると、忘れていた過去を電撃のように、それでいて走馬灯のように脳裏を駆け巡った。それは、手紙やデートでも伝えられなかったもどかしい好意の伝達でもあった。
せつなかった、恋心とも、憧れとも思っていた淳子との少年時代から青春時代の思い出だった。
淳子はというと、今でこそ青春時代のような、切ない気持ちこそないが、忘れていた記憶とともに、健太郎から最後になるかもしれないメッセージを受け取ったような心持ちになり、その手を改めて握り直した。
長い長い記憶の交換のように思われたが、たぶん一瞬の出来事だったのだろう。




