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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
幼少編
8/33

引越し準備

「月の約束」。太古の昔、月の大狐「ジン」が人間と交わした約束を伝えるとされるその文句は、次のようなものだ。


漆黒の夜が地を覆う時

銀の狐は月に眠らん


漆黒の夜が天を裂く時

銀の狐は月に歌わん


今ここに誓う

世界と共にあることを


この「月の約束」の「漆黒の夜」については、古来より様々な解釈がされてきた。


そのうち、現在有力とされているいくつかの説に共通するのは、「漆黒の夜」を「黒髪の人間」とする点である。これについては昔からほとんどの学者の見解が一致していて、通説となっている。


しかし、「地を覆う時」と「天を裂く時」というのがどのような状況を指すのか、これについては説がわかれる。


「月の魔術師」の活躍以前は、それまで歴史上に存在した数名の黒髪の人間が生きている間に、大きな災害や戦争が起きたという事実から、「黒髪の人間が災厄を呼ぶ」という解釈がなされてきた。


ところが、二百年前に月の魔術師が誕生し、その後彼女が魔術師として現役を退くまでの数十年間、世界中の問題、事件を解決して回ったことにより、新たな二つの解釈が生まれた。


すなわち、「黒髪の人間は災厄を呼びうるが、月神たる月の大狐と契約すればそれは避けられる」というものと、「そもそも黒髪の人間は災厄を呼ぶものではなく、問題の文句は黒髪の人間が用いる魔術のことを指している」とするものである。


後者の説は、月の魔術師が四大属性の魔法ではなく、後に「月の魔法」と呼ばれる特殊な魔法の使い手であったことを根拠としているが、ではそれ以前の黒髪の人間はどうだったのかと言われると、あまりに遠い昔のことで、黒髪の人間が使用した魔法に関する文献は残っておらず、立証は難しいという状況だ。


そのため現在では、月の魔術師の出身国であるジンドラード皇国といくつかの国が国家としてこの説を採用しているものの、もう一方の新説を採る国も多く、一部国や地域によっては未だ旧説も根強いといった状況が続いている。


つまり、月の魔術師も黒髪であったからといって、シェーラ自身が危険視される、あるいは危険に晒される可能性が消えるわけではないということだ。


皇宮を激震させた魔術測定の翌日、父アルダンから事情を聞いたシェーラは、なんとかなるだろうと軽く考えていた自分の甘さを思い知って内心落ち込んだ。しかし可愛い娘を事実上隔離しなくてはならなくなった父が、泣き出してしまわないよう堪えながら途切れ途切れ話す様子を見ると、これ以上心労をかけるわけにもいかない。処刑されるわけでもないし、確かに最悪のケースは免れたのだから、と自分を納得させ、なんとか笑顔を作った。


「わかりました。なにも一生会えないというわけではありません。私はこれからもお父様の娘です。元気を出してください」


「シェーラ……! ありがとう、ありがとうシェーラ。そうだな、私もしっかりしなくてはな」


ふぅ、と息を吐いて気持ちを切り替えた後、アルダンは胸元から小さな紫色の袋を取り出した。


「いいか、シェーラ。この袋の中には、月の魔術師様が遺した新月石という特殊な魔宝石をはめ込んだ指輪が入っている。新月石には月の力を抑える効果があるから、この指輪をしていれば髪の色は戻るはずだ。失くさないよう、大事にするんだよ」


「はい」


袋を開けると、楕円形に磨かれた石をはめた指輪が出てきた。石は半透明の白色で、中に青みがかった虹色の光を宿している。


(前の世界にあったムーンストーンに似てるけど、こっちは中の光がゆらゆら動いているような……。これが新月石かぁ)


「はめてごらん」


アルダンに促され、右の中指をそっと指輪に通す。見た目はかなり大きそうだったが、この世界の他の指輪と同様、自然とちょうど良いサイズに変化してぴったりはまった。


「お父様、何だか身体の力が抜けて、すうっと冷えてゆく感じがします」


「うむ。見てごらん、髪の色が抜けてゆく……」


漆黒の黒髪は根元から徐々に色を変え、三分後には、前よりも若干白っぽい金髪となっていた。


「もしかすると、魔力を余分に封じ込めたせいで、髪の色も白っぽくなったのかもしれんな。まあ不自然ではないし、強い魔力を持つ皇家の血を隠すことを考えればかえって好都合だろう。あとは瞳の色だが……こちらは指輪をつけても濃いままか。レイザになんとかするよう言ったから、まあなんとかなるだろう。引越しは六日後だ。ソフィーとセイラが向こうで待っているから、荷物を整理しに行こう」


「はい!」


母ソフィアの部屋へ行くと、そこでは数十名の侍女を動員して荷造りが行われていた。ソフィアとセイラは、シェーラが持って行くドレスを選んでいるようだ。


「まあシェーラ!上手くいったのね!髪の色が少し白くなったようだけれど、それもまた可愛いわ。こっちに来て、もっとよく見せて頂戴」


ソフィアとセイラが、シェーラの身体中をペタペタ触ったり、頭や髪を撫でたり、抱きしめたりして、無事の再会を喜ぶ。アルダンも加わりたかったようだが、


「アル、ちょっとあっちに行っていてください」


と追い出され、しばらく蚊帳の外となった。


「ところでソフィー、このドレスの山は……」


「それはもちろん、あなた、シェーラのですわ。どれを持たせようかセイラと相談していたのだけど、選びきれなくて困っているのよ」


「あの、お母様、私は森で生活するわけですから、ドレスは要らないのでは……」


「ああ、身分を隠すわけだし、もう少し質素で動きやすいものの方が良いのではないか?」


「アル、シェーラ、いくら身分を隠すとは言っても、一応は公爵家の流れを汲む者という設定ですし、少しくらいは必要でしょう? それに、もしかしたらボーイフレンドだって出来るかもしれないわ。そんな時に勝負服がなくてどうします!」


「ボ、ボ、ボ、ボーイフレンドだとっ!? そんなことが、しかし可能性は、いや、だ、だ、だだだめだ!!だめだぁぁぁ!!!」


(あ、お父様が壊れた……)


なぜか壁にむかって突進し頭を打ちつけようとしたアルダンの奇行は、タイミングを計ったかのように現れた白髪オールバック眼鏡のスーパー執務官カザスによって阻止され、そのまま執務室へと連行されて行った。それをよく似た微笑を浮かべて見届けたソフィアとセイラは、何事もなかったかのようにドレス選びを再開。もしやさっきのボーイフレンド発言は確信犯ですか?と言いかけたシェーラだったが、なぜだか聞いてはいけないような気がしたので、黙って着せ替え人形となることにしたのだった。


結局、ソフィアとセイラがなんとか二十着まで候補を絞り、シェーラがそこから更に半分の十着を選ぶ頃には、すっかり日も暮れ、魔力測定以上にくたくたになってベッドに倒れこんだ。


(ようやく選び終わったよー、疲れたぁぁ。明日からはもう少しゆっくりしよう……)


そんな思いも虚しく夕食後には髪飾りを選びが始まり、その後普段着、靴、鞄、家具と引越しまでの間連日ベッドに倒れこむことになるとは、考えもしないシェーラであった。

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