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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
幼少編
6/33

初めての魔力測定

日の落ちかけた夕方、サーラの花びらで一面桜色となった水面を分けるように、ゆっくりと舟が進んでゆく。着物に似た白い潔斎着を纏ったシェーラの前に、月明かりの滝が迫る。皇宮の背面を護るように切り立った崖の上から勢いよく落ちる一筋の滝は、皇宮から見るよりもずっと迫力があり、このまま進めば舟を呑み込んでしまいそうに思われた。


「聖なる水の扉の向こうへ、ルオープ!」


舟の先頭に立つ皇王アルダンがそう叫ぶと、滝は中ほどから分かれ、ちょうど細長い舟がギリギリ通れるくらいの水路が出現した。


「これが、月の大社……」


現れたのは、白く輝く巨大な鳥居。大きな注連縄の中心に取り付けられた丸い鏡は、満月を表しているのだろうか。両脇には、横に張り出したサーラの古木が御神木の如く鎮座しており、神聖な雰囲気を醸し出している。奥は洞窟になっていてよく見えないが、ひんやりとした空気が流れ出ていた。


(この潔斎着を見た時点で可能性は考えていたけど、本当に神社みたいなところだったとは)


クレイルに手を引かれて慎重に舟から降り、鳥居をくぐったところでアルダンが口を開いた。


「これから私とクレイルがこの大桶に聖なる水を汲む。シェーラも一緒に奥まで行って、まずは水を一口飲みなさい。その後ここまで戻って来て、桶に入り全身を清めるのだ。わかったね?」


「はい」


「もし、途中で苦しくなったり、どこかが痛くなったりしたら、すぐに言うんだよ。ここには魔術師団長も治癒師団長もいるのだからね」


「わかりました」


二人に続いて洞窟の中に入ると、思っていたよりも広い空間が広がっていた。三十メートル程先に、火鉱石を用いた灯篭らしきものが一対あるのが見える。あの辺りに聖なる水が湧いているのだろう。潔斎着一枚のシェーラは寒さに鳥肌が立っていたが、薄暗い洞窟の張り詰めた空気と儀式の緊張で気にならなかった。


灯篭のところまで来ると、アルダンから渡された小ぶりの銀製の杯で、こんこんと湧き出している泉の水を汲み、飲み干す。冷たい水が、喉から胃へと流れ込んでゆく。皇宮でも毎月十五日に同じ水を飲んでいるはずなのだが、このような状況だからか、水を飲んだだけで身体がすっきりしたように感じられる。


「うむ」


シェーラが水を飲み干したのを見届けて、アルダンは大桶を泉に沈め、クレイルと息を合わせて慎重に引き上げた。


「さて、戻るぞ」


大桶に三分の二ほど入れた聖なる水を零さないよう歩を進めながら、出口へと向かう。


(いよいよだ……)


洞窟前の広場には、シェーラ達が洞窟に入っていた間に魔法陣が書かれており、大桶はその上へ置かれた。


「では、これよりジンドラード皇国第二皇姫、シェーラ・ジン・メル・ライラの魔力測定の儀を始める。レイザ、準備はよいか?」


「はっ」


レイザ、と呼ばれた長身の男は魔術師団長だ。史上最年少、今年二十二になる若さではあるが優秀な魔術師で、アルダンの信頼も厚い。手にした黒檀の杖を魔法陣へと向け、詠唱を始める。


「聖なる水、大いなる月の恵みの宿りし水よ。この者シェーラ・ジン・メル・ライラは、銀の瞳を持つ月の子なり。今聖なる鏡となりて、この者の力を映し出せ。ミライズ!」


唱え終わると同時に、大桶の下の魔法陣が七色に輝き、中に湛えられた水にはゆらゆらと虹色の光が宿っていた。


「準備が整いました。シェーラ様、どうぞお入りください」


レイザの言葉で、皆の視線が一斉にシェーラへと向けられる。


(始まってしまった、公開水風呂。そんなに見ないでよ~!うー、深呼吸、深呼吸。大丈夫)


ひと呼吸置いて、足先からゆっくり入ってゆく。氷よりも冷たく感じられる水に体温を奪われ、歯がカチカチと鳴る。苦労して太ももから腰まで浸かり、後ろで一つに纏めていた髪の先が水に触れた時、それまで静かにゆらゆらと虹色に揺れていた水に小さな異変が起きた。


(水が、急に重たくなったような……。ゆるい水飴の中にいるみたい)


シェーラが身を沈めてゆくのにしたがって水は粘度を増したように重たくなっていったが、それはまだシェーラにしか感じられない変化だった。


(ようやく首まで浸かった。あとは、顔を水につけて……)


「これは……!」

「シェーラッ!!」


それはシェーラが水の中で目を開いた瞬間だった。銀色の光がシェーラの身体を包み、そこから一気に、水が強烈な光を放ちながらまばゆい銀色に変化していったのだ。


銀の光の眩しさに一瞬目を逸らした一同が次に目にしたのは、大桶の中で茫然と立ち尽くしている金髪の美しい姫君……ではなく、以前より濃い銀色の瞳を持つ、黒髪の姫君だった。

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