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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
幼少編
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晩餐

ジンドラード皇宮は、月の湖の中心に浮かぶ島に根をおろすサーラの巨木と一体化した宮殿だ。今は明日の月明祭で国中が一斉に空へと飛ばす月風船を枝にたくさんつけている。風船の中には火鉱石を加工した物が入っているため、仄かな明かりが灯ってライトアップされた状態となっていた。


そんな幻想的な夜、シェーラはやや緊張した面持ちで晩餐へと向かっていた。淡いブルーのシンプルなドレスに真っ直ぐ下ろした金色の髪がきらきらとかかる。何も言わないシェーラの後ろで揺れているドレスのリボンだけが、不安な気持ちを正直に表しているようだ。


(あの我慢強いセイラお姉様が半泣きになった特別な料理……。一体何が出てくるんだろう)


席に着くと、まずはシェーラ以外の料理が運ばれてきた。今夜のメインは鳥のオーブン焼らしい。


(いいなぁ、美味しそう……)


そんなシェーラの心の声が顔に出ていたのか、母ソフィアが声を掛けた。


「シェーラ、今日は初めての魔力測定を控えた特別な夜。これからいただくのは、あの月の魔術師様も好んだ特別なお料理なのよ。安心なさい」


「はい」


やや不安げに返事をしたシェーラに、ソフィアはにっこりと笑いかける。その微笑みを見てシェーラは覚悟を決め料理が運ばれてくるのを待つ。


そして、給仕係が運んできたのは……




(……え?)




どう見ても、納豆・豆腐・油揚げだった。


予想外の事態に固まっているシェーラを皆が心配そうに見る中、父アルダンが言った。


「それが我が国に伝わる特別な料理、ナート・トフィー・アラケーだ、シェーラ。初めての魔力測定の前に食べるのが習わしなのだから、絶対に残さず食べなくてはならないよ」


「え、あっはい、お父様」


シェーラの目の前に置かれたそれは、やはりどこをどう見ても納豆・豆腐・油揚げ。ご丁寧にも醤油らしきものがかかっており、平皿にはライスが盛り付けられている。


(お箸はない……のか。どうして納豆とお豆腐と油揚げらしきものがこの世界にあるのかはひとまず置いておくとして、とりあえず食べてみよう)


意を決して、まずは豆腐を一口。


(あ、普通の木綿豆腐だ。お醤油はちょっと甘めだけど美味しい。と、いうことは……)


フォークで納豆をかき混ぜることにはかなり違和感を感じたが、納豆も油揚げもごく普通の納豆と油揚げだった。


(ああ!久しぶり!久しぶりの日本の味!!)


約7年ぶりの味に感動したシェーラは、笑顔で完食。転生して初めておかわりを要求し、その場にいた皆を驚かせることになった。


そして、深夜。感動の再会(?)の興奮状態から一度冷静になったシェーラは、なかなか眠れずに夜を過ごしていた。


(ナート・トフィー・アラケーという名前が納豆・豆腐・油揚げからきているのは間違いない。とすると、偶然同じ料理が作られたんじゃなく、誰かが……日本の知識を持つ誰かが、開発したってことになる。月の大狐様のお供えに油揚げ、なんていうのもベタだしね。日本からの転生者は、私だけじゃなかったんだ……!)


元日本人の転生者が過去にもいた、その事実はシェーラを興奮させた。生まれ変わってからというもの、心の隅でずっと燻っていた「どうして記憶を持ったまま異世界に転生したのか」という疑問に、答えを出せそうな気がしてきたのだ。


(もしかしたら、私がこうして記憶を持ったまま生まれてきたことにも、何か意味があるのかもしれない。よく考えてみれば、服も料理も家具も、こっちはほとんど近代化が進んでいないとはいえ、前の世界と共通点が多い。西洋風ファンタジー世界!なんて単純に考えて浮かれてたけど、もしかしたら本当に影響を受けたのかも。それに、サーラ。これもたぶん、元は桜。日本人がつけた名前が訛って伝わったんだ。そして気になるのは、月の魔術師様。納豆・豆腐・油揚げが好物で、桜を愛した、黒髪の人……。きっと、私と同じ、元日本人。どうして黒髪のまま転生したのかはわからないけど、間違いない。この人について、もっとよく調べてみないと)


月の魔術師様に感じていた親近感は嘘じゃなかったのだと、シェーラは嬉しくなった。明日の魔力測定の憂鬱も今は忘れている。


翌朝、いつもは侍女が来る前に起き出しているシェーラが珍しくベッドの中にいたので、どこか具合でも悪いのかと治癒師が呼ばれるという事件も起きたが、そんな中でもシェーラの表情はどこか晴れ晴れとしていた。


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