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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
幼少編
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ティータイム

第四話


初めての魔力測定まで、あと一週間。学校は春休み期間ということで、最近は時々兄のクレイル、姉のセイラとお茶をしている。今日も甘い花の香りのする紅茶に似たお茶を飲みながら、マカロンにそっくりのお菓子を楽しんでいた。


「お兄様、もうすぐ春休みも終わりですね。お姉様も入学されますし。学校へ行かれるのは楽しみですか?」


「うーん、そうだね……学校は勉強になるから」


「皇家の一員として、必要なことを学べるのは楽しみですね」


月明祭は春休みの最終日にあたるので、ふとそんなことを訊いてみたシェーラだが、クレイルが「楽しい」ではなく「勉強になる」と言ったところをみると、あまり心踊るような毎日ではないのかもしれない。セイラの「皇家の一員として」という言葉も少々引っかかる。


「そうですか。学校では、どのようなことを学ぶのでしょうか?」


この場合の「どのようなこと」というのは、教科のことではない。先の兄と姉の発言の真意についての質問だ。


「ジンドラード皇立魔法学校が、世界で最も格式の高い学校の一つだということは知っているね? 我々は、月の大社から湧く聖なる水を飲み、月の狐の加護を受けている皇家の人間だ。将来的には、世界に対して、大きな月の力と正しい心を持っていることを常に示していかなくてはならない。学校は、社会の縮図。まずは世界中から集まる生徒たちに対して、それを示すのだよ。本格的に国政を担う前の練習だね」


「色々な国の方と仲良くして、ジンドラード皇国の将来に役立つようなことを学ぶということですよ、シェーラ」


クレイル説明では難しすぎると思ったのか、セイラが簡単な言葉で言い直す。


(皇立魔法学校には、世界中のお偉方の子ども達が集まってくる。将来各国を担う人材と今のうちに仲良くして、小国であるジンドラード皇国が舐められないように振舞っておくということか……うーん、子どものうちから政治の世界にどっぷりなのね。魔法学校と聞いてうきうきしていたけど、なかなかシビアな世界なのかも……)


「なるほど、わかりました。私も、早くお兄様とお姉様のお役に立てるようがんばります!」


「シェーラ、なんていい子なんだ……!!うぅっ」


さっきまではキリッとしてデキる王子様だったクレイルが一瞬で表情を崩し、涙ぐんでいる。そしてセイラは大丈夫かな、とみれば、こちらもハンカチを目にあてている。


(この兄妹、大丈夫なんだろうか…)


(さすが、私が火傷するのを心配して淹れたてのお茶を二人で交代しながら五分以上ふーふーしていただけある。年が離れているのもあるんだろうけど、過保護というかなんというか。本当に私には甘いんだよね)


いつものこととはいえ若干引いていたシェーラは、気を取り直して尋ねた。


「と、ところで、魔法学校というのは他にどのようなところがあるのですか?」


その質問に、紅茶を一口飲んで落ち着いたセイラが答える。


「まず、四大国にはそれぞれ国が作った学校、四大校がありますわね。ジンドラード皇立魔法学校もその一つですけれど、魔術の水準も格式もとても高い学校です。それにジンドラードは月の大狐さまがいらっしゃる国ですから、それもあって特別視されていますが、他の三校もそれぞれ良い学校だと聞いています。それ以外には、私立の魔法学校がいくつかあります。ほとんどは四大校の水準には及びませんが、わが国にあるサーラ魔法学園だけは、四大校に並ぶ水準にあるようです」


「サーラ魔法学園?」


サーラと言えば、桜によく似たジンドラードの国花だ。毎年、ちょうどこの時期から咲きはじめ、月明祭あたりで満開を迎える。この国の建物は、皇宮を含め皆サーラの木と半分同化したツリーハウスのようになっているので、時期になるとこの世のものとは思えないほど美しい光景が広がる。元日本人のシェーラとって、転生後もお花見ができるのは嬉しいことだった。


「サーラ魔法学園は、百五十年前に月の魔術師様が設立したと言われています。格式は高くありませんが、魔術水準は高いですし教育方針やカリキュラムも変わっていて面白いということで、貴族の三男以下や職人を目指す者が通うこともあるそうですよ」


「月の魔術師様って、あの伝説の魔術師様ですよね?」


「ええ。シェーラも絵本で読んだでしょう? 二百年程前、月の大狐様と契約したという、漆黒の髪色の魔術師様よ。世界をめぐって絵本にあるような活躍をされた後、ジンドラードへ戻って学園を設立し、教師として余生を過ごされたのですって。魔術師様はサーラの花がお好きだったそうで、学園の名にしたと言われているわ」


月の魔術師様。魔獣ではなく神様と契約し、強大な魔力で世界の様々な危機を救ったとされる伝説の魔術師。その髪は、この世界にはない黒髪だったと伝えられる。


(黒髪で桜に似たサーラの花を愛した魔術師様、か。なんだか親近感の湧く話だなぁ)


三つ目になるお菓子に手を延ばしながらシェーラがぼんやり考えていると、ようやく感動の渦から脱出したらしきクレイルが話を継いだ。


「そういえば、シェーラは来週魔力測定だね。セイラの時はまだ二歳だったから憶えていないだろうけど、初めての魔力測定の前の晩には、三つの特別な料理を食べるんだ。伝承によれば、月の魔術師様の好物だったそうだが、三つのうちでも特にアラケーは、月の大狐様への供物にもなっているし、楽しみにするといい。もっとも、中には凄まじいものもあって、セイラは半分泣きながら食べていたけれどね」


「まあお兄様!ひどいですわ!確かに……かなり独特の風味がありましたけれど……貴重な経験でしたわ」


「独特の風味ですか……楽しみにしておきます。とりあえず、泣かないようにがんばります」


「もう、シェーラまで!」


「ははは、これは頼もしい。がんばれよ、シェーラ」


兄妹三人で笑いあったところで、執務官のカザスが現れた。隣国ガロリアの大臣の到着を知らせに来たのだ。14歳のクレイルは最近父王アルダンに言われて、会談などの表舞台にも姿を見せるようになっている。


クレイル、セイラと別れて自室に戻ったシェーラは、魔力測定の前日に食べるという特別な料理について考えていた。


(そういえば私はうとうとしていてあまりよく憶えていないけど、確かにお姉様が珍しく顔をしかめながら涙目で何か食べていた気がする。ただでさえ次の日の儀式が憂鬱なのに、また不安事項が……はぁ)


得体のしれない動物や昆虫だったらどうしよう、と前世で見たキワモノ料理番組を思い出して恐怖するシェーラだった。


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