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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
中等部編
25/33

マラソン大会1

いよいよマラソン大会です。前話に続いて短めですが、どうぞ。

「ではこれより、第149回中等部一年マラソン大会開会式を始めます。まず最初に、学園長よりお言葉を賜ります」



リージンの声が、初夏の風に乗ってグラウンドに響く。晴天の今日はやや汗ばむ程度の爽やかな陽気で、マラソン大会にはぴったりだ。

相変わらずザ・魔法使いな見た目のハイス学園長は拡声魔法具、つまりマイクの前に立つと、やる気十分な生徒たちを満足げに見渡してから口を開いた。



「諸君、今日はいよいよマラソン大会じゃ。入学してからまだ日は浅いが、それでも、これまでに学んできたことは諸君らを大きく成長させたはずじゃ。今日はその成果を存分に発揮するとよい。上位10名には褒美も用意してある。怪我に気をつけて、完走、入賞を目指して力を尽くすことじゃ。それでは、今日の挨拶は短めにと釘をさされておるでの、さっさと終わらせることにしよう。ゴールで待っておるぞ!」



予想外にあっさりと切り上げられた学園長のお話に、生徒たちは拍手喝采。スタート前から体力と精神力を削られずに済んだ幸運に感謝した。

その後は体育教師のゴードンからマラソン大会についての詳しい説明があり、注意事項が改めて確認された。


マラソンのコースは約7キロ。

まず森に入る前にグラウンドを1キロ走り(森に入ると道幅が少し狭くなるため、その手間である程度ばらけさせるのが目的らしい)、魔物が放たれ障害物が置かれた森を6キロ走る。そしてまたこのグラウンドに戻り、最後の100mを走るのだ。このコースを制限時間である3時間以内にクリアするのが目標であり、上位入賞を目指す者は1時間以内のゴールを目指す。

学園側から生徒達に配られるのは、非常時に救出を求めるためのブザーと時計機能のついたペンダント、飲み物とちょっとしたおやつ、マラソン大会のしおり、そしてそれらを入れる鞄。それに加えて、希望者には体育の授業でも使用する練習用の剣が与えられ、それ以外の武器については、事前に申請して認められた物のみ使用可能となっている。

因みにシェーラの練習用薙刀は、走るには長くて邪魔になるので封印してきた。このマラソン大会は、武器なし召喚獣なしのないない尽くしで挑むつもりだ。



(あーあ、半分諦めてはいたけど、やっぱり召喚、間に合わなかったな……)



準備体操を終え、周囲が魔獣の召喚を次々と行う中、シェーラは少し惨めな気持ちになりつつ早々に召喚術用の杖を返却して待機していた。

きっとこうなるだろうと思っていたとは言え、実際に一人だけパートナーがいないのは寂しいし悔しい。前の方には、大蛇ラミアンヌといちゃいちゃしているミレーユや、犬型魔獣を召喚したらしいノア、雪ヒョウに似た優美な魔獣を連れたユーフィの姿も見える。

他クラスの生徒からチラチラ見られているのもわかっていたが、なるべくなんでもないような顔を作って、静かにスタートの時間を待つしか、出来ることはなかった。



「はい、シェーラはこの子ね!」



シェーラが心の中で溜息をついた時、後ろからココが背中に何かを押し付けてきた。

振り返って見れば、頭に大きな双葉の生えた、ココが召喚したにしては可愛らしい植物型の魔獣がココに抱かれてこちらを見つめている。



「見て!全部で七色七匹、可愛いでしょ~!シェーラのお供にはこの緑のコをつけるから、私のこと置いて行かないでよ~?」


「ふきゅー!」



召喚主から護衛を命じられてやる気を出したらしい緑の生き物は、頭の双葉をひょこひょこと元気に動かしている。



「ココ……。うん、ココはちゃんと私が守ってあげる!一緒にがんばろう!」



冗談めかしてえへへと笑ったココの優しさに涙が出そうになりながら、シェーラは双葉魔獣を抱きしめた。






「位置について、よーい……はじめ!」



ゴードンの合図に合わせて笛の音が響き、クラスごとに待機していた150人の生徒達が走り出す。先はまだまだ長いので全力疾走では当然ないが、序盤の先頭集団となりそうな15人程はそれでもかなりのスピードだ。まずは地面も整備されて魔物も罠もない序盤に差をつけておこうという作戦だろう。もちろん、事前の宣言通りミレーユとノアもその中にいる。



「ずいぶん楽に走ってるな。一番前には出ないのか?」



ポニーテールにした長く美しい紫の髪を軽やかに揺らして走るミレーユに、ノアが真紅の瞳を向けた。



「ははは、森に入って何が出るかわからないからね。まずはここで様子見さ。ノアだって、同じ考えだろう?」



わざと楽に走っているのは君もだろう、とミレーユはそのアメジストのような瞳で返す。



「その手には乗らない、か。まあ、俺も同じだ」



そう簡単に引っかかってはくれないライバルに、鎌をかけたノアは嬉しそうだ。



「ふふ、お互いがんばろうじゃないか」


「ああ」



横並びで先頭集団の中ほどにつけた二人は、いよいよ迫ってきた森を前に不敵に笑い合った。






その頃、後方では



「ふわぁ~、既に先頭集団は遥か彼方だねぇ」



徒歩よりやや速いくらいのペースで走りながら、何故か額に鉢巻をしたココが感心して呟いた。



「だね。まあ、私達はマイペースに行きましょ」



一度やってみたかった!という訳でツインテールに結んだシェーラが、隣の異分子を無視してそれに応える。



「うん。……それで、なんでここにいるの?」



ココは隣の異分子を無視できなかったようだ。

何故か二人の間を引き裂くように存在している美少年に、抗議の意味を込めて声を掛けた。



「え?なんでってひどいですねココさん。僕、走るの苦手なんですよ」



薄水色のさらさらヘアーを日の光に煌めかせたノアが、天使の微笑みを浮かべて言った。


(いやそれは知ってるけど……だからってわざわざココと私の間に来なくても。さっきから後ろの視線が痛いよ)



ノアまるで気にしていないかのように振舞っているが、後ろを走る他クラスの女子生徒達はシェーラとココに挟まれているのを面白くなさそうに見つつも、これを機会にお近づきになろうと虎視眈々と狙っている様子だ。

その辺りも含めて、どういうつもりだとシェーラは軽く睨んでみせたのだが、



「やだなぁ、シェーラまでそんな顔しないでくださいよ。僕が後ろの猛獣達の餌食になってもいいと言うんですか?」



とユーフィはさらりと言ってのけた。シェーラは天使の思わぬ暴言に面食らい、



(これは天使じゃなくて悪魔だわ……)



と内心訂正を加えた。



「ユーフィ、あなた意外と毒舌なのね……。で、私達がその猛獣達に襲われたらどうするつもり?」


「お二人は大丈夫ですよ。ほら、前を走る騎士さんたちがいるでしょう?」



確かにユーフィの言う通り、姫を護衛する騎士よろしく、前を走る男子生徒達はシェーラとココの方を時々振り返り、笑みを投げかけてきていた。彼らもまた、今はユーフィがいるため近づけていないが、普段接点のない二人とどうにかなろうと目論む他クラスの男子生徒達である。


その男子生徒達の方を一瞬見たシェーラは、



「あー、うん、そうね、ここは共闘ということで」



と、苦笑しつつもユーフィに乗っかることにしたのだった。


その後、ココはユーフィの召喚した雪豹に似た魔獣、スノーレオンのもふもふ具合の虜になり、すっかりユーフィをマラソン仲間と認めて打ち解けていた。スノーレオンのしっぽを追いかけて双葉魔獣と共に一生懸命走るココに、シェーラ半分癒され半分呆れながら、森への一歩を踏み出したのだった。

ユーフィは他にも色々と思惑がありそうですね。

今後の予定は活動報告にて~。

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