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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
中等部編
24/33

秘密の特訓

マラソン大会に入る前に、一話入れました。短めですが、どうぞー。

「うーん、どうして上手くいかないのかな~」



早朝。いつもであれば薙刀の練習をしている時刻に、シェーラは一人頭を悩ませていた。



(魔術の訓練を始めたのはいいけど、魔法って、ちちんぷいぷいで何とかなるものじゃないのね。今更ながら)



召喚術が使えないまま臨むことになるであろうマラソン大会に向け、せめて魔術のスキルアップをしておこうと数日前から一人で訓練を開始したものの、なかなか成長の兆しが見えないのだ。

魔術の自主訓練は本来、教師に届け出て監督員のいる場所で行わなければならないのだが、シェーラは自身の抱える特殊事情から、こうして秘密特訓を行っている。



(さすがに月属性なだけあって……なのかは知らないけど、四大属性の操作は思い通り、魔力量も十分。ただ、問題は火力だよねー。なんかこう、ドーンと威力のある魔法を使えるようにならないかしら)


この世界の魔術は、転生したシェーラが当初に思い描いていたよりもずっと制約の多いものだった。

まず、火・水・風魔法の場合、「始点」と呼ばれる魔法の発生点は術者の指先であり、また、「始点」を移動させた「起点」、つまり魔術を展開させる位置は、自身を中心に半径1メートル以内でないと消滅してしまう。そしてその「起点」から、各魔法の級に応じた有効範囲内で魔法の影響が及ぶのだ。


わかりやすくいうと、火属性の初級魔法「イグニス」を唱えて指先に小さな火球を発生させ、それを自分の周り半径1メートル以内の、例えば自分の頭上に移動させて、好きなタイミングで初級魔法の有効範囲である3メートル先の敵に向けて放つ、ということは可能だ。しかし、最初から指先以外の場所に火球を発生させたり、それを1メートル以上先に漂わせてそこから10メートル先の敵に放つ、などということは不可能なのである。

土属性の魔法だけは、「始点」が足元の地面となっているが、基本的に魔術の「始点」が指先、「起点」が自分の身の回りに限定されるため、遠くに漂わせておく待ち伏せ的な使い方も出来ないし、級が上がらなければ有効範囲も狭いままで、本格的な遠距離攻撃に使用できるのは超級以上だ。


シェーラの場合、魔力量は多いので魔術の持続時間も長いし連続使用も苦ではないが、全属性で低級までしか扱えないため魔法の有効範囲は最大7メートルであり、詠唱のことを考えると素早い動きの魔物との戦いには不安があった。


(最初の実習の時、ユーフィが『全属性を使えるなら工夫次第で強力な魔法も使えそう』って言ってくれたけど……詠唱があるから一度に複数の魔法も使えないし、やっぱり根本的なところから考え直さないと駄目かな)



月属性なら普通は無理でも何とかなるんじゃない?という期待もないではなかったが、よくある無詠唱も複数属性魔法同時発動も、今のところは成功していない。やはりただ強くイメージするというだけでは難しいようだ。



(無詠唱も複数属性同時発動も無理となると……うーん、まさかの新属性?)



行き詰まったシェーラは近くのちょうど良く曲がりくねった木に腰をおろし、長い白金髪を弄びながら考え始めた。

月属性は火・土・水・風の四大属性の上位に位置するもので万物の元らしいが、自然の現象はその四つだけではない。ゲームや漫画などの設定でありがちな属性では他に氷・雷・時・光・闇などが思いつく。


(あ、でも氷は確か水属性魔法の超級以上にあったような。時とか光とか闇は正直実際どんなものだかイメージ出来ないし、やるとしたら雷かな)


とは言え、ここは異世界。こちらにも雷自体は存在するが、発生の仕組みは同じではないだろうことは理解できた。元の世界で言うところの「物理法則」も魔法を使えばある程度捻じ曲げられるし、魔法科学らしき学問も未発達。そもそも、月の力が全てを動かしていると言われるこの世界で、元いた世界の雷を科学的に再現するのは不可能だろう。


(ここは駄目で元々と思って、雷が発生するイメージは頭に描きつつ、四大属性式に詠唱してみようか……と言っても、『雷よ顕現せよ』の後が続かないな~。いっそ日本語でいっちゃう?雷、だと語呂が悪いから鳴神、雷はイカヅチ、だけど神様の名前をもじって御雷神でミカヅチとか)


真剣にオリジナル魔法の詠唱を考える、という中二病的恥ずかしさは脇におき、ひとまず日本語で思いついたのを呟いてみることにしたシェーラ。辺りに誰もいないことを再度確認してから、気を取り直して指先を前へと向けた。



<鳴神来たれ、御雷神(ミカヅチ)!>



シェーラがミカヅチ、と口にした瞬間、


指先に紫の光の球が現れ、そこから稲光が走った。


いつぞやの月魔法の暴発を思わせるそれは、シェーラの白く細い指先から現れたとは考えられない力強さでバリバリと音をたて、紫の火花を散らしながらもほぼ真っ直ぐに進んでいった。



「で、出来ちゃった……」



しばらく指先を前に出したポーズのまま固まっていたシェーラは、思わず呟いた。

稲妻が走ったのは、15メートルほどだろうか。魔力の込め具合は初級魔法程度にしたつもりだったが、有効範囲は5倍。威力もありそうだし、どう考えても初級魔法の程度を超えている。



(雷属性には四大属性の法則は当てはまらないってこと?それとも、何か他の原因が……?)



早鐘を打ったように鳴る胸を押さえて再び木に腰掛けたシェーラは、なるべく冷静になるよう深呼吸をして考える。


(四大属性の魔法法則は当てはまらない、という可能性もあるし適性もわからないけど、考えて見れば雷だって、月の力から見れば末端。同じ魔力量で四大属性以上の威力が出た理由がわからないわ。もし、他の原因があるとしたら……四大属性と違うのは……詠唱??まさかオリジナルの日本語詠唱のせいだなんてありえな……くもないのかも。やってみる価値はあるよね)



<炎よ来たれ、迦具土(カグツチ)!>



結果は、雷属性と同様であった。


カグツチ、と唱えた瞬間に現れた火球は初級魔法と同程度の大きさだが、有効範囲も威力も約5倍。

他の属性、土の八千矛(ヤチホコ)、水の罔象(ミズハ)、風の級長戸部(シナトベ)も成功した。

雷のミカヅチに合わせて神様の名前からとってみたが、道場と図書館を往復するような前世で一時期患っていた中二病がこんなところで役に立つとは、とましろ改めシェーラの胸中は複雑であった。しかし念願の高威力魔法を手に入れたことには変わりない。これで適性がなくとも、低級までの魔力を込めれば上級以上の威力が得られるだろう。



(この世界の魔法って、日本語と相性いいのかな?詠唱でこんなに違うなんて、これが言霊の力ってやつなんだろうか……。まあ、マラソン大会で唱えるには怪しすぎるし普段は使えそうにないけど、いざという時はちょっと安心よね。とりあえずよかった~)



思いがけない大きな収穫にほっとしたシェーラは、時計の針が思ったよりも進んでいたことに驚き慌てて寮への道を引き返す。

明日からはしばらく、ランニングと薙刀の練習に加えて新しく手に入れた日本語式の魔術の調整をしなくては……と今から早起きが楽しみなシェーラは、うきうきと朝日の中を駆けていった。

神様の名前は語呂重視で選びました。読書と薙刀が趣味、という前世の白崎ましろの特徴をこれからもっと活かしていけたらいいなと思います。

あと、以前も出てきた魔法の等級は、初級・低級・中級・上級・超級・星級・月級の七つです。


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