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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
中等部編
21/33

調理実習(前)

少し長くなったので二つに分けることにしました。展開が遅くてすみません……後半ではお話も少し動き出す予定です。今日中に投稿しますので読んでいただけると嬉しいです。

「いよいよ決戦の時……!!」


「私このためにこの前の週末実家に帰って練習してきた!」


「私だって負けないんだから!」


体育終わりの女子更衣室。相変わらず大活躍のノアと、そこに存在しているだけで目と心の保養になるユーフィの二人にキャーキャーした女子生徒達は、闘志を漲らせていた。というのも、今日は昼休みと三限の時間を使った初めての調理実習が行われるのだ。要は、二人に作った料理を食べてもらって料理上手をアピールしようと目論んでいるのである。ちなみに、みんなの貴公子ミレーユには既に一口ずつあげる約束を取り付けてある。


「みんなすごいね~、ココは大丈夫なの?」


ココとミレーユにしかあげる予定のないシェーラは、お約束、とばかりにココをいじり始める。


「大丈夫って?」


「食べてもらうには競争率高いよ?(まあ、向こうから寄って来そうではあるけど)」


「だ、誰に!私はシェーラとミレーユにあげるんだもーん」


脱いだ体操着を取り落として明らかに動揺したそぶりを見せつつ、ココが言葉を返す。


(うんうん、毎度のことながらいいリアクション。可愛い)


「そういうば、実家だと結構ココがご飯作ったりしてるって言ってたよね」


ココの反応に満足したシェーラは、それ以上はからかわず、何事もなかったかのように応える。


「うん!料理の腕には結構自信あるんだぁ。二人とも期待してて!」


ふふん、と得意げにするココに、ミレーユがほぅ、と笑顔を見せる。


「ココは料理が得意なのか、それは楽しみだな。私も、包丁さばきは素晴らしいといつも褒められるんだ」


「へ~そうなんだぁ。ミレーユのも楽しみだね、シェーラ!」


「うん、楽しみにしてる~」


(包丁さばきは、というのがちょっと気になるところではあるけど……。ミレーユの場合ははどういう方向に転ぶかわからないからなぁ)


ミレーユの言い方に一抹の不安を感じるシェーラ。ミレーユは基本的には何でもそつなくこなす常識人なのだが、時々斜め上の事態を引き起こすのだ。




二十分後、調理室に集合して紫の髪をきちっと結い上げた家庭科担当のソラノ先生から説明を受けたエプロンと三角巾姿の生徒達は、今回のメニュー「ハンバーグとコーンポタージュ」の調理に取り掛かかっていた。

シェーラが白崎ましろだった前世では、グループを作って調理を行ったものであったが、ここでは調理台は一人に一つ、という方針らしい。また、自由度も高く、最低限必要なものは用意されるが、量を増やしたりアレンジしたりしたい場合は、食中毒防止魔道具のチェックさえ通れば自分で食材を用意して構わないのである。講師のソラノとその助手三名も、危険さえなければ求められない限り放置。つまり、個人の技量とセンスが大いに試されることとなる。


「ちょっと大きすぎ……たか?まあいいや」


付け合わせの野菜を豪快なサイズに切っているノア。


「ふんふふ~ん♪」


鼻歌を歌いながら手際よく進めるココ。


「ふぅ、こんなものか」


付け合わせの野菜を見事な花の形にカットしていくミレーユ。


「……」


様々な食材を並べ、静かに手早く調理するユーフィ。


ちなみにシェーラはそこそこ、である。


そしてしばらくの後、仕上げにとりかかる生徒が多い中、ここまで野菜に芸術的な花の細工を施していた他は特に変わったところのなかったミレーユの瞳の色が変わった。


「ふむ、やはりこのままでは物足りないないな。ちょっとアレンジしてみよう」


結果として、シェーラの不安は現実のものとなった。ミレーユには最後に余計な「アレンジ」を加える癖があり、せっかく美味しく出来上がっていた今回のハンバーグとコーンポタージュも犠牲となったのである。

実家から持ってきたという凶器(スパイス)を大量投入したところに、毒々しい色をした1メートル以上はある謎野菜を華麗な包丁さばきで巨大な龍の形にカットしてゆく。盛り付けの器から大きくはみ出したその龍は今にも天に昇るかのようで、完全にこちらがメインになってしまっていた。

自分の作業に集中していた他の生徒達は呆気にとられ、シェーラとココは、お互いに味見し合う約束をしたことを後悔し始めていた。


「どうですか、先生?」


驚愕の眼差しで見られていたのを勘違いしたのだろう、ソラノにドヤ顔でコメントを求めるミレーユ。生徒の個性と自主性、自己責任を大切にする、という学園の教育方針に合わせ特に口を出さなかったソラノは大いに困り、なんとか「包丁さばきは見事ですね」と引きつった笑顔でコメントした。よく言われます、とやはり爽やかなドヤ顔で言うミレーユに、包丁さばき「は」の意味は伝わっていないようだ。


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