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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
中等部編
20/33

治癒学

なんだかんだで体調を崩したままズルズルとお休みが長くなってしまいました。まだ万全とは言えませんが、のんびり確実に更新していきたいと思います。それではちょっと短めですが、最新話をどうぞ。

元の世界の桜より長く咲くサーラの花もみな瑞々しい葉にかわり、爽やかな風が吹き抜ける頃。

サーラ魔法学園の実験室では、白衣の生徒達が薬の調合に苦心していた。


「次、七の葉とって!」


「はい!」


執刀医と看護師のようなやりとりをしているのは、ココとシェーラ。普段はどこかほわわんとしているココだが、さすがは薬屋の娘、治癒学の時間だけは別人のようにテキパキとしていた。


治癒魔法は、誰にでも使えるわけではなく適性があるのはこのクラスでも四人だけだが、薬草と治癒魔法の合わせ技である治癒術は、たとえ治癒魔法が使えなくとも学んでおくべきものだ。いざという時、治癒魔法が使える者をサポートしたり、場合によっては薬草だけでその場をしのぐ、その為の知識と技術を身につけるのである。もちろん、治癒魔法を使える者は、実験や実習の際には中心となって動く。小さい頃から薬屋の看板娘として知識を身につけ、一昨年からは本格的に手伝いを任されてきたココは、技術レベルも頭一つ抜けており、繊細な作業をなんなくこなしている。



「……っ!くそっ!」


一方、隣のユーフィのグループでは、ノアが指先をプルプルさせながらランコンの根の粉末の計量作業を行っていた。先ほどから、あと一歩というところでこぼしたり、多く入れすぎたりしてしまいイライラを募らせているようだ。


(手、プルプルしてるけど……大丈夫かなぁ)


一番の集中力を必要とする難しい計量を終え、ちょっと休憩していたシェーラは、額に汗を滲ませているノアを見、そしてノアの隣で美しい眉を少し困ったようにさせて見守っていたユーフィと目が合うと、黙って頷いてみせた。


「……代わりましょうか?」


「いや、うーん……頼む」


これ以上グループの作業を遅らせるわけにはいかないと判断したのだろう。見かねて声をかけたユーフィに、ノアは悔しそうに小さな匙を渡した。交代したユーフィは、ひと呼吸おいて集中すると、ココほどではないもののスムーズに計量を終えた。


十五分後、なんとか全てのグループが薬の調合を終えると、教壇の上の治癒学教師、ナタリアは、その優しげな淡い茶色の髪と瞳に似合った笑みをふわりと浮かべ、満足そうに頷いた。


「調合は無事に出来たようですね。では最後に、簡単な治癒魔法をかけてみましょう。今回調合した薬は飲み薬ですので、ここにあるコップを一人一つ取って中の水に混ぜて順番に飲んでください。治癒魔法が使える四人は、飲んでから三分以内に詠唱を終えるようにしてくださいね。それでは、始めてください」


治癒魔法、とは言っても今回は簡単なもので、どこかを治療するというよりは血行と魔力のめぐりをよくし、身体の疲れをとるものだ。慣れてきたとは言え、入学してまだ一ヶ月と少ししか経っていない。生徒達の中には溜まった疲れが体調に出始めている者もいて、今日の実習はそうした生徒達へのフォローも兼ねている。


「我が力をもってこれを癒せ。ヒール・サーナ・レビウム!」


自信を持って唱えたココを皮切りに、魔法の使える他の三人も次々と治癒魔法をかけてゆく。


治癒魔法は相手の身体に触れた状態で使用した方が効果が高いため、身体全体にかける場合は相手の両手を握ってかけるのが普通だ。ココに手を握られた男子生徒や、ユーフィに握られた女子生徒は落ち着かない様子でおろおろとしたり、顔を真っ赤にして俯いたりしている。しかし、詠唱が終わるとそうした生徒もポカポカとして急に軽くなった身体の変化に驚き、目を丸くして感嘆の声をあげた。計量が上手くいかず内心落ち込んでいたノアにも、笑顔がみえる。


「おおお、筋肉痛が治った!」


「なんだか身体が軽ーい!」


「すげー!」


病気や怪我などで治癒魔法による治療を受けたことがあっても、自分たちで調合した薬を使ってとなると喜びや驚きも大きい。ココにとっても、薬草の調合や治癒魔法自体は珍しいものではないとはいえ、初めて実際に治癒魔法を使って成功したので嬉しそうだ。最後に自分自身にかけた後、小さな手で効果を確かめるかのようにペタペタと自分の身体を触っている。まあいくら治癒魔法をかけたところで、身長も胸の大きさも変わらないのだが。


「みなさん、上手くいったようですね。今回は当然のことながら命にかかわるものではありませんが、実際に治癒術が求められる現場ではそうとも限りません。治癒学を学ぶことは、自分自身を守り、大切な人を救う手立てを身につけることです。来週からはまたしばらく座学にもどりますが、しっかり取り組んでくださいね。では、後片付けが終わった班から解散にします」


「「「はーい」」」


疲労回復したおかげでテキパキと後片付けを済ませ笑顔で実習室を後にする生徒達を、ナタリアもまた、自分がこの学園に通っていた当時のことやこれまでの教師生活で担当した生徒達のことを思い出して、毎年のことながら一年生の最初の実習は感慨深い、とニコニコしながら見送っていた。




「普段は可愛らしくおっとりした感じだが、治癒学の時間は別人のようだな、ココは」


「えへへー」


教室を出たシェーラとココに、別の班に居たミレーユが声をかけ、三人でお喋りしながら廊下を歩く。先ほどまでのキリッとしたココはどこへやら、すっかりいつも通りだ。


「そうね~、治癒学の時間、普段のおっちょこちょいなココはどこに行っちゃうのかな」


「えーシェーラひどいよぉ~」


ぷくっとふくれっ面をしてみせたココの頭をシェーラがさらにポンポンとしてからかう。


「そうだぞシェーラ、本当のことは言わなくていい」


「ちょっと!ミレーユまでっ」


実習の緊張から解放されたからだろうか、(大真面目におかしなことを言うことはあっても)普段あまり軽口を叩かないミレーユまでもが悪ノリしてきて、ココはあわあわとしている。

そんなこんなでふざけて笑い合いながら、にぎやかに廊下をゆく三人。女三人寄れば姦し。


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