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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
中等部編
18/33

体育

予告より遅くなってしまいましたが、投下です。

教室に戻ったシェーラは質問攻めに合ったが、魔力が暴発しただけで特別なことはない、とリージンが繰り返し説明したことで、翌日には平穏が戻っていた。


学園の時間割は独特だ。朝のホームルーム後の一限と二限がそれぞれ一時間二十分で、魔法講義・魔法実習の日が週三日、召喚学・治癒学の日が週二日で交互にある。そして、お昼休みを挟んで、三限と四限が一時間ずつ。その後、帰りのホームルームとなる。三限と四限は、世界学・世界語・数学・体育・家庭科のうちのいずれかが入ることになるが、一番多いのは体育で、週三日ある。


授業開始二日目の今日は、四限目に初めての体育が入っており、体操着に着替えたシェーラ達は入学式典を行った中等部体育館に集合していた。


「授業を担当するゴードン・ガル・ドランだ!これからしっかり鍛えていくから、覚悟するように!」


赤髪赤眼の大男、ゴードンが、仁王立ちで言った。名前も体格もゴツい、絵に描いたような怖い体育教師である。


(これは、スパルタっぽいな~)


シェーラは心の中でため息を吐いたが、毎朝の稽古でそれなりの体力はついているし、一応前世では道場通いをしていた身だ。厳しくしごかれるのにはなれている。その為、準備体操を終えた後、広い体育館を七周するよう命じられても、特に苦痛とは思わず黙って走り出した。


しかし、


「こらッ!まだ二周目だぞ!!ちんたらしとらんで走れッ!!!」


「もうムリ、死んじゃう〜!!」


男子はともかく、シェーラのような女子はごく一部だ。ココは一周を走り終えた時点で既に涙目、他の女子達もペースがガクッと落ちている。

そしてシェーラが五周目に入った頃には、男子の半数、女子もほとんどの生徒が息も絶え絶え、ほぼ歩くのと変わらない調子でなんとか走っていた。


「シェーラは、意外と体力があるのだな」


いい笑顔で話しかけてきたのは、ミレーユ。


「実は体力づくりと思って、毎朝走ったりとか、色々してるの。ミレーユは思った通りというか、さすがだね」


「ははは。そうかな?私もね、毎晩鍛えているんだ。考古学者になったら遺跡で何があるかわからないからね」


そう言って、表情を引き締めるミレーユ。

シェーラの頭の中では、おなじみの、チャーチャラッチャー、チャーチャチャー♪の音楽とともに、「ミレーユ・ジョーンズ クリスタルスカルの……」という文字が踊った。


(うん、似合いそう)


そうしてシェーラとミレーユがゴードンに睨まれないよう誤魔化しつつ時々言葉を交わして走っていると、後ろからすごい勢いでノアが走ってきた。


「ノア、何周目?」


「これでラスト」


追い抜かれざまに聞くと、汗一つかいていないノアがさらりと答える。


「すごいな、ノアは」


「さすが、黒騎士を目指してるだけあるね」


風のように走るノアの背中を、シェーラ達は目を丸くして見送った。見れば、ぜいぜいしながら走っている他の生徒たちも驚愕の表情だ。


なんとか最後の一人、ココがゴールして全員揃ったたところで、ゴードンが声を張り上げた。


「遅すぎるッ!!まあ初回だから仕方がないが、もっとタイムを縮めてもらわないと授業にならんぞ!体力は全ての基本だ!しばらくは七周だが、来月からは毎回、準備体操の後には十周してもらうからな、しっかり走るように!!では、必要な者は水分を摂って、三分後に再集合!」


「し、しぬ……」


「もうダメ」


「み、水~」


皆、これ以上は動けないと思いながらも、持参していた水筒を取りに重い体を引きずってゆく。シェーラとミレーユは皆が走り終えるまでに回復し、ノアは暇だからと三周追加して走っていたほどで、全く平気そうだ。


「ココ、大丈夫?」


未だ動けないでいるココのために水筒とタオルを持ってきたシェーラが、心配そうに声をかけた。


「だいじょうぶ、じゃない……」


ぺたんと座り込んだまま荒い呼吸を繰り返すココの顔は真っ赤になっており、汗が滝のように流れている。その様子をチラチラと盗み見る男子達の目には何か不純な色が浮かんでいたが、今のココにはそんなことを感知する余裕はなく、代わりに、シェーラが氷の微笑を浮かべて男子達に返しておいた。


そして、もう一人。


「ユーフィ君、大丈夫ー??」


「ドリンク、よかったら私の分も飲んで!」


女子達に囲まれる中、顔を赤くして座り込んでいるのはユーフィ。いつもは女子からのアプローチをスマートにかわすユーフィだが、今はただぐったりするばかりで、されるがままだ。


(あらら、あっちも大変そう……)


ユーフィの方を見てシェーラが心の中で呟くと、視線に気がついたのか、ユーフィが顔を上げ、恥ずかしそうに力なく微笑んだ。

がんばって、とシェーラは微笑み返して軽く手を振り、体育館の壁に掛けてある時計へと目を移す。そろそろ三分経つ頃だ。


「時間だ!!」


ゴードンの野太い声が響き渡ると、生徒たちは慌てて集合する。


「よし!ではこれから、球術の授業に入る!まず今週は、籠球だ!」


球術、籠球と聞いて、シェーラは最初はなんのことかわからなかったが、ゴードンが持ってきたボールと、リモコン操作で体育館に出現したコートラインとゴールリングを見て、どうやらバスケットボールに限りなく近いスポーツのようだと理解した。隣にいたミレーユにそれとなく話を振ってみると、他にもサッカーやバレーなどに似た競技があるらしい。


ルール説明が終わり、少しボールを触って練習をした後、男女別に三人ずつ、計十チームを作って、早速試合が始まった。


女子チームは、予想通り、背も高く運動神経も良いミレーユが大活躍。試合が終わると、タオルを差し出す女子が殺到した。

一方男子チームでは、ノアが圧倒的なパフォーマンスを見せていた。


試合始めのジャンプボールでボールを奪われてもあっという間に取り返し、巧みなドリブルとパス回しで一気に攻め、低い身長をものともしない跳躍力とコントロールでシュート。


「もう一人ででシュート十本目か。頭一つどころか、五つくらい抜けているな」


ミレーユが感心して感想を呟く。


「一気に競争率高くなっちゃったね〜、ココ?」


「き、競争率って何の!」


「だってほら、すごいよー歓声」


確かに、ノアのプレーを見て盛り上がっているのは男子だけでなく、試合のない女子達も黄色い声を上げていた。

ノアは時々ココにちょっかいを出すことはあってもほとんどを男子とふざけ合って過ごしており、また硬派で一見近付きにくい外見であったことあって、これまで女子達はユーフィしか目に入っていなかったのだが、この体育の時間でノアへの評価は変わったようだ。どの世界でも、運動の出来る男子はモテる、のである。


「これは、新たにノア派が誕生したな」


ミレーユも、ココをちらりと見てからかう。


「べ、別に私には関係ないもん!」


ココは慌てて首を振るが、そこに試合を終えたノアが近付いて来ていたのには気がつかなかった。


「おい、何が関係ないんだ? ココ、タオル」


「ふわぁっ!! ノ、ノア!いつからそこに居たの!?」


思わず顔を真っ赤にするココ。ノアはその反応に不思議そうな顔をしながら、淡々と言った。


「今からだ。それより、タオル。そっちに置いてあるの取ってくれないか」


「う、うん。はい」


何となく気まずそうにしながら、タオルを渡すココ。

シェーラとミレーユ顔は見合わせてクスリとした。


(これはそのうち、おい、だけで全部通じる夫婦みたいになりそうね)


自分でタオルを取りに行かずに、近くにいたココに取ってもらったノアと、それに気付かず素直に手渡すココを、シェーラは微笑ましく見ていた。

ユーフィは運動得意じゃないけど、汗をかいて息を切らしているだけで女子が寄ってくる。


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