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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
中等部編
17/33

暴発?

一瞬の強い光と爆風に悲鳴が上がり、巻き上げられた砂ぼこりに皆が顔を覆う。


「な、なにこれ……」


ようやく視界が晴れてみると、シェーラの指先から放たれた白銀の光は、前方十数メートルを放射状に抉っていた。


「み、みなさん落ち着いて!!大丈夫ですか!?シェーラ」


リージンが、まずはシェーラの無事を確かめる。


「あ、はい、あの……こんなことになるなんて……すみません。一体何がどうなっているのか……」


自分が引き起こした事態にまだ頭が追いつかず、シェーラは怯えて小さく震えていた。


「大丈夫、大丈夫です、シェーラ。まずは落ち着きましょう。念のため、身体に異常がないか診てもらった方がいいですね。一緒に保健室へ行きましょう」


小さくなって青くなっているシェーラの肩に優しく手を置き、ゆっくりと諭すようにリージンが言った。


「ではみなさん、私は念のためシェーラを保健室に連れて行きます。みなさんも落ち着いて、静かに教室へ戻り、待機していてください。くれぐれも騒がないこと。いいですね」


一年二組の教室は、本館の北東口から正面の階段を上ってすぐだ。このまま事件の現場に残してゆくよりも、教室に戻らせた方が良いと判断したのだろう。リージンは生徒たちに指示すると、シェーラに付き添って北西口へと向かった。




「おい、吹き飛ばされなかったか?」


「吹き飛ばされてたらここに居ないよ!」


「じゃあ、風で巻き上げられなかったか?」


「それ一緒じゃない!!私のこと何だと思ってるの!」


「ん?何だ、チビって言って欲しいのか?」


「むぅぅぅ!!ノアだって大っきくないくせにっ!」


「まあ、ココより大きいのは確かだけどな」


「もーノアのばかーっ」


何時の間にか横に来ていたノアが、ココをからかう。しばし呆然としていたココだったがノアのおふざけでいつもの調子を取り戻し、その場の張り詰めた空気も幾分か和らいだ。


そして、


「では、先生の指示に従って、戻るとしようか。みんな、大丈夫かい?」


ミレーユの某歌劇団スマイルによって、まだ少し怯えていた女子達も完全復活。クラスは少々騒がしくも落ち着きを取り戻し、教室へと戻っていった。




一方、保健室で簡単な診察を受け、異常なしと診断されたシェーラは、そのまま教室へは戻らず、リージンに連れられて本館最上階である十階へと来ていた。


「シェーラ、これから学園長ところへ行きますからね」


「はい……」


(やっぱり怒られるよね……。あんなことしちゃったんだし)


叱られるものと思ってシェーラはシュンとしたが、リージンは笑顔を見せて言った。


「学園長に叱ってもらおうというわけではありませんよ。ただちょっと今回のことは、今後のためにも相談しなくてはなりませんからね……シェーラ姫」


「えっ!?」


唐突に「姫」と呼ばれ、驚いて顔を上げたシェーラ。しかし、学園長室の扉の前まで来たリージンは笑顔のまま答えず、扉をノックする。


「失礼します、リージンです」


「うむ。入りなさい」


扉を開けると、中には式典の時に見た白い豊かな髭に丸めがねのザ・魔法使いな学園長が、サーラ製のよく磨き込まれた重厚な机の前に立っていた。


「ようこそ、シェーラ姫。本来なら臣下の礼をとらなくてはならないところじゃが、この学園にいる間はシェーラ・ライラ・ザードという一生徒として扱うよう、公爵家を通じてお達しが来ていてね。どうか無礼を許してほしい。わしが学園長のハイスじゃ」


そう言いつつハイスは一度優雅に略式の礼をすると、シェーラとリージンを応接テーブルの方へ案内し、ソファへ掛けるよう促した。


「驚いているようじゃな?本当は卒業まで一生徒として遇し、不用な干渉はしないはずだったんじゃが、まあ、今回は仕方がなかろう。陛下からは、娘をよろしく頼むと言われておるよ。ふぉっふぉっふぉ」


口調までザ・魔法使いなハイスは、長い白髭を撫でながら笑った。


(確かに、今まで何も言われなかったから考えてもみなかったけど、あのお父様が何の根回しもなく学園に入れるはずないのよね。ココと部屋が近かったり、クラスが同じなのももしかして……)


シェーラが考えを巡らせていると、ハイスが続けた。


「さて、それで今回の事件についてじゃが……」


この言葉にシェーラは慌てて頭を下げる。


「はい、お騒がせしてすみません……あんなことになってしまって」


「いや、それはいいんじゃ。特殊事情を考えれば、配慮が足りなかったのはこちらの方じゃからな」


「申し訳ございません……」


今度はリージンがシュンとする。


「まあまあ。それはわしも一緒じゃ。すまなかったの」


「あのー、今ひとつお話が見えないのですが……」


自分の「特殊事情」と何の関係があるのか、なぜ謝られたのか、いまいちピンと来ないシェーラは、訝しんで尋ねた。


「うむ。つまりの、今回の事件は、魔力を封じているその新月石の指輪と月の魔法によるもの、ということじゃよ」


ハイスの丸めがねから覗く深緑の瞳が、キラリと光る。


「月の魔法……」


「そうじゃ。その指輪は黒髪を封じている、ということじゃが、それはつまり体内を流れる魔力を吸って、封じているということじゃ。初級魔法がなかなか使えなかったのは、おそらく指輪に魔力が流れてうまく指先に集まらなかったからじゃ。それからもう一つ、自分には適性属性が無い、と思っておるじゃろうが、それは間違いじゃ」


「え? でも測定結果では、適性がないと」


「魔力測定は、あくまでも四大属性と治癒魔法についてのもの。シェーラの場合は……そうじゃな、月属性とでも言えばよいかの。今回暴発したのも、月の魔法じゃ。適性のない四大属性より、適性のある月属性の魔法の方が発現しやすかったのじゃろう」


「月属性、ですか」


「うむ。この学園の設立にも関わった月の魔術師と同じじゃな。これは一般には知られていないことじゃが、かの月の魔術師も、四大属性全てが使えたにも関わらず、適性はなかったと伝えられておる。まあ、月の魔法は今ある全ての魔法の上位魔法のようなものじゃからの。四大属性に適性がないというより、そうした末端属性には力を回していないと言った方がいいのかもしれん。必要もないしの」


「あの、では月の魔法というのは、具体的にはどのようなものなのでしょうか」


「ふむ。それなんじゃがの……一応、月の魔術師直筆の、詠唱を書いたものがあるにはあるんじゃが、残念ながら解読不能なのじゃ」


ハイスがフサフサの白い眉を八の字して、嘆息した。


「そうですか……では私が月の魔法を使えるようになることはないのですね」


(月の魔術師様がよほどの悪筆だったのか、それとも保存状態が悪かったのか、どちらにせよ、月の魔法の詠唱が伝わらないのは残念だな……)


シェーラも残念そうに肩を落とす。


「しかしの、月の魔法が使えるとなると、危険も多い。陛下が心配しておられるのも、そうしたことがあるからじゃろう。このまま黒髪を隠し、月の魔法も使わずに一生を終えるのが、穏やかな人生というものじゃ」


「確かに、そうかもしれませんね」


「うむうむ。また暴発してはコントロールも出来ず危険じゃからの、今後は四大属性の魔法をよく練習して、月の魔法は封じておくのが賢明じゃろう」


「はい」


四大属性の魔法、という話になったところで、今度は今まで黙っていたリージンが口を開いた。


「四大属性の魔法についてですが、今回、月の魔法が暴発したことで、体内の魔力を外に出す際の魔力の流れが出来たのではないかと思います。おそらく、初級魔法の使用ももう問題ないのではないでしょうか」


「ふむ。それはあるかもしれんの。魔法というものは、体が使い方を覚えてしまえば楽なもんじゃ。ふぉっふぉっふぉ」


(なんか、自転車に乗るみたいな話ね……)


こうして話が一段落し、少し雑談をしたところで二限目の終わりの時刻となったため、シェーラとリージンは学園長室を後にした。

ハイス学園長、学園内のことはなんでもご存知。

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