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漆黒の姫と月の約束  作者: 月子
中等部編
12/33

入学試験

もう少し幼少期編を書こうかとも思いましたが、色々飛ばして学園編へ(笑)

シェーラとココが出会ってから、何度目かの夏が終わった。今日はサーラ魔法学園の入学試験二日目。黄色く色付いたサーラの木に囲まれた学園の東塔で、試験は行われている。


入学試験、といっても簡単な座学の試験と魔力測定があるだけだ。準備はほとんど必要ない。しかしそれは逆に言うと、準備してどうにかなるものではない、ということでもある。


魔力測定は、治癒魔法を使えるか、魔力量はどのくらいか、火・土・水・風の四大属性それぞれの魔法をどのレベルまで扱える可能性があるか、その三つを測るものだ。


魔法のレベルは、初級・低級・中級・上級・超級・星級・月級があり、それぞれ、1・2・3・5・7・10・15のポイントで換算される。ある属性の適性がある、というのは、その属性の上級魔法まで扱える能力があるということであり、適性がない場合は全く扱えないか、中級以下の魔法しか使えない。適性があれば上のレベルへ上がることもあるが、適性無しが適性有りになることはない。

しかし、適性があると言ってもすぐにその魔法が使えるわけではなく、あくまでも扱える可能性があるというだけで、実際使えるようになるには、詠唱や魔方陣を覚え、想像力や技術力を鍛えなければならない。

また、適性と魔力量とはまた異なる。魔力量はいわゆるMPみたいなものなので、高いレベルの魔法が使えても、魔力量が少ないと数は打てない。魔力量は、F・E・D・C・B・A・S・SSの七段階に分けられ、上級魔法をある程度の回数使用できるのは、D以上と言われている。使うとその分増えやすいとは言われているが、生まれつきの部分が大きい。


サーラ魔法学園中等部の入学資格は、魔力量D以上、レベルポイント合計7以上。もちろん座学の試験も通過しなければならないが、実際は魔力測定で決まると言って良い。入学してくるのは、魔力がDやCで、ある属性に適性があり、他にも中級以下で扱えるものが一つはある、という学生がほとんどだ。


ココも、そうした学生のうちの一人。昨日の試験を通過し、今日行われた魔力測定では、治癒魔法使用可、魔力量C、適性は土で上級(5ポイント)、その他水の低級(2ポイント)で計7ポイントと判定された。


「シェーラ!こっちだよー」


一足早く測定を終えたココは、魔力測定を終えて会場となっている東塔から出てきたシェーラを見つけて手を振った。


「ココ、お疲れさま。どうだった?」


「Cの7で無事通過ー!シェーラは?」


「うん、一応通った。Aの8」


「えっ、A?すごーい!!」


「うん……それがね、魔力量はAだったんだけど……適性がないの」


シェーラは残念そうに眉を八の字に寄せた。


「えっ適性がない?でもポイントは8なんでしょ?どういうこと?」


予想外の答えに、ココは丸い目を更に丸くして尋ねる。


「全属性で低級だったの。8ポイントだから通過だけどね。かなり珍しいらしくて、監督の先生にびっくりされちゃった」


四大属性のうち、最低でも一つは全く扱えないのが普通だ。ジンドラード皇国の魔術師団長レイザは、全ての属性に適性があり世紀の天才と言われているが、適性がないのに全属性使用可というのはなんと言えばいいのだろうか。初めての魔力測定で結果が有耶無耶に終わった分今回の測定を楽しみにしていたシェーラは、珍しいけれど特別ありがたくもない、微妙な結果に少し落ち込んでいた。


「ふぇー。それは確かに珍しいねぇ。けど、何はともあれ、これで一緒に通えるんだし!シェーラも寮に入るでしょ?」


これまでは長期休みにしか会えなかったシェーラと毎日会える、それが嬉しくて仕方がないといった様子のココに、少し気落ちしていたシェーラも笑顔になる。


「もちろん。部屋近いといいねー」


「うん!お泊り会したいなぁ~。説明会は、西塔だったよね?」


「そうだね、まだかなり時間あるけど、早めに行ってようか」


「うん。いざ、しゅっぱ〜つ!」


えい、えい、おー!と拳をあげ、はしゃいで駆け出したココを、シェーラは慌てて追いかけた。


サーラ魔法学園の校舎は、サーラの木などを利用して作るツリーハウスのような建築が主体のジンドラード皇国では珍しい、石造りの建物だ。

ロンドの街の東の外れから、一キロほど続くサーラの並木道を抜けた先にあるこの学園は、講義が行われる正面の本館と、その左右、つまり東西に聳える円塔、それぞれの塔の裏手にある男子寮と女子寮から成り、全体的に堅牢な、学校というよりは中世ヨーロッパの要塞といった方がふさわしい雰囲気を漂わせている。

私立ではあるが、伝説の月の魔術師が設立に携わったレベルの高い学校として世界中に知られているため、自宅から通う地元出身者よりも遠方から来て寮に入る生徒の方が圧倒的に多い。一学年5クラスのうち、自宅から通うのは2、3人くらいのものである。


シェーラとココがやってきた西塔一階では、四十分後に寮の説明会が行われる予定だ。中は魔力測定を終えた入学予定の生徒達が既に集まってきていた。


「ふわぁーもう結構いるねー。すごい人!」


「すごいねー。ココ、どう?すてきな騎士様は見つかりそう?」


「もう、シェーラったら!」


「ふふふっ。あ、私ちょっとお手洗いに行ってくるから、その辺で待ってて」


シェーラが居なくなって一人になったココは、人の少ない会場の隅の方へ移動し、改めて周囲を見渡した。ジンドラード皇国の人間は五割が茶色、三割がサーラ色、残り二割が金色や淡い栗色の髪をしているが、今集まっている学生たちの中には、赤や紫、薄い水色なども混じっている。村からほとんど出ずに育ったココには、この学園が広い世界と繋がっているように思えて新鮮だった。


「君、新入生?」


「ふぇっ!?」


小動物のようにキョロキョロとしていたココは、後ろから突然後ろから声を掛けられびくっとした。振り向くと、学園の制服を来た男子学生三人が立っている。声を掛けてきたのは、真ん中の淡い栗色の髪をした学生のようだ。


「驚かせてすまないね、僕は中等部三年のウィリアム」


「あ、ココといいます……。あの、何か……?」


「いや、今年の新入生の様子を見に来たら、可愛い子がいたものでね。もしよかったら、説明会のあと食事でもどう?寮のこととか、色々教えてあげるよ」


要は可愛い新入生をナンパしに来た、ということらしい。


「いえ、あの……、友達と一緒に来てるんで、遠慮させてください、すみません」


「友達? じゃあその子も一緒にどうぞ。ご馳走するよ。な、グラン、カイル」


「ああ、もちろんさ」


「な、行こうよ」


グラン、カイル、と呼ばれた二人も同調する。


「えっと、あの……」


(ど、どうしよう!!これってナンパだよね??ついて行くのも怖いし、でも先輩だし……)


おろおろするココみて、ウィリアムとグラン、カイルは顔を見合わせ笑みを浮かべた。うぶな新入生を捕まえられそうだ、という意味だろう。


「ココちゃん、僕たちもね、別にナンパしようってわけじゃないんだ。ただ学園のことを知らない新入生には親切にしたいと思ってね。特に、ココちゃんみたいな可愛い子には」


「いえ、あの……」


これがナンパじゃなくてなんなのだ、と思いながらも、ココは足が竦んで言葉が出ない。


「大丈夫、変なことしないからさ」


ウィリアムがそう言って、ココの髪に触れようと手を伸ばした。


その時。






「おい」






赤髪に暗い赤眼の新入生らしき男子が、ウィリアム達の横から声を掛けてきた。


「初対面の女の髪を触ろうとするなんて、充分変なことじゃねぇか。しかもどう見ても嫌がってるだろ、その子」


「君も新入生か?僕たちはただ学園生活の助言をしようとしているだけだ。大体、君みたいな新入生が先輩に対して失礼だろ。さっさと消えたまえ」


チッと舌打ちし、ウィリアムが手で追い払うしぐさをする。不穏な空気が漂いココは身を固くしたが、赤髪赤眼の新入生は全く意に介さない様子で言い放った。


「断れない新入生を無理に誘うようなやつが、立派な先輩だとは思えねぇな。見苦しいんだよ、男として」


「なんだと!」


ウィリアムの顔が侮辱に対する怒りでみるみる赤くなってゆく。


「おい、新入生。貴様には少し教育が必要なようだな……!」


ウィリアムが言うと同時に、両脇にいたグランとカイルが新入生に殴りかかる。

しかし、新入生は全く動じずにグランの足を払い、カイルの腕を掴むと、殴りかかってきた勢いを利用して投げ飛ばした。


「なっ!!」


思わぬ事態にウィリアムはたじろいだが、もう遅い。次の瞬間には彼の右頬にストレートが綺麗に入っていた。


新入生は動かなくなった上級生三人を冷めた表情で一瞥すると、隅で怯えているココの方へやってきた。


「おい、大丈夫か?」


「あ、ありがとう……!私は大丈夫だけど……」


「ああ、俺か?大丈夫、無傷だ」


本当は、後ろの三人は大丈夫なのか、と言おうとしたところだったのだが、新入生は違う意味にとったらしい。あなたが大丈夫なのは見ればわかるんだけど、と言いかけた言葉をココが飲み込んだ時、戻ってきたシェーラが惨状を見て悲鳴に近い声をあげた。


「ココ!!何があったの!?」


「あ、シェーラ!」


ココからこの数分間の出来事について聞いたシェーラは、ココに被害が及んでいないとわかって胸を撫で下ろした。


「それで、この方、ええと……」


「ノア・シュヴァイン・ラインバルト。ノアでいい」


「ノアね。私は、シェーラ・ライラ・ザード。シェーラよ。なるほど、ノアが、ココの騎士様ってわけね」


「騎士様?」


「ココはね、ずっと護ってくれる騎士様に憧れてて……」


「ちょ、ちょっとまってよシェーラ!確かにノアは助けてくれたけど、かなり小さいっていうか、私の騎士様は、身長180センチ以上じゃないとって、あ……」


ココは恥ずかしさもあって思わず口走ったのだが、小さい、身長、という単語はどうやら地雷だったらしい。これから中等部に上がるノアは、どうみても150ちょっとしかなかった。先ほどまでの落ち着いた態度はどこへやら、顔を真っ赤にしてぷるぷる震えている。


「おい……。お、俺は確かにまだ背はないが、しかしだな、俺よりチビのお前には言われたくない……!!この、このガキ!!!」


しかし、小柄で童顔、どうしても幼くみられがちなココにとっても、ガキ、という言葉は地雷ワードであった。


「なっ!ガキじゃないもん!別に私の騎士様の話なんだからいいでしょ?それに、私にはココ・ミル・レントっていうちゃんとした名前があるの!お前だのガキだの言わないでよっ!」


「私の騎士様とかなんとかってごちゃごちゃうるせーよ!何がガキじゃないもん、だよ。どうみてもガキだろうが!」


「なによ!チビのくせに!!」


「なんだとぉぉぉ!!」


「ちょっと、二人とも!」


慌ててシェーラが止めに入るが、二人は睨み合ったまま。特に、ガルルルル……と唸り声が聞こえてきそうなココの様子は、今はすっかりのびている上級生三人を撃退できたであろう迫力だ。


この時、新入生が上級生を殴り飛ばした、という話を聞きつけた教師がやってこなかったら、騒ぎはもっと大きくなっていたかもしれない。


あやうく入学資格を剥奪されそうになったノアは、被害者であるココが庇ったため、正当防衛として認められ、少々のお叱りを受けるだけで済んだ。そして結果的に、ココがノアを必死になって庇ったことで、この先数えきれないほどすることになる二人の最初の喧嘩は、一応の解決をみたのだった。

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