転生
初投稿です。まだレイアウト等よくわかっていませんが完走目指してがんばります!
道場からの帰り道、月明かりに照らされた満開の桜に気を取られていたのか、それともやはり咲子先生がいなくなってしまったショックが尾を引いていたのか、気配を感じた時にはもう遅かった。
背中から一突きされ倒れる刹那、その最期の瞬間にましろが見たのは、雲ひとつ無い空に輝く満月と、そこに散りかかるかのように舞う無数の花びら。
皮肉なほどに静かで美しい光景だった。
(暗い、苦しい、どうなってるの?息が、そうだ息を吸って……!)
「ンギャー!」
出来るかぎり肺に空気を入れ、吐き出したつもりが、実際に出たのは赤ん坊のような泣き声。
白崎ましろ、18歳。
その時出た「赤ん坊のような泣き声」が実際に「赤ん坊の泣き声」であり、自分が異世界に転生したのだと納得したのは、三ヶ月を過ぎたころだった。
最初のうちは、身体は動かないしすぐ眠くなるしで、なかなか状況を把握できないでいたが、三ヶ月を過ぎてだんだん昼間起きていられる時間が長くなってくると、少しは考える余裕も出てきた。
(まず、こんなに長くてリアルな夢はたぶんあり得ないし、最期の記憶から察するに、私は殺されたんだと思って間違いない。あの頃は通り魔事件が頻発していたから、その被害者の一人になってしまった可能性が高いんじゃないかな……)
色々と考えを巡らせてひとまず納得したましろは、ふぅ、と赤ん坊らしくないため息を一つついた。残された家族や友達のことを考えるとそれなりに辛かったが、生きるエネルギーに満ちた赤ん坊パワーのせいなのか、徐々に新たな人生にむけて気持ちが切り替わってきた。
異世界説については、周りの人たちを見れば一目瞭然だった。父アルダンは金髪銀眼のイケメンだし、母ソフィアは淡い栗色の髪に碧眼の美女。おまけにお手伝いさんらしき人たちの中には、桜色の髪をした人までいる。もちろん服装もザ・異世界ファンタジー。これが異世界でなかったらどこだというのか。
(異世界転生……ふふふ。魔法もあったらいいな!)
誰でも一度は妄想する憧れの西洋ファンタジー風世界、それもかなり裕福な家に生まれたのは本当にラッキーだと思った。前世で悲惨な最期を遂げた分、神様がサービスしてくれたのかもしれない。
「シェーラ、可愛いシェーラ」
ましろの新しい名前は、シェーラ。まだ言葉はよくわからないけど、いつもそう呼ばれるからそうなんだろうと推測する。
それから少しの間に、ましろ改めシェーラは、「お父様」「お母様」「危ない」「ごはん」「オシメ」などの基本的な単語、それと、一番よく言われる「可愛い」を覚えた。
(さすが赤ちゃんなだけあって、するする頭に入っていくのはありがたいな。お母様に抱かれて絵本を読んでもらうことも増えたし、どんどん覚えて早く話せるようにならないと!)
「シェーラ、見える? 」
「セイラ、しっかり抱えてるか? 落とすんじゃないぞ!」
「大丈夫よ、お兄様。シェーラのことになるといつもこうなのだから、困ってしまいますね~シェーラ」
「あうー!」
今日は、父アルダンと同じ金髪銀眼の兄クレイル、姉セイラと一緒に初めてバルコニーに出ている。クレイルは7歳、セイラは5歳。元18歳のシェーラからすると5歳のセイラに抱かれるのは少し恐ろしかったが、そこは侍女頭のフランが手を添えてくれているので安心だ。
バルコニーに据えられた踏み台に上がったクレイルとセイラにあやされながら目の前に広がる光景を見て、シェーラは思わず声を上げた。
「いあうあうあいー! (リアルファンタジー!)」
眼下に広がっていたのは、家と木とが半分融合したような、可愛らしいツリーハウスの建物が並んでいるまさにファンタジーな世界。
(こ、これは期待以上だわ!)
「シェーラ、これがお父様が治めていらっしゃるジンドラード皇国の皇都だよ。この皇宮はね、月の湖に囲まれているんだ。あそこから伸びている道をまっすぐ行くと……ほら、橋が見えるだろう? あれが向こう岸とをつなぐ唯一の橋。シェーラも大きくなったら、向こう岸へ行けるからね」
クレイルがシェーラを撫でながら優しく教えてくれた。ジンドラード皇国、皇都、月の湖、というこれまで何度か聞いたことのある単語を頭の中で繰り返しながら、シェーラはまだ十分には働かない頭をフル回転させて内容を整理する。
(ん? お父様が治めている??)
(ということは、私……)
「おいえあま!? (おひめさま!?)」
「いあっばー!! (やったー!!)」
「あら、シェーラ、どうしたの? 寒いのかしら。そろそろ中へはいる?」
「もう10月でございますものね、お風邪を召されるようなことがあっては大変です。そろそろお戻りになられるのがよろしいでしょう」
突然落ち着きがなくなったシェーラの様子を見て、セイラとフランが慌て始めた。クレイルは、心配のしすぎで既に若干顔色が悪い。
(いや、ちょっとびっくりしただけなんだけどね。バルコニーに出てからまだ五分も経ってないだろうし)
周りの反応に半分呆れながらも、シェーラの瞳は輝いていた。
(それにしても、私がお姫様かぁ。貴族くらいかな? とは思ってたけど、まさかこのファンタジー世界で、お姫様だなんて! これはこの先の人生が楽しみね~ふふふ♪)
興奮さめやらぬシェーラは、その日からしばらく超ご機嫌で過ごした。
スマートフォンから書いたらスペースが反映されていない気がする……。あれれ。