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修悠学園パラレル生徒会  作者: 飛鳥 梨真
第2章 跳ねっ返りと見知らぬ親友
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5

 昼食を終えたあたしは、生徒会室を出ると不可解な思いを抱いたまま教室へと戻ってきた。

 席に着くや否や、エリナとリカが寄ってきて質問攻めにあったものの、そのほとんどを右から左にスルーしていたので、正直何と答えたのかほとんど覚えていない。おかげで彼女らにあらぬ誤解を与えてしまった可能性もあるが、今はそれすら些細な問題と思える。

 午後の授業が始まってからも、あたしは黙々と自分の思考に没頭し続けた。

 先程の神宮寺の話でわかったのは、昨日の会議の時点で、既にあたしの記憶とは異なる状況が進行していたということだ。それがいつから始まっていたのかはわからない。

 が、少なくともあたし自身の時間軸において、周囲の現実とあたしの記憶の乖離が始まったのは、おそらくあたしが病院で目覚めた時点だろう。なぜなら、ここにいる神宮寺たちの記憶とあたしの記憶が異なることに気づき始めたのが、その辺りだからだ。

 昨日病室にいた神宮寺とリョージは、あたしが掃除用具入れの一件に触れる前、「こいつは何か言ってたか?」ぐらいの雰囲気で不思議そうに顔を見合わせていた。そして、消灯後に病室を訪れたアカリは、ハッキリとこういった。「あの時何か言ってましたっけ……?」と。

 あたしはこの2つを、単なる自分の記憶違いや気のせいぐらいにしか考えていなかった。しかし、昼休みの会話を経た今なら、こう考えることができる。あたしが何か言ったという事実は、彼らの中で本当に「なかったこと」なのではないか――?

 つまり、あたしが今いる「この世界」は、病院で目覚める以前の世界と同じではないということである。それがあたしを除いて世界自体が変わってしまった為なのか、それとも新たに生まれた――もしくは最初から存在していた――別の世界に、どういうわけかあたし一人が飛ばされてしまった為なのかはわからない。しかしいずれにしても、病院で目覚める前と後であたしを取り巻く状況が変わったと考えれば、昨夜のアカリの発言も、昼休みの神宮寺との会話も、そしてあのサキという少女の存在もすべてに合点がいくのだ。

 もちろんこれはあくまでも仮説であり、他の人、特に神宮寺辺りにでも言えば「そんな馬鹿な」と一蹴されることだろう。自分自身でも、トンデモ話を展開しているとは思っている。しかし、今あたしを悩ませている違和感の全てに、一番納得のいく理由づけをしてくれるのもまた、この考えなのだ。これ以外に現状をストンと理解できる説明が思い浮かばない以上、当面はこの仮説を軸に、いろいろ考えていった方がいいような気がする。

「って言っても、これ以外に考えることもないか……」

 奇妙なもので、今まで感じていた違和感にそれなり(と言えるかどうかは甚だ疑問だが)の理由がつけられると、なんとなくそれでいいような気になってくる。

 ようやくややこしい思考から解放されたあたしは、シャーペンを取り上げると本日最後――そしてあたし的に唯一の――授業のノートをとり始めた。


 が、あたしにはまだ考なければならない事象が1つだけ残っていた。

 例のサキという少女の扱いである。彼女の存在に合点がいったところで安心して、彼女とどういう風に接するかについてをまったく考えていなかった。

 リョージには確か「放課後までには答えを出す」と言った気がする。そして今はその放課後だ。さてどうしたものか……。

「そうだ、ケータイ」

 階段を1階まで下りたところでふと思い立って、あたしは制服のポケットから愛用の携帯電話を取り出す。ボタンを操作して電話帳を開くと、「友達」と銘打ったフォルダーを表示させ、一番上からスクロールを始めた。

 基本的に、あたしは呼び名で電話帳を登録している。確固たる信念があるわけではないが、なんとなく携帯電話の番号を教え合うような仲の人(主に友人だが)をフルネームで登録するのは他人行儀な気がして、あまり好きではないのだ。なので「友人」フォルダーの一番上は、フルネームで登録すればもっと後ろになるはずのアカリの番号になっている。他の友人に「あ」で始まる呼び名の人間がいないからだ。

 それはともかく、あたしのスクロール作業は程なく終わりを告げた。か行の呼び名の人間が終わったすぐ下に、目的の名前を見つけたからだ。

「やっぱり……」

 か行が終わったその下に、「サキ」という名前が表示されていた。念のため電話帳の詳細を表示させ、追記に登録してあるフルネームを確認する。フルネームが「頼城 咲希(よりしろ さき)」となっているので、おそらく今朝の少女に間違いないだろう。

 彼女を「サキ」という名前で登録しているのを見るに、この電話番号を登録した時の『あたし』は、彼女のことをそう呼んでいたらしい。「この電話を登録した」と先に断ったのは、今のあたしには彼女の番号を登録した覚えがないからである。リョージの話を聞いた時には半信半疑だったが、親友かどうかはともかく、本当に『あたし』はサキという少女を友人として扱っていたようだ。

 携帯電話をポケットに戻して、あたしは盛大に溜息を吐いた。これで確定である。あたしは彼女を友人として扱わねばならないらしい。耐えられるだろうか……と鬱々とした気分に支配されながら生徒会室の前まで来て、あたしはドアの取っ手に手をかけ――たものの、離してドアから一歩退く。

 なぜかタイミング良くドアが開く、そんな気がしたのだ。

 その予感が的中したかのように、荷物を持ったリョージがドアを開けた。取っ手を持ったままであれば、確実に顔面を強打していたところだ。

「お、マジで来やがった。すげーな、サキちゃん」

 室内に向かって言いながら出てくるリョージに、あたしは問いかけた。

「ちょっとどこ行くのよ? これから会議でしょ?」

「あぁ、今日の会議はここでやんないことになった」

「へ? なんで? 神宮寺がそう言ったの?」

 あたしのその問いには、リョージに続いて出てきた神宮寺本人が答えてくれる。こちらも既に荷物持ちだ。

「あぁ、俺が言った。訳は後で話すが、今日からしばらく執行部の会議は頼城の家で行う」

 わけがわからず立ち尽くすあたしの前で、室内からそれぞれ帰り支度をした残りのメンバー、アカリとサキが出てくる。

 全員が出終わった事を確認して、神宮寺が生徒会室に鍵をかけた。今までこれほど厳重に生徒会室の戸締りをしたことなどあっただろうか……。

 ――いや待てよ、ここはあたしの元いた場所ではないらしい。ここでの出来事に違和感があったところで何の不思議もないと、先程自分で納得したばかりではないか。

「ミサキ先輩ー? どうしたんですかー?」

 鍵のかけられたドアを凝視していたあたしは、アカリの声で我に返った。気がつけば、あたしを除く執行部のメンバーは既に数メートル先まで進んでいる。

「あ、ううん、何でもない。すぐ行く」

 言いながらあたしも、彼女らを追ってその場を離れた。

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