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修悠学園パラレル生徒会  作者: 飛鳥 梨真
第2章 跳ねっ返りと見知らぬ親友
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2

 どうも変だ。

 教師が一生懸命黒板に文字を並べているのを尻目に、あたしは別の問題について考え込んでいた。

 別の問題とは、昨日からあたしの周囲で起こっている、奇妙な変化のことである。

 あたし自身は確かに何かを言ったつもりだったのに、あたし以外の3人にはその発言が聞き取れていない、もしくは発言自体がなかったことになっていそうな、長机の下の出来事。身の危険を冒してまでわざわざ取りに行ったのに、思い出そうとすると何故か出てこない(おそらく)大事な物。そして、あたしの記憶にはかけらも見当たらないのに、厳然と存在している自称「あたしの親友」。

「昨日頭をぶつけたせいで、一時的に記憶が欠落やら混乱やらしているんだ」

 そう言われれば、そうなのかもしれないとは思う。が、それにしては、ちょっとばかり無くなったり混乱したりし過ぎではないだろうか。

 特に、リョージたち執行部のメンバーやクラスメイト、教師、家族等は、間違いなく以前からあたしの周囲にいたと認識できているのに、親友だけその存在を認識できないってのが、やっぱり何かおかしい気がする。

 なんにせよ、そんな感じで学習的に無意味な時間が過ぎていき、気がつけば4限――すなわち午前の授業終了のチャイムが鳴っていた。

「起立ー、礼ー」

『ありがとうございましたー』

「着席ー」

 お馴染みの挨拶を終え、あたしは椅子に座る。

 出して広げただけの教科書などを片付けながら、まったく聞いていなかった午前の授業分のノートを誰に写させてもらおうかと思案していると、

「ん?」

 机の上に広がっていたあたしの視界の端に、何か白い物が紛れ込んで来た。注意をそちらに向けると、それは縦3センチ、横6センチ程の紙切れ。よく見れば、紙の下端に罫線のような物が入っている。どうやらノートかルーズリーフの切れっ端のようだ。別に丁寧に切られているわけでもないので、おそらく何かの拍子に破れたのだろうが、そんなゴミまがいの物が、どうしてあたしの机の上に登場したのやら……。

「あたしの机はゴミ箱じゃないっての……」

 紙切れ置き去りの犯人に文句を言いつつ、それをひょいと裏返すと――

「え?」

 紙切れの裏に、見なれた筆跡を崩したような文字が並んでいた。

『話がある。昼食を持って生徒会室まで来い。 神宮寺』

 思わず顔をあげて教室中を見回す。が、既に神宮寺の姿は見えなかった。おそらく先に教室を出たのだろう。

「にしても、珍しいこともあるもんね……」

 視線をヤツが置いていった紙切れ――じゃなくてメモに戻して、あたしは呟いた。

 執行部で唯一クラスが一緒であるにも関わらず、教室内で神宮寺の方からあたしに接触してきたことなど、今まで一度もない。というより、教室内で神宮寺が自分から他の生徒に関わろうとしているのを、あたしは見たことがなかった。学力が学力なだけに、ちょいちょい他の生徒から予習代わりに答えを聞かれているのは見かけるが、それだって自分から聞きに来いなんて言ったわけではあるまい。あたしから見たクラス内での神宮寺は、「自ら好んで、人との関わりを避けている人間」であった。

 故に、放課後以外のこういった呼び出しは、非常に珍しい物なのだ。しかし――

「どうせ呼び出すんなら、メモなんか使わないで、直接言ってくれたらいいのに……」

 心の声を言葉として発しながら、あたしは恨めしげにメモを睨みつける。なぜなら、あたしの周りにはこういう物を目ざとく見つけ、面白がる人間がいるからだ。

「見たわよぉ、ミサキ。神宮寺くんから手紙かなんかもらったでしょー?」

「え、マジ? 何なに、ラブレター?」

 ……ほら、こんな風に。

 ニヤニヤしながら近寄ってきた友人2人――エリナとリカ――に向かって、あたしはうんざりした声をあげた。

「ただの呼び出し状よ」

 が、そんなことであっさり引き下がってくれる彼女たちではない。エリナはあたしの手から例のメモをかすめ取ると、声に出して読み上げた。

「えーっと……、『話がある。昼食を持って生徒会室まで来い。 神宮寺』か。なるほどね……」

「なんだー、やっぱラブレターじゃん」

「なっ?!」

 リカの言葉に驚いて、あたしは慌ててエリナからメモを奪い返す。書かれた文章を何度も何度も読み返して―-

 やがてあたしはメモを机に放り出した。相変わらずニヤニヤ笑いを浮かべている2人に、疑いの眼差しを向ける。

「あんたたち、あたしをからかってるわけ?」

 あたしの言葉に、2人はブンブンと首を横に振った。

「とんでもない。ねぇ、リカ?」

「そうだよー」

 ニヤニヤしながら違うと言われても、かけらも説得力がないというものだ。あたしは抗議の声をあげた。

「じゃあ、この命令文のどこに、恋愛要素が含まれてるっていうのよ?」

「わかってないなぁ、ミサキちゃんは」

 リカが机からメモを取り上げて言う。

「大好きなミサキちゃんと一緒にごはんを食べたい、でもクラスの中で声をかけるのは、他の生徒の目があるから恥ずかしい。だからサラッと呼び出しのメモとか書いて、2人っきりになれる生徒会室でごはんを食べようっていう、この神宮寺くんのいじらしい男心」

「そうそう。命令口調だって、神宮寺くんの照れ隠しだと思えばすぐに納得できるじゃない。男子って基本的にツンデレなものよ。特に神宮寺くんはその気が強いと思うけど?」

「ツンデレねぇ……」

 リカからメモを取り戻すと、あたしはもう一度そこに書かれた文章に目を通し、そして神宮寺の態度を思い浮かべてみた。ツンデレというのは、当然ながら「ツン」と「デレ」があって、初めて成り立つものである。必要最低限しか書かれていない短文に、「デレ」の要素など見当たらない。そしてどう考えても、あたしに対する日頃の神宮寺の態度は、「ツン」しか存在しない気がするのだが……。

「まったく、あんたたちの想像力っていうか妄想力には恐れ入ったわ。このメモからそこまで考えるなんて……」

 言いながら立ちあがったあたしに、エリナが声をかけてくる。

「なんだかんだ言いながら行くんじゃない、ミサキ」

「そりゃ行かなきゃいけないでしょ。すっぽかしたら、放課後何言われるかわかったもんじゃないわよ」

「ふーん……。神宮寺くんのことならなんでもお見通しってか?」

「違うっつーの」

 言うとあたしは、通路をふさいでいたエリナとリカの間を割って、前方のドアへと向かう。その後ろから、いかにも意味ありげな2人の声が追いかけてきた。

「いってらっしゃーい」

 完全に面白がっているとしか思えない友人たちの声を聞きながら、あたしは大きく溜息を吐いたのだった。

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