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修悠学園パラレル生徒会  作者: 飛鳥 梨真
第2章 跳ねっ返りと見知らぬ親友
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9

 あたしが議事録を持ったままでいると、神宮寺が不審げに声をかけてきた。

「どうした神楽谷かぐらや。議事録ないのか?」

「あ、いや別にそういうわけじゃないの。はい、サキ。これ昨日の議事録」

「ありがとぉ、ミサキちゃん」

 言いながら受け取ると、サキは早速目を通し始める。

 それを見ながら、神宮寺は言葉を続けた。

「それじゃあ、頼城よりしろはそれを見ながら話を聞いててくれ。

 昨日の会議で、11月に行われる文化祭の執行部企画を決めたのは全員覚えてるな? 企画は神楽谷提案の、生徒対教師の全面対決という寸劇だ。ここまでは大丈夫か?」

 無言で頷くあたし以下4人。サキも既にそこまで議事録を読んでいるらしい。

 神宮寺は頷くあたしたちを見回して、再び口を開く。

「よし。それではここからが今日の本題だ。

 昨日この企画について触れた時、神楽谷は『本当は実際に教師に対して全面戦争をしかけてやりたい』と言っていた。そうだな、神楽谷?」

「えぇ」

 あたしはしぶしぶ肯定した。事実なので認めざるを得ない。

 それに満足そうに頷くと、神宮寺はさらに続ける。

「おそらく神楽谷のこの発言は、教師陣、特に校長、教頭、及びその取り巻き連中の不甲斐なさに反発してのことだろうが、正直言ってそれは以前から俺も感じていたことだ。

 そこで一晩考えたんだが、ここにいる全員の了承が得られれば、俺はこの企画に乗じて、神楽谷の提案通り執行部主導の全面戦争、というか学生蜂起を決行しようかと思っている。会議を生徒会室ではなく、頼城の家を借りて行っているのもそういうわけだ。情報が相手方に漏れて計画が始動前に潰されるのは、どうあっても防ぎたいからな。

 ということで、改めて賛否を問いたい。どうだろうか?」

 あたしはみんなの様子を窺った。案の定、三者三様の驚きの表情を浮かべている。まぁ自然な反応だろう。昼休みに聞いた時、あたしも同じく驚きの反応しかできなかったのだから……。

 ややあって、最初に口を開いたのはリョージだった。

「いや、いきなりどうだろうって言われてもなぁ……。ってゆかミサキ、おまえこれ知ってたのか?」

「うん。さっき昼間がどうのって言ってたでしょ? あれがこれのことなのよ」

「そうか……」

 言って、再び黙りこむリョージ。内容が内容なだけあって、さすがのリョージでも即断即決とはいかないようである。

 みんなの様子を見ながら、あたしもまた考え込んでいた。昼間神宮寺にはこの件を会議にかけることを了承しただけで、この計画を実行すること自体については、あたし自身賛否を決めかねている。

 神宮寺の言う通り、あの寸劇と同じことを実際にやらかしたいと言ったのは、校長や教頭たちのモンスターペアレントに対する弱腰な態度に業を煮やしていたからだ。それは間違いないのだが、いざ反旗を翻したとして、それで得られる物――例えば、理不尽な要求に対する断固とした姿勢を貫く確約――とそれにともなうリスク――具体的に言ってしまえば、失敗した時の処罰やらなんやら――とを天秤にかけた時、どちらを重視して決断すべきかといえばどう考えても後者だろう。

 ただ、あたしの発言をきっかけに神宮寺がこんなことを考えたのも、また紛れもない事実だ。そこが引っかかって、あたしはそう簡単に反対に回れないでいる。今さらながら、安易に物騒な内容を口走ったことを、あたしは激しく後悔していた。

 そうして先程のリョージの発言からさらに数分が過ぎたころ、沈黙は再び破られた。今度沈黙を破ったのは、この部屋の主、サキである。

「うーん、あたしはいいと思うけどなぁ、神宮寺くんの提案」

「えぇっ?」

 あまりの発言に、あたしは驚いて隣のツインテール頭を凝視する。が、サキから反論が来る前に、残りの2人――リョージとアカリ――が立て続けに口を開いた。

「そーだな。サキちゃんの言う通りかもしれん」

「あたしもサキ先輩に同意です」

「ウソぉ……」

 あたしはあんぐりと口を開けたままサキの意見に同意した2人の顔を見つめ、それから再び視線をサキに戻した後、今度は右を向いて神宮寺の顔を見上げた。

 そのあたしを、椅子の上から神宮寺が見降ろしてくる。

「どうした神楽谷? 何かあるなら言えばいいだろう」

「いや、何かあるっていうかなんていうか……。あんたたち、ホントにそれでいいわけ?」

「それでいいって何がぁ?」

 不思議そうに首をかしげてサキが言う。他の面々も口にこそしないが、一様に「何でそんなことを?」という表情を浮かべている。

 その全員に向かってあたしはまくしたてた。

「いやいやいやいや。よーーく考えなさいよ? これ失敗した時にはどうなるか、あんたたちちゃんと考えて言ってる? 単に面白そうだからー、とかで乗っちゃっていい話じゃないのよ?」

 すると、これまた一様に「なーんだ」という表情をされた。その心境を代表するように、向かいのリョージが口を開く。

「なんだミサキ、んなこと心配してたのか。神宮寺がこれ程のことを言いきるってんなら、勝算はあるんだろうよ。なんつっても、負ける勝負には最初っから乗らないヤツだからな、神宮寺は。なぁ?」

 リョージの言葉に神宮寺を振り仰げば、ヤツはこともなげにうん、と一つ頷いてみせた。

「そうだな。まぁ弦木つるぎが言うほど失敗のリスクを考えていないわけではないが、神楽谷ほど失敗を前提に考えているわけでもない。むしろ失敗をしない為の計画を立ててきたつもりだ」

「そんなぁ……」

 あたしは一人途方に暮れる。正直なところ、あたしは自分が止めなくても、他の誰か――もしくは全員――が反対することで、この計画はおじゃんになるだろうと楽観視していた。あたしを除いた全員が計画に賛同するなんて事態は、想定すらしていなかったのだ。きっかけを作っておいてこんなことを言うのもあれだが、この計画に賛同するなんて正気の沙汰とは思えない。

 あたしが誰か意見を翻してくれないものか……とすがるような目で見回していると、サキが声をかけてきた。

「どぉしたのぉ、ミサキちゃん?」

「いや……。サキ、あんたホントにこの計画が成功するって思ってるの?」

 あたしの問いに、サキは少しの間考えた後、こう返してきた。

「多分、だけどねぇ。神宮寺くんの立てた計画ならぁ、多分大丈夫なのかなぁって思ってねぇ。それにぃ」

 そこまで言うと、なぜかサキはあたしの方に顔を近づけてきた。何かはわからないが、やけに甘ったるい、そしてどこか正常な判断能力を奪うかのような香りが、あたしの鼻孔をくすぐる。

 サキは数十秒あたしの目を見つめた後、顔を離した。思考を読み取られたような、心を覗き見られたような変な感覚に陥ったのは、さっきの香りのせいだろうか……。

 あたしから顔を離したサキは、ニッコリと笑って言葉を継ぐ。

「ミサキちゃんだってぇ、ホントは神宮寺くんの計画が成功すればいいなって思ってるんでしょぉ? それならぁ、多分大丈夫じゃないかなって思うんだぁ。だってぇ、ミサキちゃんが望んだ通りぃ、こうやって学生蜂起は現実になったじゃなぁい。きっとぉ、ミサキちゃんが成功してほしいって望めばぁ、計画は成功するんだよぉ」

「つまりあれですね。ミサキ先輩は、この計画にとっての勝利の女神、ってことですね?」

 絶妙なタイミングで入れられたアカリの比喩に、サキは嬉しそうにパンっと手を叩いた。

「アカリちゃんうまいっ! まさにその通りっ! そーだよぉ、ミサキちゃんは勝利の女神さまなんだよぉ」

 まったく、アカリも余計なことを言ってくれたものだ。ますますサキを調子に乗せてしまったではないか。

 あたしは溜息をつきながら、しかし……と思い直す。

 あたしが勝利の女神かどうかはともかくとして、よくよく思い返してみると、サキの言ったことはあながち間違ってはいない。学生蜂起が実際にできれば……と望んでいたところ、あたしの願いが天の神様か何かに通じたように、今まさに現実化しようとしている。そして、今朝の授業の用意の件だってそうだ。病院から学校に直行すると授業の用意ができないと困っていると、都合よく着替えの荷物の中から授業の用意が見つかった。他にも小さなことなら、いくつか思い当たるフシがないこともない。学生蜂起とその他のこまごまは単なる偶然、授業の用意はおそらく神宮寺の機転の賜物だとは思うのだが、見方によっては全てあたしの望み通りに物事が進んでいる、と捉えることもできるではないか。

 ……世界が変わったって言っても、あたしに都合のいい世界になったんなら、これはこれで悪くないのかも……

 あたしは警戒感を抱きつつも、徐々に今いる世界を受け入れてもいい気になり始めていた――――。

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