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修悠学園パラレル生徒会  作者: 飛鳥 梨真
第2章 跳ねっ返りと見知らぬ親友
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6

 玄関で靴を履き変えたあたしたちは、そのまま団子状態で学園最寄駅を目指す。

 先頭に万年憮然顔の神宮寺。その後ろにアカリとサキの別種「かわいい」コンビ。そして最後尾があたしとリョージの悪友2人組。

 執行部のメンバーで学校を後にすることなど、さして珍しいことでもない。今まで何度となく経験してきたことだ。それでも何かしら違和感――というか新鮮さを感じているのは、やはりサキの存在のせいだろう。

 そういえば朝廊下で絡まれて以来、あたしは彼女と口をきいていない。別にあたしが意図的にそうしているわけではなく、自然にそうなってしまっているのだ。授業の合間の休み時間には一度も顔を合せなかったし、先程も生徒会室から出てきたところで、あたしに対するリアクションがあるかと思ったが、完全スルーでアカリとのおしゃべりに夢中になっていた。

 まぁ絡んで来ないなら、あたしとしては万々歳なわけだが……。

 そんなことを考えながら歩いていると、横のリョージが小声で尋ねてきた。

「で、結局どうしたんだ、サキちゃんの扱い?」

「うーん、とりあえず友人として接する努力はしてみる。ケータイ見たら、『サキ』って名前呼び捨てで登録されてたし」

「登録されてたしって、おまえ自分で登録したんだろ?」

「まぁね……」

 言葉を濁して、あたしは前を行くツインテールの頭を眺めた。

 リョージになら、先程のトンデモ話をしてみてもいいのかもしれない。一瞬そう思ったのだが、やっぱり止めておくことにした。そのトンデモ話を前提にするなら、今隣を歩くリョージは、あたしの知っているヤツとは別人と考えるのが自然な気がするからだ。

 もちろんこのリョージが別人だからといって、あたしの考えを全て話すことが、自分自身に不利になるわけではないだろう。あたしのことを本気で心配してくれているので、例のトンデモ話を打ち明けても、親身になって話を聞いてくれるかもしれない。それでも思い留まったのは、いまだ心のどこかで抱いている現状に対する不信感と、そんなトンデモ話そもそもあり得ないという理性のなせる業なのだろうか……。

 そんな思考をこねくり回している間に、あたしたち一行は最寄りの駅へと到着した。サキの家とやらに心当たりがないので他の面々について行くと、あたしが下校時に使うホームとは反対側――すなわち登校時に降りるホームに辿り着く。いつも使っているホームではあるが、ここから電車に乗るというのは滅多にない。もしかしたら、執行部のみんなで行った科学館以来ではないだろうか。

「懐かしいなぁ……」

 思わずそう口にしたあたしの言葉に、リョージが反応する。

「何が?」

「何がって……いや、やっぱいいや。何でもない」

 言いかけて止めたあたしに、リョージが若干不審げな視線を送ってきた。が、あたしは敢えてそれを無視する。

 今日一日で、一体何度「何でもない」と言ったことだろう。そう言うごとに、自分の中にモヤモヤとしたものが溜まっていく。基本的に今まで自分の言いたいことを我慢してこなかったあたしにとって、これ以上の苦痛もないというものだ。

 しかし、あたしの記憶にある出来事を、軽々しく口にするのも嫌になってきつつあった。どれがみんなと共通の記憶で、どれが食い違った記憶なのかが、今のあたしには判断できないからだ。

 そうして待つこと数分で、電車が到着した。下校時刻から少し過ぎてはいるものの、濃紺ブレザーにタータンチェックのスカート、もしくはスラックスという修悠の制服を着た連中が、まだまだホームに多く見受けられる。当然あたしたちも、その濃紺ブレザー集団の一部なのだが。

 他の修悠の学生と共に乗車すると、あたしは反対側のドアの真ん前を確保した。誰とも喋らずに、ボーっと車窓から外の景色を眺める。何も喋らず考えず、ただひたすら、朝から酷使してきた頭を休めたかった。

 ちなみにあたしが喋らないので暇になったのか、先程まで隣にいたリョージは神宮寺のところへ行ったらしい。まぁ男同士の話というのもあるのだろうと思って、そのまま放っておく。

 そうやってあたしが頭のリフレッシュをしているうちに、電車は次の駅に到着した。それと同時に、サキを先頭に執行部の面々が移動し始める。あたしも慌ててその後を追った。どうやら彼女の家の最寄り駅は、科学館と一緒らしい。

 主体性もなくサキたちについて歩くと、あたしは改札を出てすぐの通路を右に曲がっていた。これまた例の科学館へ行った時と同じである。

 もっとも、それ自体は不思議なことではない。ここの駅は今乗ってきた物をを含めて複数の路線が乗り入れているせいか、駅周辺がかなり開けている。先程の改札を出て左に曲がれば、そのまま大型ショッピングモールに直接行けるし、あたしたちのように右に曲がれば、駅を出てすぐは分譲マンション林立エリア、そこから少し歩けば科学館や中規模の多目的ホール、図書館などの公共施設が点在するエリアになっているのだ。右に曲がったということは、サキの家はそのマンションのどこかなのだろう。

 が、あたしの予想はあっさり裏切られた。サキに先導されて歩くあたしたちは、マンションが林立するエリアをすり抜けて、公共施設が点在するエリアへと向かう。

 どうにも腑に落ちない思いで歩いていると、改札を出てからあたしの横を歩いていたアカリが不思議そうに声をかけてきた。

「どうしたんですか、ミサキ先輩? なんか浮かない顔してるみたいですけど……」

「あ、いや。ここらって、確か図書館とか多目的ホールとかある辺だよね? 住宅とかあったかなぁと思って」

「住宅? ないわけではないですけど……。っていうか、そもそもサキ先輩の家は普通のお家じゃないですし」

「はい?」

 さらにはてなマークがあたしの頭で駆け巡る。普通のお家じゃないって何だ……? そしてアカリの口ぶりだと、それは執行部内で周知の事実となっているようだが……。

 あたしの怪訝な表情に気付いているのかいないのか、アカリはそのまま言葉を続ける。

「サキ先輩のお家は有名な老舗旅館だって、ミサキ先輩が言ってたじゃないですかー」

「そうだっけ?」

「やだなぁ、ミサキ先輩ったら。あたしをからかおうとしたって、そうはいきませんよ」

 そう言ってアカリは笑っているが、あたしには今ひとつピンとこなかった。彼女にそんなことを言った記憶がないのはもちろん、あたしの活動範囲内にそんな旅館があったなんて話、今まで聞いたこともない。

 と、ふとあたしはあることに気がついた。

「あれ、この景色って……」

 今までマンション群を素通りしたことに気を取られていて気付かなかったのだが、周囲を見回せば、それは見たことのある景色ばかりだった。どうやら科学館へ行った時と、まったく同じ道を歩いているらしい。

 もちろん同じ道を歩いていると言っても、それは今のところは、ということである。科学館までは、この後4つの交差点を、曲がったり通り過ぎたりしなければならない。きっとどこかで、その道から逸れる時が来るだろう。そうは思っているのだが、どうにも先程からあの時と同じ道を辿っているような変な感覚が、あたしの中に渦巻いて離れないのだ。

 あたしは改めて周囲を注視しながら歩く。しばらく行くと、最初のチェックポイントとなる大きめの交差点がやってきた。信号が変わるのを待って、サキは横断歩道を渡ると左に曲がる。右に曲がれば多目的ホールの方向だが、左は図書館と科学館の方向だ。

 同じようにして2つ目、3つ目の交差点をどう進むのかを見ていると、サキはその全てを科学館方面へ向かって歩いて行く。

 そして最後、4つ目の交差点に差し掛かった。視線の先は役所の官舎なので、そこが目的地という選択肢は却下していい。つまり、曲がるとしたら右か左かの2択になる。左に曲がった事はないのでわからないが、右に曲がればその突き当たりに科学館の建物が見えるはず。

 だったのだが――

「なんっ――――?!」

 予想通り右に曲がったサキたちについて右折したあたしは、あまりのことにそこで立ち尽くした。

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