ふたり 4
「先輩! どうしたんですか、急に!」
追いかける久保田に返事をする余裕もないのか、2階へと木村は駆け続ける。
「説明してくださいって……。冴木さんと清野先生との間に何かあるんですか?」
息を切らせて問う久保田の言葉に、木村は一瞬立ち止まる。
「…… ……。」
頭の中では、ある出来事が浮かんで不安が増幅するのを止められない…… 無言で頷くのが精一杯だ。
――晃と清野のこと……。
あれは、木村と晃がまだ中3だった夏。
1学期の終業式を行うべく、集まった中等部生全員の前で晃が、清野のサディスティックな性癖を暴き立てた。
スライドで大写しにされた動物の死骸や、それを口元に笑みを浮かべて解剖する清野の姿。すぐにそのイベントは中止され、晃は学園長室へ引き立てられて行ったが、退場する時、清野に吐きかけた唾の意味を今になって考える。
何故、晃はあんなことをしたのか……。
彼らが中等部1年の頃はむしろ、晃は清野になついていた。
当時、離れて暮らしていた父親が地質学者だったため、晃は理科に興味を持っていたし、理科教務室へ行けば清野は、普段生徒には見せない貴重な資料さえ見せてくれた。
だから、晃は、清野は少しヘンだという噂も気にせず、よく出入りしていた。
それがいつの間にか清野を避けるようになり、気付いたら理科教務室にも行かなくなっていった。
その理由は木村にも分からなかったが、中3の夏のことに符合するのだろうか……と、最近思い始めている。
それ程に、晃は突然清野を嫌うようになった。
――清野は怖い……。
いつか、晃がそう言った事を思い出す。
いつも強気の晃がそう言う事が少し異様だった。
そして、その年の暮れに起こった“事故”のこと……。
高等部の特待生試験に合格したあの日から1週間行方不明だった晃が、2学期の終業式の日に校門近くの繁みから無残な姿で発見された。
当時素行のよくなかった晃の無断外泊は当たり前で、周囲もあまり真剣に捉えていなかっただけに、衝撃は大きかったと木村の記憶にはある。
それなのに、学園側はこれを“交通事故”と言って、緘口令を敷いた。
性的虐待を含む尋常でない怪我と、ショックから記憶を失い言葉も出なくなった晃に、7日の間に何があったのか聞きだす術はなく、事実は分からず仕舞いだったことから、家族も表向きは“事故”であるとした。
しかし生徒の中では、晃は報復されたのだと噂が流れた。
――清野に……。