ふたり 2
「あの……。冴木さん、記憶ないって本当なんですか?」
「そんなことまで知ってんの? ――ったく、人の噂ってヤツは……。」
ひとつ溜め息をついて話し始める。
「“事故”でさ。ひと月位昏睡してたんだけど、目が醒めたら一緒に暮らしてた叔父さんのことも判んなかったらしいよ。おれ達が初めて見舞いに行った時なんか、『だれ?』って言われたもん。雰囲気もまるっきり変わっちまっていたし……。こっちもショックだったけど、あいつはもっとキツかったんじゃないのかな。周りは、知らない奴らばっかりなのに、相手は自分のこと知ってるし……。そりゃ、警戒するよな。結局、当時の友達であいつに受け入れられたの、バスケ部の一林くらいかな。」
他は、ダメ。そう、木村は自嘲気味に笑う。
「え?木村先輩も!? 先輩、冴木さんと仲いいじゃないですか。同じ特待生だし……。」
「仲、いいの……かなぁ? ま。おれ、図々しいから……。あいつのトコ押しかけちゃうし、嫌がられてもメゲナイし……。こっちは友達のつもりでも、あいつはどうなんかな?結構、嫌がってんじゃない? それに、おれも特待生って言ったって、あいつのレベルとじゃ、雲泥の差なんだぜ。並べられるおれの身にもなってくれよ。」
ははは……と、笑って見せる。
「そんなことありませんよ!木村先輩、絵うまいし……。面倒見いいし……。冴木さんだって……。」
必死に2人を擁護する久保田が可愛くて、木村は可笑しくて仕方ない。
「あ。……で、今、冴木さんの記憶って?」
「ん~? 多分、今もはっきりしてないんじゃないかな。とりあえず、生活するには困らないみたいだけど。不思議と、学力的には問題ないらしいし……。9月に入ってすぐの実力テストなんか、ぶっちぎりの1番だったの見たろ? 昔から頭は良かったんだけど、授業なんか受けてないクセにあれだもんな。みんな立場ないよ。それだから、どっかバランスおかしくなっちゃってんのかな?かなり、変人入っちゃって、昔とは別人だけど、おれに言わせれば、それもしょうがないのかなって思うし……。」
『自分は晃の友達じゃない』
そう言っておきながら、誰よりも気遣っているのは木村ではないか……口にしようとしたが、なんとなく久保田は言いだせなかった。