2-1
「本日からお世話になります。ユリアナ・ファルニです。」
侍女として王宮に入った初日。
私はもう辞めたいです。朝の紹介でまあ分かっていたことだけれどいい顔をされなかった。
「なんでもカリス殿下直々のご指名ですって」
「メーリン様の派閥の方でしょう?」
「まあ!それって第一王太子派の家門じゃない!」
「それなのにどうしてかしらね」
ずっとコソコソとこちらを見ながら言われる。
聞こえてる。聞こえてますよー。と心の中で呟く。
...とにかく居心地が悪い。
カリス殿下に早々呼ばれ、殿下の部屋に向かう廊下でもすれ違う使用人たちは私を見る。
その視線をスルーしながら殿下の部屋に入り、私は殿下に変装を施した。
城下町に行くと言うので、目立たない茶髪に黒目、それから顔も少し膨らませた。それから少しのそばかすを入れ、いつもの殿下には見えない姿をつくりだした。
完成し、鏡を渡すと感心するように褒められた。
「凄いな。私が喋っているのに、私だと信じ難い」
だよな、ニッチ。
そう問われた男はあの日私にタオルを渡してくれた男性だった。彼はカリス殿下の護衛の方らしい。
「見事です」
そう護衛の人は一言だけ言葉にすると黙ってしまった。
「じゃ行ってくる」
そう言って、殿下は城の窓から屋敷を抜け出した。
それから何度も殿下を化けさせた。
教えるだけはずなのに、殿下は面倒くさがって一向に覚えようとしない。それどころか変装も私の手でやっているから殿下は目を閉じているだけだ。
これではいつまで経っても変装を覚えられず、私は自由になれないじゃないか。とため息を吐く。
殿下の侍女をすることに慣れてきた頃
「久しぶり、ユリアナ」
そう言って私の部屋の窓から見覚えのない男が入ってきた。
「....久しぶり、リオイ。」
一瞬驚いたけれど、見覚えのある笑顔に、私も嬉しくなって笑顔で迎える。
彼は私に変装を教えてくれた、幼馴染だ。
メーリン様のお屋敷で出会った3歳年上のお兄様みたいな存在の人で私の初恋の相手でもあり、現在進行形で片思い中だ。
彼はよく旅をする少年でどこの家門か教えてくれなかったけれど、よく珍しい薬草や、物を持っていたから何処かの商人の子なのかなって思っている。
会うのは2年ぶりになる。度々旅に出ては急に顔を出すのだ彼は。
「お土産は?」
会って早々お土産を聞く私。それもどうかと思うけれど、彼がいつも私にくれるお土産は楽しみで仕方ない。
「はい、どーぞ」
そう言って渡されたのは隣国にしか咲かない、それも満月の夜にだけ咲くと言われている月光草だった。この草は別名万能草と呼ばれ、あらゆる怪我、病を治すと言われている草だ。本でしか見た事なかった草を実物が見れて気分が上がる。
「わぁー!綺麗!ありがとう!今回の旅はどうだったの?」
そう聞くと彼は嬉しそうに旅の話をしてくれた。
この変装は隣国に溶け込むための変装らしい。
リオイはいつも変装してる。どうしていつも変装してるの?と聞いたら面白いだろ?って言って、私に変装を教えてくれて、すっかり私もハマってしまった。
昔、1度だけリオイに私も旅に連れて行ってとお願いしたことがある。
でもその時にリオイは困った顔で私に謝った。
「一緒に連れていくことはできない」そう言われた。
それからだ。リオイが旅のお土産をくれるようになったのは。
「今回はどのくらいいられるの?」
そう聞くと、リオイは3日と答えた。
「早いね、そしたらまたいつ戻ってこれるか分からないんでしょ?」
そう聞くと、リオイは頷く。
「私もね、色々大変なことが起きたんだよ」
そう言って私は最近起きた出来事をリオイに全部話した。
「_____だから今、カリス殿下の侍女やってるんだあ」
そう告げると突然リオイに腕をつかまれる。
「え!?どうした!?」
そう驚くと、リオイは謎に焦った顔をしていて、「カリス...?」そう呟くので、え?うん。と戸惑いながら頷く。
「てか、カリス様、ね。王太子様を呼び捨てなんて肝が据わりすぎだよー」
「それで...?今仕えてどれくらいなんだ?」
そう私の言葉はスルーで、真剣な顔をして聞いてくる。
「?今まだ1週間くらいかな?」
そう返事をすると、リオイは真剣な顔をして私に侍女を辞めろと言った。
「やめたくても辞められないんだって」
辞めれるもんならとっくに辞めてる。
もー話聞いてた?と言いながら私は彼にやれやれと背を向けた。
「じゃあ逃げよう。一緒に旅に出よう」
背を向けた私の腕を力強く掴む彼に驚いて振り向くと真剣な瞳を私に向けていた。あの日は連れて行って貰えなかったのに、今度は彼から私に一緒に旅に出ようと言う。
「何言って...もう、マーリン様と同じこと言わないでよ」
戸惑う。ずっと行きたかった旅。けれどそれをしたら契約違反だ。そんなことしたらマーリン様にも迷惑をかけてしまう。それを言うならあの時連れて行ってくれてれば...なんて考えがよぎったけれど首を振って消した。
「大丈夫だよ!今は結構慣れてきて、なんとか出来そうな感じがするもの」
心配不要!と腰の手を当てて、自信いっぱいの顔をする。
「...分かった。気をつけるんだ...1ヶ月後には戻ってくるから」
彼はそれだけ言うと用事ができたからもう行くと言って窓からすぐに出ていってしまった。
「....ばか。2年ぶりなんだからもう少し居てくれたっていいじゃない」
取り残された私は次会えるのは1ヶ月後かぁと呟きながら、名残惜しそうにもしないでさっさと帰ってしまったリオイの背中を見つめ続けた。




